グリーンインフラ×スマートシティ共催セミナーレポート
こんにちは、国際社会経済研究所(IISE)の篠崎裕介です。ネイチャーポジティブとデジタルの可能性について情報発信をしています。
この記事では、2023年11月14日に渋谷の「hoolps link tokyo」とオンラインのハイブリッドで開催した「グリーンインフラ研究会×スマートシティ社会実装コンソーシアム 第1回共催セミナー」についてレポートします。
セミナーコンテンツ
趣旨説明:国際社会経済研究所(IISE) 篠崎裕介
本セミナーの全体進行は、両団体に所属しています、篠崎にて務めさせていただきました。
私たちの社会・経済の基盤である「自然・生物」は環境リスクにさらされています。世界経済フォーラム(WEF)が毎年発行しているグローバルリスク報告書2023年版においても長期リスクの第4位「生物多様性の損失と生態系の崩壊」として挙げられています。
IISEは、これまで、スマートシティに関する書籍「パーパス都市経営」の発刊、カーボンニュートラルに関して「GX VISION誌」の発行、ネイチャーポジティブに関してIISEフォーラム2023秋で取り上げるなどの発信活動をしてきました。
そうした活動を通して、「スマートシティ」と自然を利用したインフラである「グリーンインフラ」は実現したいことに多くの共通点があることに気づきました。一方で、両活動に関わる方々の交流は必ずしも多くないということも知り、その交流の場を設けることで、それぞれの活動のシナジーや社会実装の促進を狙い、グリーンインフラ研究会とスマートシティ社会実装コンソーシアム 第1回共催セミナーとして開催しました。
詳細は、以下動画をご覧ください。
趣旨説明動画(冒頭~7:40)
グリーンインフラ研究会からの話題提供
「グリーンインフラを知って納得して活かしていくには:温故知新か社会変革か」と題して、東京大学大学院 農学生命科学研究科 教授 吉田丈人 先生より講演いただきました。
グリーンインフラ研究会では、グリーンインフラを以下のように定義しています。
吉田教授の講演では、グリーンインフラが提供する多様な恵みが国内外で劣化していること、「霞堤(かすみてい)」を例に伝統的なグリーンインフラの持つ価値が見直されていることをご紹介いただきました。
その上で、こういった伝統的な「知」を社会変革につなげていくためには、「知る」だけではなく、納得し、行動し活かすことが重要であり、それを推進する取り組みとして自然の恵みと災いから土地利用総合評価のためのデータプラットフォーム「J-ADRES」をご紹介いただきました。
吉田教授講演動画(8:04~)
スマートシティ社会実装コンソーシアムからの話題提供
続いて、「スマートシティは実証から実装へ」と題して、スマートシティ社会実装コンソーシアム コミュニティマネージャー 土屋俊博氏より講演いただきました。
どこかとっつきにくいスマートシティをス(マート)シ(ティ)=スシと称して広めるスシ屋の大将に扮して登場しました。
スマートシティを内閣府では以下のように定義しています。
「高齢化・少子化等にかかる社会課題の波」「物価高に対して上がらない賃金」「AIにとって代わられる働き口」といった状況を克服して、次世代に引き継ぐ基盤となる都市と地域づくりがスマートシティの推進であり、「戦略的イノベーションプログラム(SIP)第3期」「デジタル田園都市国家構想」のような多くの施策が進められていることが紹介されました。
地域ごとに異なる課題を解決するサービスを提供できるようにするには分野間のデータを連携させる必要があります。スマートシティ・リファレンスアーキテクチャが政府から提示されています。
スマートシティを実現するサービスを考えるにあたって「地域の課題」を発見し、理解を深め、解決案を見出し、サービスとして社会に実装していくための場としてスマートシティ社会実装コンソーシアムが紹介されました。
一方で、都市や地域がデジタル化することで、よりよい暮らしが提供されるわけではなく、都市や地域の取り組みにデジタルを使って楽しく関わることで、よりよく生きられる、のではないか?と土屋氏は投げかけました。
土屋氏講演動画(36:54~)
グループディスカッション
2つの話題提供を受けて、現地会場・オフラインそれぞれグループに分かれて、「印象に残った言葉」「よくわからなかったこと・もっと知りたいと思ったことなど気づきや、今後聞いてみたいと思ったことなどをディスカッションしていただき、グループごとの発表をいただきました。
回収させていただいたワークシートを拝見すると、以下のような声がありました。今後のセミナーに反映していきたいと思います。
印象に残った言葉
温故知新。故を紐解いて今にあう形でアレンジしていくことが早道かもしれないと感じた
日本の子供の満足度の低さに驚いた
地域幸福度
持っと知りたい
様々取り組みあるが実証どまりになっていないか?実装のハードルは何か、知りたい
自治体はどうやったら取り組みたくなるのか?
スマートシティの持続可能性。誰がお金を出すのか/需要と負担
気づき
スロー・デジタルとグリーンインフラは相性がいいのではないか
グリーンインフラもスマートシティも人口減少社会の中で住みよい地域をつくるための手段であるという共通点に気づいた
グリーンインフラは特殊なものではなく身近なものであると気づいた
グループディスカッション内容の発表の様子(1:08:46~)
閉会コメント
最後に、グリーンインフラ研究会運営委員長 北海道大学農学部 教授 中村太士先生より閉会の挨拶をいただきました。
土屋氏の講演の中でもあった内閣府のSIP3の一つのテーマとなっている「スマートインフラマネジメントシステムの構築」の中でも、スマートなインフラが整備されるだけで、幸せになれるのか?という問いはあり、グリーンインフラ、ウェルビーイングがサブテーマとなっているが、それがどのように社会に実装できるかは、本日のような場も活用しながら継続的な対話が必要と、述べられました。
閉会後挨拶:中村先生(1:18:23~)
Editor's Opinion
吉田先生の講演でも触れられていたIPBES*による「生物多様性と生態系サービスに関する地球規模評価報告書 」では、約150名の専門家による1.5万以上の科学論文などを分析した結果を取りまとめています。その結果を簡単にまとめると以下のようになります。
このレポートの中で、付属資料4として不足している知識の一覧表(案)が提示されています。以下がその概要となります。
2023年9月18日、TNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures, 自然関連財務情報開示タスクフォース)の最終提言が発表されました。TNFDは企業や金融機関に対し、自然資本および生物多様性への依存と影響、それに伴う事業機会とリスクの情報開示を求める国際的なイニシアティブです。
TNFDは、世界の金融の流れを自然にとってマイナスの結果から自然にとってプラスの結果へとシフトさせるようサポートすることを目指しています。
IISEはGX VISION誌の中で、気候変動の問題に取り組む上でのデジタルの貢献として「見える化」「分析」「対処」とその仕組化というポジティブ・スパイラルを提唱しました。
TNFDのフレームワークが公開されたことは、先のIPBESのレポートが指摘する知識の不足の解消に向けて社会・経済が動きだした、ということでもあります。これは共通のフレームワークで自然に関する情報がデータ化されることでDX(デジタルトランスフォーメーション)への道筋が開かれたとも言えるでしょう。
おわりに
以上、2023年11月14日に渋谷の「hoolps link tokyo」とオンラインのハイブリッドで開催した「グリーンインフラ研究会×スマートシティ社会実装コンソーシアム 第1回共催セミナー」についてレポートしました。
このほか弊社IISEの環境関連の記事は以下にまとめておりますので、よかったらご覧ください。