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【オススメ小説13】ありそうでなかった愛のSF短編集『わたしたちが光の速さで進めないなら』
古典的なテーマを扱いつつ新たな答えを導くありそうでなかったSF
宇宙人、宇宙飛行、惑星移住、死後の魂、感情をコントロールする機械
使い古されたテーマを新進気鋭の感性で描く……。
こんにちは、名雪七湯です。今回の記事では韓国の今をゆく作家さんの『わたしたちが光の速さで進めないなら』を取り挙げたいと思います。
1、どんな本か、あらすじ
『わたしたちが光の速さで進めないなら』早川書房 2020
金草葉(キム・チョヨプ)著 カン・バンファ、ユンジヨン訳
著者の金草葉さんは韓国の作家さんで、今作は韓国の書店による「今年の作家2020」に選出されました。また、収録作の『スペクトラム』は「はちどり」に改題されキム・ボラ監督により映画化されました。
『館内紛失』で第2回韓国科学文学賞中短編部門大賞、『わたしたちが光の速さで進めないなら』で佳作を受賞し、今作がデビュー作になります。「今」を駆けゆくみずみずしい感性で書かれた一作。
以下、簡単なあらすじになります。
『巡礼者たちはなぜ帰らない』
成人すると「始まりの地」に巡礼する慣例がある。しかし成人者には「始まりの地」から帰って来ない人もいた。「始まりの地」にあるものとは?
『スペクトラム』
とある惑星に遭難したヒジン。宇宙人と初めて接触したヒジンと地球外知的生命体のルイ。人類の文化とルイたちの文化に見える美しさとは?
『共生仮説』
赤ちゃんと赤ちゃんの頭の中にいる宇宙人(?)の不思議な共生のお話。
『わたしたちが光の速さで進めないなら』
遠くの星に移住してしまった家族をいつまでも愛する彼女のお話。
『感情の物性』
感情を生み出す物体。どんな感情でも取り揃えており、喜び、幸せ、そして鬱。「鬱」という感情をお金を払ってまで生み出す価値とは?
『館内紛争』
死後、死人がデータとなり会話ができる世界。出産を前にし複雑な心境を抱くジミンは嫌いな母に会おうとするが、母のデータは館内紛失してしまったという。なんとかして母にどうしても投げ掛けたかった一言とは?
『わたしのスペースヒーローについて』
宇宙の彼方へ向かう人類初の宇宙飛行士ガユンのお話。
2、テーマとしての「愛」
7つの短編が収録されている一冊ですが、共通するテーマは「愛」だと思います。愛は愛でも様々な「愛」の形が表現されています。
私が一番好きな『館内紛失』では、ジミンは母のことが嫌いです。
けれど、ジミンはある一言を伝えたく母のデータを探そうとします。
その綺麗で綺麗で仕方ない一言についてはぜひ、一読して体験して頂きたいのですが、その一言には「好き」や「嫌い」という枠組みには当てはまらない「愛」が表現されています。私はこの作品が愛おしくてたまりません。
表題作『わたしたちが光の速さで進めないなら』では、遠くの星に移住してしまった家族を永遠に愛し続けるという一方的な愛を描きます。誰にも理解されない愛。自分でさえ理解できない愛。愛が人を突き動かすこと。
今作ではSFという現実から離れた世界を描きますが、普遍的な「愛」を問題にします。そして、描かれる世界はみずみずしい感性で溢れており今までにない世界観を体感できます。遠くの宇宙に憧れるわくわく感と、愛し合うだけではない様々な「愛」が魅力の一作となっています。
3、最後に
SFというと小難く触れ難いジャンルに感じられますが、短編で読みやすく普段SFを読まない人にもオススメできる作品です。装丁も可愛くさらさらとした触り心地の本ですので、是非紙で手に取って頂きたいです。
最後までお付き合いありがとうございました。
またどこかでお会いしましょう。
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