負けたくないもの、貫きたい正義(逆ソクラテス/伊坂幸太郎)
大好きな作家さんである伊坂幸太郎さんの最新作。
伊坂さんは大学生の頃に強烈に好きになって、デビュー作からほどんど読み漁り、抑えきれない気持ちをA4の白紙に書き連ねてファンレターを送ろうとしたけど、あまりにまとまりのない未熟なラブレターだったため、結局出せず、そのまま捨ててしまった淡い記憶があります。
久しぶりに読んだ伊坂さんの作品は相変わらず愛おしく、私が信じたいと思っている正義をストレートな言葉で表現してくれていました。伊坂さんの作品はやっぱり素敵で、私にとってヒーローだと改めて感じさせられた一冊。
内容は全て子供が主役の短編5編からなっています。その中でも特に大好きな2つをごしょうかい。
『僕はそうは思わない』(逆ソクラテス)
先入観というものは、自覚していないことがほとんどで、自覚していたとしても、取り除くのが困難な厄介なものです。そもそも、”先入観”という概念がすごい。自分が何かの考えに固執していることに気付き、それが一般的にあるものだと定義づけ、更にそれを世に伝えた人は本当に勇敢だと思うし、さぞ批判を受けたことだろう。でも最終的には今こうして私たちの生活で当たり前に使われている言葉なのだから、誰しもが持ち合わせている感覚であることは間違いない。
今や私たちの生活において、一般的な概念となった”先入観”だが、逆ソクラテスに出てくる安斎くん(小学生!)は、その存在を的確に理解し、先入観に囚われている典型例である担任の先生のそれを崩してやろうと作戦を企てる。
もう安斎くんの頭の良さが小学生のレベルを超えてるし、それに賛同して一緒に作戦を実行するみんなも大人すぎる。現実にこんなに頭の良い小学生がいるのかという気持ちはあるが、その考えのかっこよさと、貫きたい正義に心を打たれる。日常生活の中で自分が言葉にできなかったけど苦しんでいた何かを、伊坂さんはスルスルと言葉にしてくれて、かつそれを一番気持ちの良いやり方でやっつけてくれる。そうだそうだ、いけ!私もそう思うぞ!という気持ちが止まらない。生きていく上で絶対に負けてはいけないものを教えてくれた。やっぱり伊坂さんの作品は私のヒーローだ。
読み終わったあと、自分は自分のままで生きてけると勇気をもらえる大好きな作品。他人の、自分の、先入観に負けそうになった時、深呼吸をして「私は、そうは、思わない」と、ゆっくり口にしたい。
『もし、高城がいじめられっ子だったとしたら、何か変わるか?』(スロウではない)
伊坂さんはこういう気持ちのいい作品を書いてくれるから、本当に大好きだ。もうさっきから大好きが止まらないが、逆ソクラテスとはまた違った気持ち良さがある作品。
伊坂さんといえば、張り巡らされた伏線を全て繋げて、読んでいるうちに自分の頭の中がどんどんクリアになっていき、最後は、もうその言葉しかない、というような一言で締めてくれる。自分の中でうまく言葉にできないモヤモヤとしたものが、どんどん言葉にされていくのが気持ちいい。
私たちは、出会う人の過去について全てを知ることは難しいし、おそらく知る必要もないだろう。でも知りたくなってしまうのも真実で、それに基づいてその人を判断したり、自分の中での定義が変わったりする。今書いていて気付いたが、これも先入観なのかもしれない。でも、ある程度仲良くなった人でも、過去にしていた何かが自分にとってマイナスの印象を持つものであった場合、これまで過ごした仲の良い時間よりも、後から知った過去の事実の方が大きく影響してきてしまうことも否定できない。
自分の感じることはコントロールできないけど、少しでも今自分の目の前にいる人のそのままを見て、愛せたらいいなと思う。過去にその人が何か失敗をしていたかもしれないけど、もし今それをやり直したいと思って頑張っているのであれば、それを受け入れたいし、応援したいと思う。結局、過去の事実は私の目では見れないし、今見えるのは目の前のその人だけだ。だからこそ、その人がどうであるか、人の噂や過去の事実ではなく、自分の目で見て、話して、感じたことを大切にしたい。改めてそう決意させられる作品。
あと、ドン・コルレオーネのやりとりが、作品をより素敵に見せてくれるところ。何だか自分も、その場で一緒に会話している子供になったような気持ちで楽しませてくれる。
伊坂さんの本は、これまで全て文庫で買っていたのですが、今回初めて単行本を購入しました。表紙がとっても素敵で、特に色使いが美しくて好きです。
中身もさることながら、目に入るだけでわくわくする、家に飾っておきたい一冊。
大学生の頃よりは落ち着いて書けたような気がするけど、伊坂さんの魅力とそれを好きな気持ちを伝えるには、全然足りないなぁ。まだまだうまく表現しきれない、未熟なラブレター。(一生熟さないかも)
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