【オススメ小説15】女性同士の熱烈な愛を詩的に描く『生のみ生のままで』
本当に好きになるとは?
女性同士の強烈な愛し合いを描いた作品
詩的な表現とドラマチックで激しい展開
こんにちは、名雪七湯です。今回の本紹介は綿矢りささんの著書『生のみ生のままで』<上・下>を取り扱いと思います。
1、本情報、あらすじ
『生のみ生のままで』<上・下>綿矢りさ著 2019 集英社
17歳にして第38回文藝賞を受賞した『インストール』で作家デビューし、2004年に『蹴りたい背中』で第130回芥川龍之介賞を受賞した綿矢りささんの最新作であり、今作で第26回島清恋愛文学賞を受賞した。
2001年から作家活動を続ける彼女の、セクシュアルという現代の問題に向き合った新たな境地の一作になります。
以下、あらすじになります。
二十五歳の南里逢衣は憧れの先輩、丸山颯と付き合っていた。お盆休みに二人で訪れた湯沢のリゾートホテルで、芸能人の荘田彩夏と出会う。彩夏もまた中西琢磨と付き合っていたが、彼女は強烈に逢衣に惹かれ徐々に距離を詰め始める。逢衣は彩夏からの告白に戸惑いつつも彼女に魅了され……。
2、【魅力1】展開の激しさ
女性同士の恋愛作品には二種類あると思います。
・そもそも女性が好きな女性同士の恋愛
・どちらも異性愛者だったけれど女性同士惹かれる恋愛
今作は後者で、どちらも異性にしか興味がない状態から惹かれ合います。
ゆえに、爆発するかのような感情の起伏があり、激しい展開の一作になっています。同じホテルで数日を一緒に過ごしただけで、彩夏は逢衣に一気に惹かれます。彩夏が芸能人ということもあり、展開は劇的に進みます。
二人の心理にリアリティがないという感想も散見されますが、フィクションならではの白馬に乗った王子様のような、ドラマチックで鮮烈な展開がこの作品の魅力であると私は考えます。
一方で、現代で「セクシュアル」の問題に向き合うという、繊細な心理が表現されています。物語は逢衣の一人称語りで進みますが、二人の考えの些細な違いや、今まで女性を好きになったことがない不安、周囲からの反発という壁にぶつかった時の機微の表現が圧倒的です。
そして、彩夏との分かり合いたいのに分かり合えないもどかしさから二人の関係がもつれてゆく大きな障害とぶつかって……。と、<下>に続きます。
3、【魅力2】求めあう激しさ
二人の愛し方、には微妙な差異があります。
元々異性愛者とあり、相手をどう愛するのかという問題にぶつかります。
二人の激しいベッドシーンが度々描かれますが(生々しい表現が苦手な方は注意)、その時に二人が感じているものには少しズレがあります。
人を愛すること。人格を愛すること。体を愛すること。女性だから愛するということ。あなただから愛するということ。そもそも愛するとは……?
「愛する」というテーマで綴られる今作は色々な葛藤が描かれます。
詩的な表現と激しい展開という相反するようで、その二つの混ざり合いが絶妙な一作であり、「今」の問題に立ち向かう二人がとても愛おしく感じられます。衝突しながらも向かう二人だけのラストがとても綺麗な今作。
セクシュアルという近代の問題に向き合った今作をぜひ、読んでみてはいかがでしょうか。最後までお付き合いありがとうございました。
またお会いしましょう。