
「導きのレッスン」 詩の全文
a lesson for emotions
わたしの葉を揺らす風が聴こえますか
それを感じるのはどこですか
指 唇 それとも骨
わたしの幹を通る水と
あなたの身体を流れる水の
違いは何ですか
わたしとあなたの間にある
距離というものは何ですか
あなたの身体のどれかを使って
わたしに尋ねてください
恥ずかしければ心の中で
できれば少しの間
目を閉じて
想像の手を伸ばしてください
それはあなたとわたしを結ぶ道
わたしはこの
色や匂いや味
姿 形 時間
すべてを連れて
あなたに触れに行くでしょう
わたしを覗くあなたの目が
文字の上を通るとき
あなたの時間は
どこを過ぎていきますか
思い出してください
まだ小さな苗だったとき
日照りの過ごし方と
新芽を出すべき朝を
教えてくれた
二匹の蜂の兄弟のことを
思い出してください
手入れをしなければ
荒れ果ててしまうからと
伸び過ぎた枝を払い
額の汗を拭っていた
青空のような横顔を
思い出してください
最後の取引を終えた部屋で
がらんどうの棚にひとつ
残された繭の話を
一晩中聞いた日のことを
思い出してください
100年生きた蜜柑の実を
夏がくるたび受け取っていった
大小さまざまの
柔らかな手を
わたしには見える
あなたの瞼の奥
後頭部のやや斜め上に
雲のように形をとりつつある
わたしたちの思い出が
その雲からはどんな光が
その下にはどんな風景が
私がここにいなくなった
そのあとは
風は笑っていますか
あるいは
それとも
忘れないでください
この道の続きを
あなたは歩いていることを
色や匂いや味
姿 形 時間
すべてが忘れ去られても
この道は
なかったことにはならないから
手を伸ばし続けてください
この道は
なかったことにはならないから
a lesson for perspectives
長い映画の中にいる
廊下を行き交う影たちの瞼から瞼へと流れていく
なめらかな光のようなもの
それはすべて
今、ここで
瞼を開くための物語
私たちは生きています
燻された土の塊が
恐るべく炎と情念から
あなたがたの住処を守るために必要とした
脚本の中に
私たちは生きています
山を穿ち太古から汲み上げた
人新世の地層が
ぬかるむ凸凹を
覆い尽くしていった
あなたがたの欲望と共に
歌ってください
奏でてください
映してください
描いてください
紡いでください
導き導かれるところである
その道を
/
空色の残像が 網膜から溢れ 中庭を侵食する
現存在の氾濫に 為すすべもなく沈黙する( )
ただひとつのうた
うたうためひとの
くちはひとつきり
無辺にひらかれたあなたがたの見る夢を
鏡の中の住人である私たちが
理解できようとは思わない
まして言葉で語れるなどと
だがしかし今だけは
許してはもらえないだろうか
幾度も生まれ変わろうとする
この場所を言祝ぐために
うたいたいようた
うたわれたいよう
いたいたいずっと
a lesson for expressions
ここから見えるものすべてを言葉にして説明してください。
ただし次の言葉は使用不可とします。
植物 草 雑草 花 木 灌木 岩 石 葉 芝生 春 夏 秋 冬 雨 風 雲 空 土 地面 空気 メヒシバ エノコログサ紫陽花 家屋 建物 屋根 窓 扉 壁 樋 軒 配線 木枠 側溝 室外機 瓦 パイプ 砂利 焼きもの スロープ 手すり コンクリート アスファルト スチール 鉄 木材 プラスチック ガラス フィルム 金属 白 黒 赤 青 黄 緑 橙 肌色 茶色 水色 灰色 シンメトリー 曲線 直線 垂直 並行 斜め 傾斜 有機的 無機的 平らな 凸凹 ざらざら すべすべ つるつる ふわふわ もしゃもしゃ かちかち ふわふわ 人工物 改装 工事 道 坂道 通路 駐車場 資料館 博物館 養蚕 伝統 歴史 文明 技術 文化 美術 アート 展示 言葉 文字 瞳 視覚 中庭 屋外 豊田市近代の産業とくらし発見館 豊田市 愛知県 東海 日本 アジア 地球 自転 大地 地上 現代 現世 世界 今 晴天 曇天 雷雨 午前 正午 午後 昼下がり 夕方 静かな 誰もいない まばらな人 向かい側 L字の 濡れている 乾燥している 行き止まり 封鎖された 見る 聞く 歩く 眺める 立ち止まる 考える 気づく 覚えている 思い出せない 懐かしむ 振り返る 立ち去る
とよたまちなか芸術祭2024にて、展示した言葉のインスタレーション「導きのレッスン」の詩の全文の記録。詳細は順次別記事にて紹介予定。