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気候変動における適応技術の社会実装に向けて

2024年2月9日、国際社会経済研究所(IISE)が開催した「IISEフォーラム2024 ~知の共創で拓く、サステナブルな未来へ~」では、各テーマに沿ったブレイクアウトセッションを実施。「気候変動における適応技術の社会実装に向けて」のセッションについて紹介します。国際社会経済研究所(IISE)理事の野口 聡一の冒頭挨拶の後、NEC クロスインダストリービジネスユニット シニアディレクターの池田 敏之 氏、環境省 地球環境審議官の松澤 裕 氏、公益財団法人リバーフロント研究所 主席研究員の中村 圭吾 氏、金融庁 総合政策局総合政策課 サステナブルファイナンス推進室課長補佐の亀井 茉莉 氏が登壇・講演し、慶應義塾大学 理工学部 教授の岡田 有策 氏をモデレーターに、技術の社会実装に必要なことを様々な角度から議論しました。

※本記事の登壇者肩書は2024年2月9日開催当時のものです。


SDGsの3層レイヤーで過去と未来の経済活動を語る ~野口 聡一~

 
SDGsが示す17のゴールを「生物圏(Bio Sphere)」、「社会圏(Society)」、「経済圏(Economy)」の3層レイヤーに整理した国連の「ウェディングケーキモデル」があります。20世紀型の古い開発では、「経済圏」の成長ばかり考えてきました。自然環境を搾取して経済活動を行い、産業廃棄物や有害物質を出します。「社会圏」に対しても、貧富格差の拡大などの悪影響を与えてきました。

国際社会経済研究所 理事 野口 聡一

21世紀型では、これは許されません。自然環境に好影響をもたらす循環型の経済を作っていく必要があります。IT技術を駆使し、経済活動の利益を生物圏や社会圏へ戻し、人への思いを組み込んでいく必要があります。
 
そこで重要になるのが、「緩和」と「適応」の考え方です。今日は、その取り組みを具体的に社会実装していくために、各界の方々の意見をお聞きしたいと思います。

「適応」への投資を促す3つのアイデアとは ~池田 敏之 氏~


気候変動の課題に対応するため、「緩和」と「適応」という2つのアプローチが求められています。「緩和」はそれなりに進んでいますが、「適応」がなかなか進んでいません。
 
例えば、災害時における経済損失や人命救助は「緩和」です。一方、その後の復興に関する議論が「適応」です。復興の過程では、大きな経済的負荷が生じ、膨大な温室効果ガスが排出されます。「適応」への投資を促進するため、私たちは3つのアイデアを提唱しています。

NEC クロスインダストリービジネスユニット
シニアディレクター  池田 敏之 氏

第1は、「いつ起きるかわからない将来の災害に対し、先に防災措置、減災措置を取ること」です。災害の前後を比較して、経済損失やCO2排出をどこまで抑えられるか。その差分を金融商品化し、「適応」への投資を促します。

第2は、「公的資金中心の防災措置に対し、民間資金を入れていくこと」です。気候変動による損害が甚大化し、公的資金だけでは対応が難しくなっています。民間の資金を活用していける仕組みが必要です。

第3は、「防災大国日本の先進的な技術を生かし、グローバルに貢献すること」です。主にグローバルサウスに向けて貢献できる、価値ある取り組みを進めます。

気候変動適応法に基づく政府の取り組み

 
松澤 「緩和」と「適応」は車の両輪です。「緩和」は、例えば「気候変動の原因となる温室効果ガスの排出削減対策」であり、「適応」は「将来予測される気候変動の影響による被害の回避と軽減対策」です。

「緩和」ばかりが先行し、「適応」が追い付いていません。例えば、「緩和」では再生可能エネルギーによる発電事業が進んでいます。回収の見通しが立てやすく、投資しやすいからです。しかし、「適応」は将来リスクへの備えですから、回収の見通しが立ちづらく、投資がなかなか進みません。

そこで、「緑の気候基金(Green Climate Fund)」や「地球環境ファシリティ(Global Environment Facility)」など、「緩和」を進めるための世界的な枠組みが続々と登場しています。国内では、2018年に「気候変動適応法」ができました。

環境省 地球環境審議官 松澤 裕 氏

 岡田 アカデミアを中心とする市民活動も重要です。環境省としては、どのような支援をしていきますか。
 
松澤 アカデミアの研究開発を支援するファンドが登場しています。この動きを支援していく考えです。
 

グリーンインフラによる持続可能な地域づくり


中村 グリーンインフラとは、自然の機能を生かしたインフラ整備のことです。国土交通省はグリーンインフラの官民連携プラットフォームを作り、すでに約1,800社が参加しています。グリーンインフラの評価手法と評価事例を集めた「グリーンインフラ評価の考え方とその評価事例」や、自治体向けの「グリーンインフラ実践ガイド」などの冊子を出しています。
 
英国では「開発事業や公共事業の際に、開発の前後で生物多様性が10%以上向上していないといけない」という法律が、2024年2月から施行されました。どうしても環境を改善できない場合は、それを相殺するために生物多様性クレジットを購入し、逆に生物多様性が増えた場合は、その分のクレジットが創出されます。
 
岡田 クレジットが目的化し、投資しやすいプロジェクトばかりに集中してしまう懸念はありませんか。
 
中村 その対策として、英国では政府がある程度のクレジットを保有し、民間企業に購入してもらうことで資金を調達し、より困難な課題に投資する試みが進んでいます。

公益財団法人リバーフロント研究所 主席研究員 中村 圭吾 氏

サステナブルファイナンスにかかわる金融庁の取り組み


亀井 金融庁では、2023年6月に「サステナブルファイナンス有識者会議」の第3次報告書を発表しました。課題を4つの柱で切り分け、必要な取り組みをまとめています。
 
第1の柱は「企業開示の充実」です。TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)によってリスクを可視化する取り組みを、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)の開示基準にどう反映させていくかが課題になっています。第2は「市場機能の発揮」です。気候変動に関するデータをわかりやすく可視化し、ESG投資に関する知見を広く共有する必要があります。
 
第3は「金融機関の投資先支援とリスク管理」です。国際的な議論を踏まえ、シナリオ分析の手法や枠組みを改善していきます。第4は「金融機関の投融資先支援とリスク管理」です。インパクト投資や地域における気候変動への対応を進める必要があります。
 
岡田 投資というより寄付という感覚で進める手もあるように思います。例えば、神社にまとまった金額を寄付して企業名を掲示してもらうような仕組みは、全国にあります。
 
亀井 ある証券会社の方によれば、地方の投資家に地域のグリーンボンドを紹介すると、「地元に貢献できるなら検討する」という方が結構いるそうです。地元への貢献に感心の高い投資家は多いようです。

金融庁 総合政策局総合政策課
サステナブルファイナンス推進室課長補佐 亀井 茉莉 氏

「適応」に向けた気運を高め、デジタルツインの活用を急げ

 
岡田 最後に2つの提案をしたいと思います。ひとつは、「適応」に関する投資を促進する方策です。地域住民が適応への投資を望むような状況を作っていく必要があります。「地元が自然豊かなまちになってほしい」という気運を醸成すれば、社会は「適応」への投資に向けて動き出すでしょう。

2つ目は、デジタルツイン技術の活用です。同技術で未来のリスクを可視化すれば、「適応」に向けた議論がしやすくなります。

池田 各省庁や民間企業と連携し、様々なユースケースを共有するための「適応ファイナンスコンソーシアム(仮名)」を今年3月に設立する予定です。皆で「適応」の課題を解決していきましょう。

【アーカイブ動画・抄録を公開中】


国際社会経済研究所(IISE)では、当日のセッションの様子を収録したアーカイブ動画および抄録を公開中です。

アーカイブ動画


抄録

https://www.i-ise.com/jp/information/symposium/2024/sym_iise-forum2024_ab.html



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