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純度の高い嘘

 いつまでも嘘つきでいられるわけがない。僕はそろそろ彼女にまともに向き合おうと思っていた。たしかに僕は彼女に酷い嘘を吐きまくっていた。浮気した時も金をせびる時も口から出任せの言葉通りの嘘をついていた。だけどもう正直にならなくてはいけない。彼女と別れよう。他に好きな女が出来た。そう正直に言って別れよう。僕はそう決意すると電話で彼女を呼び出して別れの言葉を言った。

 彼女は涙を流しながら僕の話を聞いていた。君を愛していた。だけど他に好きな女ができたんだ。そんなあまりにも酷い言葉をただ黙って聞いていた。僕がそうして全てを話し終えた後彼女は悲痛なほど悲しい笑顔で僕に言った。

「いいよ。あなたがそういうなら私別れてあげる。だけど私あなたから別れるって言ってくれて。本当に助かったの。だって私から別れるっていうのは勇気がいるから。あの、実はね。私もあなたに隠れて他の男の人と付き合ってたんだ。その人凄い金持ちで私に来年アテネで式挙げようとかプロポーズしてくるの。式が終わったら新婚旅行でヨーロッ中を回るんだ。ねえ、凄いでしょ!」

「そうか……よかったな」

 僕は彼女のあからさまな嘘に耐えられなかった。今まで散々苦しめて挙句の果てに彼女にこんな嘘までつかせるなんて。だが、もうあの幸せだった頃は取り戻せない。僕は激しい罪悪感に襲われて我知らず涙を流していた。彼女は僕の涙を見て笑うのをやめ、突然泣き出した。

「なに?あなた泣いてるの?どうして泣くのよ。やっと私と別れられるのよ。やっとあの人と一緒になれるのよ。素直に喜んだら?私だって浮気してたんだから帳消しじゃない!罪悪感なんて持つことないじゃない。ねえ、ひょっとしてあなた私の言ったこと嘘だと思ってる?だから私を憐れんで泣いてるの?ふん、そうよ。私あなたに嘘ついてました。この涙も今言っている私の言葉も全部嘘!純度の高い嘘よ!さよなら、二度と会わないから!」

 そう叫ぶと彼女は後ろを向いて僕から去って行った。


 それから一年経った。あれから僕は新しい女と付き合ってみたものの、やっぱり彼女が忘れられずにすぐ別れた。そして恥知らずにも彼女に復縁を申し込もうと何度も連絡をしたが、全く繋がらなかった。やはりこんな男とは二度と付き合いたくないのだなと思い諦めかけていたある日のことだった。突然彼女からメールが届いたのだ。僕は早速メールを開いて驚きのあまり頭が真っ白になった。

 そのメールには結婚しましたという簡潔な報告と、アテネの遺跡をバックに金のブレスレットとネックレスをつけた金持ちそうな男に肩を抱かれている彼女の写真が添付されていたのだ。僕は思わず彼女の写真に向かって叫んだ。

「あの話は純度の高い嘘じゃなかったのかよ!ていうか嘘だと言った事が嘘だったのかよ!」

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