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【堀江貴文×野口聡一】日本版スターリンクで時価総額1000兆円超も。衛星ビジネスの無限の可能性

「宇宙というと『夢や希望がありますよね』だとか、そんな話を期待されますが、僕のなかでは宇宙はもう完全に事業になっています」

こう断言するのは、実業家で、ロケット開発に取り組むベンチャー、インターステラテクノロジズ株式会社 取締役・ファウンダーを務める堀江貴文さんです。

国際社会経済研究所(IISE)が2月9日に開催した「IISEフォーラム2024 ~知の共創で拓く、サステナブルな未来へ~」では、堀江さんをゲストとしてお迎えし、基調講演とパネルディスカッションで宇宙産業を注視すべき理由やビジネスの構想を語っていただきました。


ロケット不足が宇宙開発のボトルネックに


堀江さんが取締役・ファウンダーを務めるインターステラテクノロジズ(IST)はロケットの飛行中に観測や実験などを行う、観測ロケット「MOMO」を開発し、これまでに打ち上げを3回成功させました。そして現在は、人工衛星の打ち上げ専用ロケット「ZERO」を開発しています。

(宇宙ビジネスの最新動向を解説する堀江貴文さん)

基調講演で堀江さんは、宇宙ビジネスが夢物語から現実のものとなりつつあることを、SpaceXの衛星通信サービス「Starlink」を例に挙げて説明しました。

「Starlinkはトンガの海底火山の噴火やロシアとウクライナの戦争、能登半島地震などで、世間に有用性が認められ、数百万人のユーザーを獲得し、キャッシュフローベースで黒字化を達成しています。SpaceXの決算全体も来期から黒字化するのではないかと言われています。このように、SpaceXは(ロケットや衛星は)ビジネス的に大成功することを証明しました」

SpaceXは5000機以上のStarlink衛星を打ち上げ、世界中に高速なインターネットサービスを提供しています。将来的には4万2000機のStarlink衛星を打ち上げる計画が発表されています。

このように、多数の衛星を連携させて運用するコンステレーションの構築は、競合企業を圧倒するスピード感でロケットを打ち上げられるSpaceXだからこそ実現できたことであり、打ち上げ機会の不足が宇宙ビジネスの加速を阻んでいると堀江さんは指摘します。

「SpaceXは毎週のようにロケットを打ち上げています。そういうエコシステムを作ることに成功したからこそ、大量のStarlink衛星を打ち上げられるんです。とにかく宇宙開発のボトルネックになっているのは、ロケットの打ち上げ回数が不足していることだと理解してください」

堀江さんによると直近20年は、国内の打ち上げ需要の51%しか日本国内のロケットでは打ち上げられておらず、需要は海外の市場に流出しています。世界的に見ても、安定してロケットによる輸送サービスを提供できる宇宙機関や企業は限られているなか、日本の企業も多く利用していたロシアのソユーズロケットが国際情勢の悪化により利用できなくなり、衛星の打ち上げ機会はさらに減ってしまいました。

スマホの登場が衛星ビジネスの転機に


一方、衛星の打ち上げ需要は急増しています。その転機となったのは、スマートフォンの登場でした。スマートフォンのアプリやゲームで傾きや回転を検出しているのは、シリコンチップの「ジャイロセンサ」です。従来のジャイロセンサは大掛かりな機械部品で、ミサイルやロケット、潜水艦などにしか使われていませんでした。

ところが、スマートフォンの登場により、ジャイロセンサをはじめとする特殊なセンサが小型化し、大量かつ安価に製造されるようになりました。これらのセンサを使えば、軽くて安い衛星を開発できます。宇宙機の開発はハードルが高いと考えられがちですが、堀江さんは「スマートフォンは空を飛んだらドローンに、宇宙に行くと人工衛星になります。スマートフォンに姿勢制御装置を付けて、宇宙に飛ばせば衛星になるんですよ」と話しました。

続けて堀江さんは、「我々インターステラテクノロジズも衛星を使ったビジネスをやっていこうと考えています」と、様々なビジネスアイデアを紹介しました。なかでも、大量の小型衛星をフォーメーションさせながら飛ばし、宇宙で作る巨大なアンテナは「Starlinkの次に来る革新的なシステム」だといいます。

「例えば、ピンポン玉サイズの衛星を100万基打ち上げれば、バスケットボールコートサイズぐらいの大きさのアンテナができます。通信のスピードは、地上局の大きさ×宇宙の基地局の大きさ×電力で決まりますから、つまり、宇宙の基地局のアンテナを大きくすれば、アンテナと電力が小さいスマホでも当然ブロードバンド通信ができます。これをStarlinkの次のシステムとして考えております」

実現すれば、離島や山間部など僻地のネットワークは衛星通信に置き換わる可能もあるといいます。

さらに、大容量かつ高速の通信が可能な衛星間光通信や地上と衛星間の光通信が普及すると、インターネット回線のバックボーンは宇宙に置き換わるのではないかと堀江さんは話します。特に国際情勢の悪化による海底ケーブルの破壊といった懸念も、衛星を活用すれば払拭できます。

そのほか、地球観測衛星も機数を増やして、地表をリアルタイムでとらえられるようになれば、世界中のクジラが潮を吹く様子をとらえ生態系を調査できるようになることや従来の原子時計よりも正確な光格子時計を搭載した測位衛星を24基打ち上げれば、GPSよりも高精度に位置の測定ができることを説明しました。

とはいえ、肝心のロケットの開発や製造は簡単なことではありません。技術の総合格闘技とも言われるロケットを支えているのは、部品を製造している中小企業です。ロケット製造のサプライチェーンには脆弱性があると堀江さんは指摘する一方で、ロケットが頻繁に打ち上げられるようになれば解決でき、さらにはロケット開発と共通する技術を持つ自動車業界の企業にもメリットがあるといいます。

「部品を作っている中小企業から、1年に数回しか打ち上がらないロケットのために、特殊な製造ラインを作るなんて『儲からないからやめるよ』と言われてしまったら、日本のロケット開発はそこで途切れてしまいます。我々がロケットをたくさん打ち上げて、大量生産と言えるくらい部品の需要を生み出せるようになると、部品の製造会社は生産を続けてくれますし、ロケット自体のコストも当然下がるでしょう。特にこれからは、自動車産業はEVの時代に入っていきますので、部品点数が飛躍的に下がり、自動車のガソリンエンジンのサプライチェーンに関わる企業はどんどん消えていってしまいますが、彼らが宇宙産業に新しい活路を見出せるようになると思います」

これらの構想を実現させるには、やはり衛星を宇宙へと運ぶロケットが高頻度に安定して打ち上げられる必要があることを説明したうえで、堀江さんは「宇宙の活用像全体のうちのわずか数%の話しかしていないのですが、これだけビジネスの可能性があります」「宇宙は30年前のインターネット黎明期のようなビッグバン直前の状況にあります。10年後には私が言った世界が必ず実現していると思いますので、ぜひ期待して待ってください!」と意気込み、基調講演を締め括りました。

宇宙ビジネス、2035年に200兆円市場へ

(左から、榎本麗美さん、堀江貴文さん、野口聡一さん)

続くパネルディスカッションでは、IISE理事の野口聡一さんがパネリスト、宇宙キャスターの榎本麗美さんが司会として加わり、堀江さんが基調講演で語った内容を深掘っていきました。

野口さんは、自身が主任フェローとして参画する世界経済フォーラムにおいて、世界の形を大きく変える要素のひとつとして宇宙が挙げられ、市場が急激に伸びていることを説明しました。

「いくつかの企業が数年前、宇宙市場は2040年に140兆円規模に成長すると予測していましたが、世界経済フォーラムの最新の資料では2035年に200兆円規模になると予測されています。この伸び代のほとんどは、堀江さんが先ほどおっしゃっていたようなアプリケーションへの期待値なんですよ」(IISE理事 野口聡一さん)

野口さんのコメントを受けて、堀江さんは基調講演で紹介した光格子時計を搭載した衛星や小型衛星のフォーメーションフライトの活用アイデアをさらに詳しく紹介しました。

(インターステラテクノロジズ取締役・ファウンダー 堀江貴文さん)

「光格子時計で時間を正確に計れるようになると、重力波の測定もできるようになります。ブラックホールがあると空間が歪むというじゃないですか。歪んだ空間を観測できるんです。時間の歪みを作れるとワープできるんですよ。だから巨大な重力波を作ると時間が歪むので、ワープできるじゃないですか。まだ巨大な重力波を作る技術はありませんが、まず観測する技術がないと本当に重力波が歪んでいるかどうかわからないじゃないですか。つまり光格子時計は、ワープへの第一歩なんです!」

「(小型衛星のフォーメーションフライトで構築した)直径10kmの巨大なアンテナを深宇宙に向けると、例えば地球と似た環境の星を直接観測できるんです。つまり、何十光年も向こうにある地球型惑星の姿を気象衛星ひまわりぐらいの解像度で撮れるんです。そうしたら、その星に海や雲があることや、もしかすると人間がいるかも! といったことがわかります」(インターステラテクノロジズ取締役・ファウンダー 堀江貴文さん)

ワープや地球外生命体の探査というとSFの世界の話のようですが、小型衛星のフォーメーションフライトを使った日本版Starlink構想の勝算を聞かれると、堀江さんは具体的な数字を挙げて説明しました。

「通信衛星は大型旅客機のマーケットと似ていると思います。大型旅客機のメーカーは、ボーイング、エアバス……グローバルで10社もありません。1桁ぐらいの会社しか生き残れないんです。その会社のうちの半分ぐらいが、こういった(大規模な)ビジネスをやるので、やはり4、5社で寡占するマーケットになります。(小型衛星のフォーメーションフライトで)モバイル端末と直接ブロードバンド通信ができるサービスも同じようなマーケットになるでしょう。そうすると、1社当たり年間50兆円から100兆円ぐらいの利益を上げるビジネスになるので、時価総額が1000兆円を超える企業が4、5社できます」(インターステラテクノロジズ取締役・ファウンダー 堀江貴文さん)

こうした堀江さんのアイデアや勝算を聞いた野口さんは、改めて打ち上げ能力の確立が重要だと説明しました。

(IISE理事 野口聡一さん)

「一番大事なことは、宇宙に物資を輸送するインフラとしてのロケットの確保ですね。堀江さんにお話していただいた物語を実現するためにも、日本の経済安全保障の基礎要件としても、安定したロケットの供給と地上設備の充実が必須になってくると思います」(IISE理事 野口聡一さん)

また、堀江さんは、ISTが開発している衛星の打ち上げ専用ロケット「ZERO」には、同社が拠点を置いている北海道・大樹町の牧場で排出された家畜の牛糞から生成した、地産地消でサステイナブルな液化バイオメタンを燃料として採用し、すでに燃焼試験を行っていることを紹介しました。

パネルディスカッションの終わりに、野口さんは「第4次産業革命の新しい波の中で、宇宙は、非常に大きな可能性が見えてきています。そこに日本ならではの技術力とイノベーションをいかに入れられるか。地上で起こっている様々な社会問題を全て宇宙で解決していけるといいなと思わせるような、堀江さんのお話でした」と基調講演とパネルディスカッションの内容をまとめました。

(会場の様子)

企画・制作:IISEソートリーダシップ「宇宙」担当チーム
文・取材:井上榛香(宇宙ライター)


【アーカイブ動画・抄録を公開中】


国際社会経済研究所(IISE)では、当日のセッションの様子を収録したアーカイブ動画および抄録を公開中です。

アーカイブ動画


抄録

https://www.i-ise.com/jp/information/symposium/2024/sym_iise-forum2024_ab.html



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