どんぐり経済学
唐突にどんぐりの話。
そして少しだけ経済について話してみる。
僕は専門家でもないし、難しいことはよく分からない。経済学なんて大それたものは語らない。
すごーく単純な幼稚園のころのエピソードを。
幼稚園児でも経済の中で生きてるんだ、って。
そんな思い出話。
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どんぐり。
魅力的なフォルムをしていて、硬さ、大きさもいい感じの木の実。
幼稚園児から小学生2-3年くらいまでかな、公園とかで見つけてはよく拾った。
きれいな石とかもそうなんだけど、なんか拾って帰りたくなるんだよね。
人間に刷り込まれたコレクション本能とでも言うんだろうか。
幼稚園に通ってた頃、僕らはどんぐりのとりこだった。
僕は東京の街中で育ったので、"どんぐり"というものは結構な貴重品だった。
友達と「あの公園にはたくさんどんぐりが落ちてる」とか、そんな情報を共有したりして。
幼稚園が終わってから、必死にどんぐりを拾い集めるだけの日もあった。
だいたい、どんぐりって、拾ってそれで終わり。
集めるのが楽しいくらいで、それで何か作品とか料理を作ったりするわけではない。その成果物をまじまじと見返すこともそんなにない。
すごーく無駄な部類のコレクション。
それが楽しいんだけどね。
ある日のこと。
どんぐりが欲しい、という友達がいた。
別にタダであげても良かったんだけど、僕にとっては苦労して集めたどんぐり。
なにかと交換がいいな、と思った。
交渉の末、その子は確か、いい匂いのする消しゴムみたいなものをくれたと思う。
「どんぐり10個」と「いい匂いの消しゴム」を交換こ。
当時の僕は、一流の商売人のような気持ちで消しゴムとどんぐりを交換した。
幼稚園児というのは、友達が持っているものが羨ましくなったりする。
次々と、どんぐりを欲しがる子が現れ、その「どんぐりと何かを交換するシステム」は少しの間、流行った。
僕は、どんぐりをたくさん持っていたので、色々なものを手に入れた。
いい匂いの消しゴム、青いクレヨン半分、きれいな葉っぱ、まるい石、松ぼっくり、ビー玉、そんな感じのラインナップ。
幼稚園に2台しかない三輪車は、休み時間取り合いだったが、どんぐり数個で並ばずに借りれたこともあった。
正直、いま考えると、どれも自分が欲しかったものかはよく分からない。
ただ、その交換するという行為が楽しかった。
きっとお金持ちというのはこういう気持ちなのだろう。なんかお金があるから使ってみる、みたいな。
要するに、僕は裕福だった。
どんぐり10-15個で何でも手に入る、富豪幼稚園児。
だが、間もなく、僕の富豪生活は終わることになる。
ちょうど、幼稚園で遠足があった時のこと。
行ったことのない大きな公園で、みんなでお弁当を食べて、たぶん1時間くらいその公園で遊んだ。
その公園には、たくさんのどんぐりが落ちていた。
もう大人の皆さんは予想がつくかもしれない。
僕は、翌週にショックを受けることになる。
みんながどんぐりを持っている。だから、どんぐりを欲しいと思う友達が以前より全然いない。
これまで、どんぐりは貴重だった。
僕と数人の友達しか持っていなかったから、10-15個でクレヨンや消しゴムが手に入ったんだ。
でも、もう皆どんぐりをもっている。
もう以前の相場ではみんな交換に応じてはくれない。
たぶん一回の交換に50個とかが必要になってた。(正確には50とかは数えられなかったので、なんか両手にいっぱいみたいな感じだった)
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まだ話には続きがあるんだけど、とりあえず、ここまで。
これって、「経済学的なもの」を実体験した、貴重な出来事だったと思う。
要は、どんぐりは僕らにとってのお金だったわけだ。
僕らの周りに流通する通貨で、幼稚園内では発行することができない(拾えない)通貨。
新しくお金が印刷できないって状況は、物価はとても安定する。
裕福な人は裕福なまま、貧乏な人は貧乏なまま。そんな感じがある。
僕は、どんぐりをたくさん持っていて、とても安心感があった。
だが、遠足に行ったことで、どんぐりの流通量が増えた。
これは、日本銀行がお金を印刷して、市場への流通量を増やしたようなものだと思う。
こうなると、「どんぐりの価値」が下がる(前と同じ消しゴムを交換するのに、たくさんのどんぐりが必要になった)。
実際のお金でこれが起こると、インフレというんだろう。物価の上昇。
インフレが起こると、貯蓄をしていた人はとても不満を感じるよね。買えるものが減るんだから。かといって、貧乏な人にとっても、お金がたくさん必要になるので大変だ。
そして何より、「価値の低いお金」を集めることが馬鹿らしくなる。
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せっかくなので、最後に考察的なものを。
日本は、いま、コロナ不況でお金を必要としている人がたくさんいる。
給付金を配るとして、財源はどうするのかとか、お金を印刷すればいいとか、いろんな意見を見るけど、どうしたらいいのかな。
僕にはよく分からない。
というか、たぶん専門家と呼ばれる人もよく分からないのだと思う。
僕よりはたくさんのことをわかる上で、よくわからないんだ。
素人の立場を利用して、専門家なんだから良い意見を出せ、と批判するのはた易いことだけど、素人もそれなりに考えることが、世の中のためになるんじゃないかなと思うんだ。
「専門家よりさらによく分からない素人の僕」なりに、このどんぐりの体験は一つの教材になるんじゃないかなと思っている。
お金がないなら印刷して配ればいい、というのはやや乱暴な考えかもしれない、と。
手元のお金が10万円増えたけど物価が2倍になった、なんてことになったら、全然笑えないもんね。
ただ、経済っていうのは単純じゃないみたいで。
そうやって印刷して配っても大丈夫なパターンもあるみたい。
いま僕が書いたどんぐりの話だけだと、いかにも、
「お金を新しく印刷して給付金として配るなんてとんでもない!インフレが起きてしまう!」みたいに思うかもしれないけどね。
でも、この話には続きがあるんだ。
だから僕は、お金を新しく印刷することがそのまま物価上昇につながる、とは思わない。
幼児の狭いコミュニティですらそうだったんだから。国となると、きっとそんな単純じゃないんだろうね。
また、気が向いたら、この続きを書かせてもらいたいな。
どんぐり経済学。
とりあえず今回は、そんな感じ。
今日も読んでくれてありがとう。
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