一般的ボイストレーニンングの問題点1 呼吸法は誤解と思い込みばかり
一般的な腹式呼吸の知識は、歌にとってモヤッとした霧
腹式呼吸というのはどんな呼吸法なのか、知識として知っている人はめずらしくありません。講師でなくても誰でも知っています。
図解やグラフィックで、肺や横隔膜の動きを説明している本やサイトも沢山あるので、今時はそれらの本などを見れば、誰でも簡単に理解できます。
また、それらを見て、呼吸練習をすることも簡単にできるでしょう。体の動きをすぐに感じられる人も多いし、そこまでなら一人でできる人もいます。
しかし、その呼吸法を生かしてどのように歌をうたえるのか、ちゃんと理解して歌っている人や、実際に歌唱でわかるように呼吸法を見せられる講師は、かなり少ないでしょう。
腹式呼吸とは当たり前にわかっている事のようですが、歌唱レベルになるとモヤっとしてしまう、意外にも難しい動作なのです。
腹式呼吸ができる人でも、
自分は本当に歌に生かせているのか分からない
自分はどの程度有効に歌に使えているのか実感がない
人がほとんどでしょう。
更に、ボイストレーナー(講師)レベルでもそれをハッキリ示すことができないにもかかわらず、
今さら腹式呼吸を使った歌唱感覚がハッキリ分からない、なんて言えないんです。 困った常識となってしまっています。
プロならわかっていて当然というスタンスの妙にポピュラーな言葉が、この腹式呼吸で、モヤっとしている、本当に変な常識なのです。
教えるレベルでそうなのですから、生徒側は自分がきちんと腹式発声で歌えているのか、自分で判断できるわけもなく、もっとモヤっとしています。
いい感じで歌えるようになっていても、新しい講師に「あなたは結構歌えるけれど、基本的な呼吸がまだできていないわね。」などと評価をされると、モヤッとしていた状態だったが故に、「やはりそうなんだ」とつい納得してしまいます。
しかし、いつまで経っても、歌唱中の呼吸がちゃんと腹式呼吸なのかについては、モヤッとしていて、歌がそれなりに上達できたとしても、やはり呼吸法がどの様にどの程度できているのか、正しいと言えるのか、ハッキリ分からないまま歌っていく事になる場合も多く、考える度にモヤっとするので、考えるのをやめてしまいます。
現状のボイストレーニングというものは、モヤッとしたことだらけ
モヤッとしている内容をもう一度まとめます。
腹式呼吸の動きを理解している人は、今やめずらしくありません。
素人でも勘がよければ、一人でも呼吸練習はすぐにできるようになります。
なのに、
○歌う時になると、正しい呼吸法を使えているのかどうなのか、ハッキリと自覚できない。
○そして、レッスンではわかるように指導してはくれない。
○講師に、使えている状態を実践的に生徒にわかりやすく見せられるほどの技量がない。
という状態になっていることが原因です。
特にポップス歌唱においては、歌唱中となると、呼吸状態を説明したり、教える事ははかなり難しいようです。
一般的なボイトレ あるある
生徒「先生、声が揺れたり音程が安定しないのは何がいけないんですか?」
講師「基本ができていないのよ。」
生徒「基本てなんですか?」
講師「呼吸法と支えですよ。腹式呼吸で声が支えられていないようです。」
生徒「呼吸練習は毎日しているのですが、歌っている時にできているかわかりません。どうしたらいいですか?」
講師「呼吸がしっかりしていれば、もっと響きが良くなります。声揺れもしないで、安定して歌えます。練習がまだ足りないんですね。頑張りましょう!」
このようなやりとりをよく耳にします。
しかし、これって「練習が足りない」以外には、なんのアドバイスにもなっていないことに気が付きますか?
質問の答えになっていないのに、生徒は反論しにくく、自分の練習が足りないんだと、なぜか納得してしまう。ボイストレーニングってそういうものなんだと思い込む。
色々できないことがあると、基本ができていない、練習が足りない、と押し切られてしまい、歌唱中に呼吸をどのように使っていて、どのくらいできているかなどの詳細は教えてもらえません。
残念な事に、教えてくれないのは、教えられないし分からないから。
素人でも言えるアドバイスしか言われないのなら、自分だってボイストレーナーになれると思われても仕方ありません。実際に駅前スクールの現状はそんな感じでしょう。
それが一般的なボイストレーニングのレベルで、ごく普通のことなんです。
モヤッと、が当たり前なのが普通のボイトレ
このモヤッとした状態になっている大きな原因の一つが、腹式呼吸が発声の基本だということが、日本では随分昔から言われていて、常識のようになってしまったことです。
日本人(日本語)の発声の特質上、そのもそも腹式発声という状態が非常に難しくわかりにくく、なんとなくしか理解できないのに、分かった気になって、腹式発声が基本という決まり文句を使う人が沢山でてきてしまいました。
なので、講師が、今更「歌っている時には、実はどのように呼吸を使えているのか、自分でもよく分からないんです」
なんてもう言えなくなってしまっています。
自分が教わった時も、きちんと教えてもらえなかったせいもあり、歌のレッスンなんてそういうものなのだと、講師自身も思い込んで、割り切ってしまい、それについて詳しく勉強してみようというアイディアも出てこないのかもしれません。
本当に建前ばかりの変な常識が、ボイトレには数多くあります。
建前ばかりのアドバイス
自然体で、疲れない喉で、朗々と深い響きを持って歌えるうたには、呼吸の深さと体の安定感が同居して見えるので、そのように歌えれば言葉で説明できなくても見本を示す事は容易です。
もちろん、しっかりと自覚し、言葉の説明も含めて、デモンストレーションでも示せるのが理想ですが、もしそれができれば、生徒も講師との違いを明確に自覚でき、モヤッとする事もなくなります。
しかしそれは残念ながら現状では難しく、一部の勉強熱心で感覚の進んでいるトレーナーにしかできません。
発声や歌唱って、他の楽器のレッスンに比べて、楽器が自分の体なので、使い方が非常にわかりにく、レッスンの内容も講師任せで、勘や思い込みで教えているのが主流です。
だから、昔から当たり前になってしまった「腹式呼吸」などの建前的な言葉を疑いもせず、水戸黄門が印籠を見せるように使ってしまうのです。
アマチュアレベルの生徒だと、いくら歌が上手くても、呼吸を完璧に歌に使っている人はまずないのを知っているので、「呼吸法がまだ歌っている時にきちっとできていないよね」と印籠を見せれば、アドバイスとしては絶対に正しいわけなので、「黄門様、ははーっ」となり、一件落着なのです。
挿し絵 作者:toraneko6さん(イラストAC )
という感じで、ボイストレーニング業界は、学問的にはかなり遅れていて、楽器の使い方として考えても、簡単な理屈しか知らない講師がほとんどです。
内容的には全くアカデミックではなく、残念ながらそういう曖昧な事が通常なのが、現状のボイストレーニングというジャンルなのです。
ちなみに声楽歌唱だと少し違ってきます。バランスまでも理解しコントロールしている人は少ないとしても、ある程度歌えるようになるには、呼吸法をそれなりに身に付けてないと歌えないし、使えている自覚もでてきます。
それは、声楽の発声感覚そのものが、非日常的な発声感覚で響かせるので、呼吸の違いがわかりやすいのです。
しかし、それをそのままポップス歌唱に持ち込むことは、かなり難しい事で、半端に利用しても、クセの強い野暮ったい歌しか歌えるようになりません。やはりポップスにはポップスの難しさがあるのです。
呼吸練習ができても歌に生かせていない人はかなり多い
戻りますが、腹式呼吸の練習は完璧にできるし沢山練習もしているのに、歌が上手くならない人もかなり多いと思います。
理由は
歌唱と呼吸が結びつくことがかなり難しい
完璧にできるまで、どのくらいできてきたという自覚ができない
ということが言えると思います
鍵になるのは、
なぜ腹式呼吸を基本にするべきなのか、その物理的な理由を知る
実際に歌っている時にどのように、どんな感覚にフォーカスすればいいのかを知る
という事にです。
歌唱中の横隔膜呼吸の状態をきちんと把握し、改善の指導ができる人はほとんどいませんが、従来の呼吸の理論だけで、しっかりとした呼吸で歌うことは、かなり難しいのです。
「腹式呼吸が基本」とするのが歌のセオリー。これこその基本の大義。
腹式呼吸が歌の基本というのはボイトレのセオリーで、
絶対にそれは正しい。(昔から言われているから)
必要不可欠なこと。(昔から皆が言っているから)
できて当たり前のこと。(キャリアには常識!という思い込み)
のような感じの大義になっています。
その言葉には逆らえない、否定できない、
そして「今さらよくわからないなんて言えない」
というように圧力を持ってしまった、大義になってしまった腹式呼吸
はっきりと使い方がわかっていないのに、皆が知った顔で教える、日本の一般的ボイトレの残念な現実です。
なぜに歌には腹式呼吸が良いのか?
一般的な説明内容を聞いてみると、
「呼吸が安定すると、声も安定して歌いやすくなるから。」
もちろん間違ってはいませんが、体感できていない説明をしても、それ以上なんの解決もできないわけで、
大義を言いっては、ケムに巻いてしまうことになっています。
呼吸が安定すると何がどのようになって声が安定するのか?
歌唱中に呼吸が安定している状態、とはどういう状態なのか?
歌唱中に呼吸が安定している状態は、どうやったら作れるのか?
など、深掘りができていない為、
発声の理屈はわかるけど、歌う時にどうしたらよいのかは具体的に分からない、といった具合になるのでしょう。
<呼吸法が大切な理由は、体勢と声帯の関係にある>
そこまで言い切るのはもちろん理由があります。
横隔膜呼吸でないと確実に声帯にイレギュラーを起こしてしまう理由があるからなのです。これはほとんどの人が気付いてはいません。呼吸法が大事だという話はどこでも聴きますが、なぜそうしないといけないのかをきちんと説明している物をほとんど見たこと(聴いたこと)がありません。
大切な理由がきちんとわかれば見えてくることがあります。
腹式呼吸ができれば歌える物ではありません。間違った捉え方で腹式呼吸を大切にするくらいなら、忘れた方がまだマシなのです。
では何を大切に腹式呼吸を考える必要があるのか、簡単にいうと声帯の動きをいつも正常に保つには、というところにポイントがあります。
<これについては、続編記事か別のnoteで深く解説しいていこうと思っています。>
セオリーを否定し常識を破る、若手トレーナーたち
そのモヤッとした嘘に気がついてきた若手ボイストレーナーの中には、
腹式呼吸なんかわざわざ考えて歌わない方が良い、とか
腹式呼吸にこだわるから上手く歌えなくなるんです、など、
セオリーを否定する新しい考え方で教えているトレーナー(講師)も出てきます。
これは決して正しいとは言いませんが、特に初心者にはかなり良いアドバイスになります。
間違った腹式呼吸の思い込みを持って練習するのを、まずやめさせること。それだけで、上達する人も沢山いるからです。
体を固めて歌っているような場合にはかなり有効です。
漠然とした感覚だけで腹式呼吸に頼ろうとして、勘違いをしやすく、いろいろな「力みの癖」をつけてしまいかねません。
間違った腹式呼吸の弊害から解放できれば、レッスン効果は上がり当然上達に向かうのです。
逆服式?!
腹式呼吸にこだわるな、という理論は、昔からたまに聞くことはあるのですが、結局そっちが主流にならないのは、実際は必要なことなので、キャリアを積んでしっかり歌えるようになると呼吸の大切さもだんだんと分かってきて、そうも言えなくなるからでしょう。
昔からたまに、「逆腹式発声」なるものを提唱する人が出ますが、「腹式呼吸にこだわるな」によく似ているところがあります。
逆腹式と言っても本当に横隔膜が逆に動いていたら、歌などうたえるわけがないのです。感覚的な捉え方が、お腹が逆に動くようイメージして歌う事は、腹式呼吸なんかわざわざ考えて歌わない方が良い、というのと、実は同じ状態を生みます。
ただ、言い方が極端なので、間違った教えとして敬遠されてしまい安く、よく聞くと腹式呼吸の極端な捉え方みたいなもので、昔からそこに気がついている人もいたということでしょう。
言葉の捉え方の行き違いが、理論の食い違いになったのだと思います。
そして、そのような提唱者はまたすぐいなくなります。
正統派から批判される為もあるかもしれませんが、キャリアを積んでしっかり歌えるようになるにつれ、逆腹式という言い方が感覚と合わないなと気がつくからだと思います。それは、腹式呼吸の変則的な捉え方だっただけで、逆ではなかったんだと気が付くからでしょう。
どんな捉え方でも、古いセオリーにとらわれないで、フラットな気持ちで練習しながら、繊細に体を理解していけば、いずれ腹式呼吸の本当の意味も体でわかるようになり、上手く歌い教えられるようになるでしょう。
声を楽器のようにするには、呼吸法は本当はかなり重要。それは確実な真実!
しかし、プロフェッショナルな歌唱にいき着くには、呼吸法は欠かせないことでるのも本当の事。
間違った呼吸法を止める事で、それまでより上手くなるというのは、マイナスをなくしたまでで、歌唱の時にも腹式呼吸(横隔膜呼吸)をしっかりと体に浸透させられば、やはり深い歌唱やプロフェッショナルな歌唱ができるようにプラスされていきます。
挿し絵:谷本真規著作書籍 ナチュラルボイストレーニング(ナツメ社)より
プロとアマチュアの歴然とした発声の違いをそこに見る事ができる
本当にアマチュアとは一線を画す響きと歌を手に入れたければ、呼吸で支えられる歌唱ができることは、やはり必要不可欠。
深い呼吸感こそがマイクを通る音圧に繋がります。そして色々な音域や言葉があっても同じように音圧を保って歌える支え。
これが一線を画すプロフェッショナルな歌の大きな要素となります。
では、呼吸の支えとは何か、論理的にどんな状態なのか?
その辺りまた続編などで解説していきていと思っています。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。
また続きも読んでいただけると大変嬉しいです。
今後ともよろしくお願い致します。
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