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悪趣味がすぎる秀作シチュエーションスリラー映画『犬人間』を観る
「未体験ゾーンの映画たち 2024年」にラインナップされていたノルウェー製ホラー、ヴィルヤール・ボー監督の『犬人間』。
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「奇天烈なスティルがいいじゃねえの」
そんな気楽な気持ちで劇場に行ったのだが……いや、これが観てみると「作品自体も相当いいじゃねえの」となった。わけで、こうして書く。
物語は、荒唐無稽な前提のもと繰り広げられるシチュエーションスリラーである。
パートナーを探すヒロインのシグリッドは、一見内気な青年クリスチャンと出会い、すぐに意気投合する。しかし、クリスチャンにはちょっとした秘密があった。彼はフランクと家をシェアしているのだが、フランクは自分を犬だと信じており、24時間犬のような格好と行動をしていたのだ。当然シグリッドはショックを受け、付き合いを続けていいのか不安になる。ひとまずその場からは逃げるように去ったシグリッド。しかし、ルームメイトとおしゃべりし、彼女の新しい友人が億万長者の息子であることを知った後、彼女は心変わりしたようで、クリスチャンとの二度目のデートに同意するのだった...。
ノルウェーの夏らしい極端に長い日照時間からなる、朝とも夜ともわからない独特な風景の中で進む物語は、終盤近くまでーージャンル映画ファンであればーー予想のつかないものではない。
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が、物事がどこに向かっているのかわかっているような気がしていたところ、最後にとどめの一撃が待っている。
その3秒ほどのラストカットが白眉……なのだが、それがどんな風なものであったかに触れるのは、なかなかどうして難しい。第一幕の“あるセリフ”が引き金になり、人類において最も祝福される(とされる)事態が最悪の形で創造されるとでもいうべきか。ある種のジャンル映画ファンが待望する、不吉さが充満したしびれるシーンになっている、とだけ書き残しておこう。
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キャラクターの行動の荒唐無稽さという点ーーいやいやそんなヤバい奴とは付き合えないだろう……であるとか、いやいやそんな向こうみずな行動にはでないだろう……であるとかーーで、プロットに穴がないとは言えないが、優れたシチュエーションスリラーに共通する、「皮肉の効いた社会風刺」という要件を本作は十分過ぎるほど満たしてもいる。
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「有害な男らしさ」「白人の特権性」が映画を通底するテーマだ。そのうち、より大資本なかたちでリメイクされそうな気がしないでもない。ほら、A24あたりで。