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なゆた(獅子座)
2020年2月14日 08:44
改めて暇を告げ戸を閉めると屋敷の主が準備した牛車が門の前に待っていた司さまこちらになります従者が促すのに軽く頷き歩き出した絵所司の目の前をふわりと微かな気配が過ぎる反射的に手で払うと絡み付いたのは細く白い蜘蛛の糸いったいどこから、と見上げれば門に掛かる庭木の上からプツリと切れた一本の糸が吹き抜ける風に頼りなくふわりふわりと揺れていた蜘蛛か誰にともなく口にす
2020年2月13日 12:33
絵を描きはじめて数刻が過ぎ太陽が西に傾きはじめたくれてゆく日差しに絵所司はかたりと筆を置くそろそろお暇致しましょう絵師司が口にすると主人は少し慌てたようすで引き留めにかかる素晴らしい絵をありがとうございましたさぞお疲れのことでしょう少し拙宅にてお休みになられてくだされ後程家の者に送らせましょうあからさまな誘い文句に苦笑しつつ断りの口上を並べると屋敷の主はさらに言い
2020年2月12日 20:57
さらさらと筆を動かす音が響く美しい庭ですね目線は庭に向けたまま絵師が小さく呟くのを屋敷の主人は嬉しそうに頷くこの季節は特に美しいのです屏風に仕立てればいつなりと楽しめますから誇らしげな主の言葉に相槌をうちながらも筆は止めない黒い薄物からのびるすらりと白く細い手首は一分の迷いもなく筆を動かしている真剣な横顔が美しいその絵師は時の右大臣家の直系第七子にして末子であ
2020年2月11日 17:36
陸の辻に鬼が出る終いの見えないほど長い鬼の行列が月の無い夜に衛士がひとり拐われた残るひとりは狂ったそうなあなおとろし陸の辻に鬼が出る長い鬼の行列が何の行き先は口が裂けても云えやしない***********************朝霧のなか足音もたてず走りゆくのは首の後ろでざんばらに髪をくくり襤褸の着物から細い手足を長く晒す年の頃は拾四伍の少年息のひとつも