世界最大級のスマートシティイベント SCEWC2023レポート
国際社会経済研究所(IISE)の芥川愛子です。2023年11月7日(月)~9日(水)、スペインのバルセロナで開催されたSmart City Expo World Congress(以下、SCEWC)についてレポートします。
イベントの概要と8つのテーマ
SCEWCは2011年から毎年バルセロナ市で開催されている世界最大級のスマートシティのイベントであり、都市の未来が議論され、展示される舞台です。世界各国からスマートシティをリードする首長をはじめ、多様なセクターのビジネスリーダーが、数多くの公開ディスカッションに登壇します。展示ホールには国や州、大手民間企業によるパビリオンがずらりと並びます。
主催者の公式発表(※1)によると、今年(2023年)のSCEWCでは、140超の国々、800を超える都市、1,106の出展者、25,300人が参加し、273のセッション(※2)が行われたとのこと。日本からも8名のスピーカーが登壇し、日本の先進的な取組についてアピールしました。
今年のSCEWCのテーマは「Welcome The New Urban Era」
バルセロナ市副市長のLaia Bonet氏は冒頭、今年のテーマ設定について次のように思いを語りました。「世界中で気温が上昇し、生活費が高くなり、民主主義の価値観が問われているこの不確実な時代においては、都市が答えとなる。私たちはBusiness as usual(いつも通りのやり方)の考え方を打ち破る。人々の生活を向上させるために、イノベーションとテクノロジーを活用し、より良いものを創ろうということだ。テクノロジーとイノベーションだけでは私たちは救われない。明確な野心を持ち、グリーンとデジタルの移行を受け入れ、最終的には誰も置き去りにしないようにする必要がある。」(※3)
2023年は2022年の8つのテーマを引き継ぎながらも一部を統合し、「実現可能な技術」、「エネルギーと環境」、「モビリティ」、「ガバナンスと経済」、「生活への実装」、「インフラと建設」、「安全とセキュリティ」の7つに再編しました。そして新たに「ブルーエコノミー」テーマを追加し、海洋生態系の健全性を改善しながら経済成長のため、海洋資源の持続的な利用を促進するにはどうしたらよいか、白熱した議論が展開されました。
日本からも著名なスピーカーが登壇して実績をアピール
日本からの登壇者の多くは「実現可能な技術」のテーマで開催されたパネルディスカッションに登壇しました。つくば市の五十嵐市長は「Data as the game changer for decision making」に登壇し、、日本初のブロックチェーン技術を用いたオンライン投票システムを開発し、地元の高校の生徒会選挙で実証を行ったことなどをご紹介されました(※5)。
スマートシティ・インスティテュート(以下、SCI-Japan)の南雲専務理事と、東京大学大学院情報学環の越塚教授も、「実現可能な技術」テーマで開催されたパネルディスカッション「Data-driven smart city for urban well-being in Japan」にご登壇され、都市に住む人々のウェルビーイングを実現するデータ駆動型のスマートシティについて紹介されました(※6)。
NECからは望月康則コーポレート・エグゼクティブとアーロック・クマール・コーポレート・シニア・バイスプレジデントの2名が登壇しました。望月氏は「Up-to-date Policies for Cities in Motion」と題するパネルディスカッションの中で、NECが日本や欧州などで官民共創、広域連携の経験を数多く有していることを紹介し、具体例として九州の広域連携データ・プラットフォームや札幌のデータ取引市場の事例を紹介しました(※7)。
アーロック氏は「Propelling Urban Living with Enabling Tech」のなかで、日本の優れた防災技術(緊急地震速報、地震津波の予測・警報システム、指定河川洪水予報など)や、インド・中東地域における事例として、14億人が3つのバイオメトリクス認証を統合した国民IDを導入していること、大規模イベントで3,000台の観客輸送用バスの配車管理を成功させたことなどを紹介しました。そして、テクノロジーとブロックチェーンを使うことで、より公平な社会を作ること、市民が生活の中で、より安全で安心になったと実感できるようにすることが目標であると語りました(※8)。
新たに追加されたテーマ「ブルーエコノミー」
新たに追加された「ブルーエコノミー」のテーマでは、世界の都市の65%が沿岸部に存在することから、スマートシティの議論とブルーエコノミーは切り離すことはできない、とする考えを、バルセロナから世界に向けて発信していこうとする意気込みを感じました。バルセロナ市はThe World Ocean Council (WOC)(※9)の本部を擁していることに誇りを持っています。そして、この組織は世界的かつ唯一の民間主導によって運営され、海洋の持続可能性のためのビジネスを追求しています。筆者は、いくつかのパネルディスカッションを聴講しましたが、都市戦略にブルーエコノミーを組み込む重要性、沿岸都市における産業・エネルギーのイノベーションの必要性を何度も耳にしました。そして、「Accelerating Ocean Solutions with a Global Blue Economy」と題するパネルディスカッションに登壇したThe Ocean Opportunity Labのファウンダーは、「海洋と再生可能エネルギーのイノベーターのためのコミュニティプラットフォームとして世界の海洋・エネルギー企業1万社を網羅したインタラクティブ・マップを準備した」ことを知りました(※10)。2023年12月6日時点で、日本の16団体が掲載されています。筆者は、日本には伝統とイノベーションを両立する海事・環境関連企業や沿岸都市がたくさんあるので、今後更に多くの団体が、このマップに掲載されることを望みます。
東京パビリオンと日本パビリオンは盛況
東京都は「SusHi Tech Tokyo」パビリオンで、東京都と協働する民間事業者とともに、最先端のインフラメンテナンス技術やモビリティ、グリーン、スマートシティ関連事業を展示していて、ホールの一番奥にもかかわらず多くの人で賑わっていました。
日本パビリオンはSCI-Japanが主催し、スマートシティを進める自治体や企業のほか、研究機関も参加しました。正面に設置されたステージでは多くのミニセミナーが行われ、国際社会経済研究所の研究主幹である西岡満代は、著書「未来をつくるパーパス都市経営」(※11)の要諦を、事例とともにご紹介しました。各社・各団体の展示卓では、次々に訪れる見学客に説明員の皆様が熱意を込めて説明されているので、立ち止まる人も多く、とても盛況でした。
今後、関係団体からレポートの公開を予定しているので、筆者から内容を伝えるのはこのくらいにとどめ、追って当該ページへのリンクを追加します。