ソートをまとめるプロセスとは? ソートデザインに必要なこと
近年、企業活動においてその重要性を増しているマーケティング手法の一つ「ソートリーダーシップ(Thought Leadership)」。国際社会経済研究所(IISE)の公式noteでは全5回にわたって、ソートリーダーシップの意義や進め方、プロセスなどについて解説していきます。
第1回はソートリーダーシップの全体像を概観、第2回では「ソートリーダー」に求められる条件について解説してきました。この第3回では「ソートをまとめるプロセス(ソートデザイン)」について考えていきます。
キーコンセプトは「共感」と「仲間づくり」
ソートリーダーが決まったら、次はいよいよソートをまとめていくプロセスに入りましょう。
ソートを具体的にまとめていくための道標を考えるうえでは、『星の王子さま』の著者、アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ氏の言葉がヒントになります。
この言葉を聞くと、前に物事を進めていく勇気や、ワクワクする気持ちが生まれてきませんか。
ソートリーダーシップにおける活動全般に通底して重要視されるキーコンセプトは「共感」と「仲間づくり」です。
サン=テグジュペリ氏のこの言葉を、ソートリーダーシップの視点で事業活動に当てはめなおし、さらに要素を因数分解すると、次のようになります(図1)。
「海への憧れ」への「共感」で、仲間が集まる
「広く果てしない海への憧れ」が「ソート」に限りない位置づけとは、どういう意味でしょうか。
下記「図2」の左側は、多くの企業で起きている事業活動の流れを表しています。この通り、例えば<船を造る>といった「目的」のために、事業活動は動き出します。そのために、各ステークホルダーを巻き込みながら経営資源を集め、事業活動を進めていくわけですが……ここは大変に、労力を要するところでもあります。
ソートリーダーシップとは、「図2」の右側(=ソートリーダーシップがうまくいく事業活動の流れ)の通り、ソート(「広く果てしない海への憧れ」)を先に持っていき、そこから各ステークホルダーに「共感」を生み、やがて彼らが仲間になっていく……こうして、事業活動の推進をよりスムーズに進めていくことができるようになります。
この状況を目指すために、ソートがあります。ここでいう「共感」を生み仲間になるステークホルダーには、パートナー企業、従業員、資本家、顧客、その他多くの関係する世の中の人々全般を含みます。
ソートをまとめる3ステップ
さて、ソートをまとめていきましょう。
ソートリーダーの文学的な感性と、アスリート的な感覚の2つに裏打ちされた「哲学・思想」を「言語化、ビジュアル化、ナラティブ化」していくことで、ソートができあがっていきます。
ソートには、それを見聞きした時<未来に「共感」/ワクワクすること>が求められることは、もうすでにおわかりいただけたと思います。
ただし、ソートをまとめていくプロセスに教科書的な「正解」はありません。
ありませんが、参考として代表的な具体例として書き出すと、次の3ステップになります。
1.ソートリーダーの「哲学・思想」をスタートラインにする
これが最初のステップです。ソートリーダーの頭の中にある「世の中をどうしたいか」という思いだけでは、人々の「共感」を生み、新しい事業につながるようなソートにはなりません。
ソートリーダーの頭の中にある思いを、自社の事業や強みにひも付ける形で言語化、ビジュアル化、ナラティブ化し、人々が「共感」できるように分かりやすく具現化していくのが、これ以降のステップで目指すことです。
2. ソートリーダーが中心となって、事業活動内(多くは社内)の「哲学・思想」に基づくソートをまとめていくプロセスをリードする
このステップでは、ソートリーダーの「哲学・思想」に対し、それが該当する領域の情報を収集し、分析していきます。リサーチ結果に基づき、現在のトレンドや市場情報、そして自社の「強み」との関係性を洗い出していきます。
具体的には、以下の取り組みを行いましょう。
・あらかじめ狙いを定めたテーマ、事業領域の情報を調査分析、リサーチする
・現在のトレンド・事業領域の市場規模(SAM/TAM/SOM)を把握する
・実現可能である技術的なアプローチ、ビジネスモデルなどを検討する
・自社の「強み」や経営方針などとの関係性を踏まえ、仮説としての「問い」を立てる
3. ソートリーダーが仲間づくりにつながるための「共感」を得られるように、自らの言葉で語れるように「言語化」する。
ここでは「新規性」、自社の「強み」、市場成長の度合い、パーセプションチェンジ(認識変容)からビヘイビアチェンジ(行動変容)へとつながる戦略などを掛け合わせながら「言語化」を進め、ソートを最終的にまとめていきます。このプロセスを経て、ソートリーダーシップの方針が明確に定まっていきます。
「言語化」において意識しておくとよいポイントは、そのソートがソートリーダーの専門性に基づいたものであるかどうかです。「この人が言うなら、そうかもね」と、思ってもらえることが大切です。だからこそ、ファクトやエビデンスが語られることによる蓋然性を高めることができます。
これまで、自らハンバーガーをつくってきたわけでもないマーケターが、ある日突然おいしいハンバーガーのつくり方を説いても、説得力があるでしょうか。その道の専門家だと認識されるからこそ、人はその話にすぐ説得力を見出せます。ソートはこれと同じ構造です。
さて次回は、まとめてきたソートを「発信」していく活動について考えます。
ソートリーダーシップとマーケティングとブランディング、ソートリーダーシップと会社の経営がどう連携して、どのように関連して、活動を進めていくのか。とても重要なポイントにさしかかってきます。次回で詳しく考えていきましょう。
企画・制作・編集:IISEソートリーダーシップHub(藤沢久美、鈴木章太郎、塩谷公規、石垣亜純)