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ボクの俳優修行

 とあるテレビドラマの主役に抜擢された若き実力派俳優は今その役をどう演じるか悩んでいた。彼は本日近々クランクインするドラマの宣伝のためにバラエティ番組に出演するのだが、そこにもドラマの台本を持ち込んで楽屋で台本を前にひたすら悩んでいた。

 この若き実力派俳優は他の俳優に比べて演技力がずば抜けており、とにかくどんな役でもこなせた。真面目な役、ダメンズ役、悪い役、ひ弱な役。ヲタク役、なんでもござれだった。だが彼はそれらの役を演じるためにいつも七転八倒していた。大学で近代演劇を学び、同時に演劇活動も行っていた彼はスタニスラフスキーシステムの圧倒的な影響を受けて、スタニスラフスキーの役を生きるという言葉を金科玉条として役に取り組んでいた。彼は役を演じるにあたってリアルに演じるためにその役の背景を徹底的に調べ尽くした。それでもわからない時は脚本家に問いただした。

 これほど役を研究して完璧に演じる彼だったが、今回のドラマの役は背景を調べても演じかねるものであった。今回のドラマは一人二役でストーリーはとある青年が未来にタイムスリップして惨めに落ちぶれた老人の自分に会い、彼の有様を見て今までの自分の生き方を反省するというものだが、彼にとってこの老人役が鬼門であったのだ。今までの彼は自分とほぼ同世代の若者しか演じていなかった。だから背景を調べるだけで迷いなく演じられた。だが今回は自分がなった事もない老人役であった。勿論若くして老け役をやる俳優は多い。だがその俳優の大半は型通りにそれを演じているだけだ。だから彼は悩んだ。どうしたらリアルな爺さんを演じられるだろうか。まるで爺さんがそこにいるように思わせるにはどうしたらいいか。彼は楽屋で呻吟したまらず声を上げた。

「ちくしょう!もうわかんねえよ!」

 その彼の叫びに驚いたのかドアからドラマの共演者で今回一緒に番組に出演する先輩俳優が部屋に飛び込んできた。

「おい、どうしたんだよ。突然大声なんかあげたりしてさ。みんなびびってるぞ」

「あっ、すみません。ちょっと考え事していたんで」

「ああ、わかってるよ。どうせドラマのことだろ?お前はなんでも考えすぎなんだよ。他の連中みたいになんも考えないでサラッと演じりゃいいんだよ。演技がいいか判定するのは俺たちじゃなくてディレクターだぜ?」

「いや、ディレクターの言われるがまま演じればいいなんて、演じる事を放棄しているのと一緒ですよ。そんなんだったら役者なんていらないじゃないですか。どっかの素人に台詞でも喋らせれば済む話ですよ。僕ら役者は役に命を吹きこむことが仕事なんですよ。視聴者は僕らの演技を観てドラマを理解するんだから」

 それなりに人生経験豊富な先輩俳優はこの青年俳優の青臭い役者語りに苦笑いをした。

「それで今回はなんで悩んでいるんだ?呼び出しがかかるまで俺がお前の悩みを聞いてやるよ」

 青年俳優は普段親しくしてこんな風にいつも役の相談に乗ってくれる先輩俳優に甘えてドラマの老人役の演じ方で悩んでいることを正直に話した。すると先輩俳優はハハっと笑い老け役なんか簡単じゃないかと答えた。

「とにかく腰曲げて潰した声で喋ればいいんだよ。みんなそれでやってるだろ?お前は演技上手いんだからそれなりにやればカッコはつくじゃないか」

「いや、先輩お言葉ですがそれじゃダメなんですよ。そんな型通りに演じちゃどうしても薄っぺらなものになってしまいますよ。昔の大河ドラマで僕も尊敬する名優が徳川家康役を見事に演じていましたけど、でもその彼でも老け役には問題がありましたよ。その名優は先輩のおっしゃる通り腰を曲げ声を潰して一見老人にしか見えない演技をしていました。老人役が彼だけだったら僕もなんて上手い演技なんだと感心したでしょう。だけどその名優の傍には自分と同年輩の役を演じている本物の老人の大俳優がいたんですよ。あの人は老人とは思えないぐらい飄々と役を演じていました。僕はそれを観て自分の老人観が誤っていたことに気づいて愕然としたんです。老人が世間の思うような存在ではなくもっとアクティブな人間なんだって思い知らされました。そのことにあの名優でさえ気づけなかった。いや、彼ほどの名優なら気づいていたかもしれない。だけどそれでも自然のままの老人を演じることが出来なかった。演技派と呼ばれる名優でさえそうなんだから、あの軽蔑すべき事務所に所属しているバカアイドル上がりの俳優なんて本当に型通りの老人役しか出来ないですよ。このバカアイドルあがりたちはそれなりのキャリアがあるのにいまだに老人役はただ声を潰せばいいとか、重々しく声を張ればいいとかまるで漫画みたいな演技をしているんですよ。まぁ連中の場合老人役だけじゃなくて全ての演技においてそうなんですが。とにかく僕はそんな恥ずかしい演技はしたくないんです。僕だっていずれ大河ドラマに出るかもしれない。大河ドラマは一人の人間の一生を描くものです。僕たち役者も同じように若者から老人まで演じなくちゃいけない。そのためには絶対に老人役をマスターしなくちゃいけない。だからこんなに悩んでいるんですよ」

「ハハハハ、凄いねお前は。俺今までお前みたいにそこまで考えて役に取り組んでる俳優にあったことないよ。だけど老人でもないお前がいくら老人になろうとしても無駄だよ。やっぱり不満だろうけどみんなみたいに型通りにやるしかないんじゃないの?上手く演じれば型通りでも本物にも見えてくることってあるだろ?所詮芝居は見せ物だぜ」

「いや、見せ物だからこそ、本物を見せなくちゃいけないんじゃないですか?形だけだったらAIと一緒じゃないですか」

 後輩のこの問いを聞いて先輩俳優は急にはめていた腕時計を見て立ち上がった。

「おっと、少し時間が過ぎたみたいだな。もう少しで収録始まるかもしれないから俺自分の楽屋に戻ってるわ。じゃあまたスタジオで会おうぜ」

 先輩俳優は相談に乗ると言ったにも関わらずいざ相談に乗ってみたらやっぱりうざくなったのかこう言い捨てて逃げてしまった。また一人になった俳優は再び老人役について考え込んだ。その彼の部屋を誰かがノックした。俳優はもうお呼びかなとドアを開けたが、そこにいたのは番組のスタッフではなく清掃の爺さんだった。

「あの、今から消毒剤を撒きますので廊下を歩かれる際はご注意下さい」

 清掃員の爺さんは妙にオドオドした態度でそう言った。俳優はそのしょぼくれた惨めったらしい爺さんを見てドラマで自分が演じる老人のことを思い浮かべた。そういえば自分が演じる主人公の青年の未来の姿である老人も清掃員だった。役の老人は結婚もせず、ボロアパートで家賃の回収にくる管理人から逃げまくっているという設定だ。この爺さんのフケだらけの髪、汚れ切った制服、そして……と俳優は遠慮せずに爺さんの左手を見た。やっぱり独身だ。ああ!役そのまんまじゃないか!そうだ、この爺さんを観察すれば完璧に老人役を演じられるかもしれない。俳優はこの爺さんと出会えた奇跡に歓喜し慌てて立ち去ろうとする爺さんを呼び止めた。

「あの、お仕事いつ終わります?よかったら後で僕と食事でもしませんか?」

「は、はぁ〜。暇は暇なんですが、でもあなたのような芸能人の方がどうして私みたいなものと食事なんて?」

 俳優は清掃員の質問に一語一句力を込めて答えた。

「僕はあなたに興味があるんです!いや思いっきりぶっちゃけますと、僕は次のクールのドラマで老人役をやるんですが、あなたをその役作りの参考にしたいんです!だからお願いします!お金でもなんでも差し上げますから是非!」

「いや、お金なんてとんでもない!確かなお金は緊急に必要ですが、何しろ今月の家賃が払えないとアパートから追い出されてしまいますので……」

 俳優はこれを聞いて歓喜した。ああ!やっぱり役のまんまだ。この爺さんを24時間観察すれば完璧に役は掴める。よしと彼は再び爺さんに話しかけた。

「だったら尚更ですよ。その家賃代僕が出しますよ。いいですか?これはモニターかなんかの仕事だと思ってください。で、お仕事はいつ終わりなんですか?」

「廊下の清掃が終わったら今日の仕事は終わりです。一時間ぐらいでしょうか」

「なるほど。僕はこれから番組の収録がありますから二時間か、長くても三時間ぐらいかかります。それまで局の駐車場の近くで待っていただく事は出来ますか?勿論あなたの事は警備員に連絡しておきますよ」

「はぁ、ありがたい誘いで私としても是非一緒にお食事したいと思っていますが、でも本当に私なんかでよろしいのでしょうか?」

「いいに決まっているじゃないですか!じゃあ食事の誘いをうけてくれるんですね!収録終わったらすぐに駐車場に駆けつけますので待っていて下さい!」


 番組の収録は滞りなく終わった。収録中俳優はやっと老人役をきっかけを掴んだことに上機嫌で司会者のお笑いタレントの質問を遮ってまで自分が演じる老人について語り倒した。お笑いタレントは彼の熱い老人語りに苦笑いで「まだ加齢臭には早すぎるで」と突っ込んだ。

 そして収録が終わるとまっすぐ駐車場にダッシュした。俳優は不安であった。爺さんが黙って帰ってしまったら。いやもしかして駐車場がどこかわからず迷っているとしたら。ああ!お願いだからそこにいてくれ。あなたは僕の導き人なんだから。しかし彼の心配は杞憂であった。爺さんは駐車場の入り口の脇でボロいジャケットを着てポツンと立っていたのだ。ああ!その惨めったらしい格好は彼が演じる役そのままであった。ああ!この人は僕のためにスタニスラフスキーが使わした天使なのだろうか。俳優は爺さんに声をかけ自分についてくるように言った。


 俳優は老人を車に乗せるとそのまま行きつけのフレンチレストランへと向かった。そこなら自分の名前を出せば予約は不要だし個室も取れる。彼は今助手席に乗せている爺さんの形をした宝物を他の役者に見られたくはなかった。この爺さんは俺だけのモデル。俺だけの老人だ。

 レストランに一緒に入った時から俳優は爺さんの行動に惹きつけられた。いかにも高級レストランに一度も入ったことのないそのビビりまくりの態度。爺さんが家賃を三か月分滞納しているという話。その下手くそなナイフの使い方。ああ!それは第一回の台本に書いている、主人公が未来の自分である老人を憐れんでレストランに連れて行った時の老人の態度そのまんまではないか。ああ!しかもこの爺さん、役と同じようにあんまりうまそうに食べていない。いかにも口に合わないといった顔をしている。しかも爺さんは料理を食べ残して俳優を申し訳なさそうな顔を見てこんな事を言い出すじゃないか。

「あの、残してしまって申し訳ありません。どうやら私の口に合わないみたいで……」

 このドラマのまんまの台詞を言われて俳優は飛び上がるほど喜んだ。やっぱりこの人はスタニスラフスキーが自分のために使わした天使だ。

「いや、こちらこそ慣れない所に連れてきて申し訳ありません。別のお店で口直ししましょうか?」

「いえ、いいんです。私は昔から少食なものでもうお腹いっぱいになってしまいました。私のような老人にここまでしていただけるなんて感激です。今日は本当にありがとうございました」

 爺さんはそう言って立ち上がって帰ろうとした。それを見て俳優は慌てて老人を呼び止めた。

「いや、待ってくださいよ。まだ家賃代払っていないじゃないですか。お願いですからもう少し僕に付き合って下さい」

「えっ、これ以上貴重なご時間を私なんかに割いていただいても何もお返しできないし、もったいないですよ。では家賃代だけいただいてこの辺で……」

「あの」と俳優は手のひら差し出して家賃代をもらおうとしている老人を凝視した。老人は俳優の目力に慄いて再び席に座った。

「一つお願い事があるんですけど聞いてもらえますか?あの、今からお宅まで案内していただけませんか?」

 あまりに突然の頼みに爺さんは驚いて言葉も発することが出来なかった。俳優は役の老人役を演じるためにこの爺さんがどんな部屋に住んでいるのかどうしても知りたかった。この爺さんの部屋をみれば台本に書かれていない老人役の普段の生活がわかる。俳優は役を生きているように演じるもの。そのためには台本には書かれていない役の背景をどうしても知らねばならない。この清掃員の爺さんは二十四時間清掃員であるはずがない。彼も仕事が終わればただの老人である。一人の独身の老人がどのようにして暮らしているのか。それはドラマで老人役を演じるためにどうしても見ておく必要があった。

「だ、だけど私の部屋はすっごく汚いですよ。こんな事を打ち明けるのは恥ずかしいですが、ずっと部屋の掃除をしていないもので、とてもあなたのような有名な芸能人をお招きするような所ではありません」

 しばらくしてやっと喋った爺さんの言葉を聞いて俳優はまたまた歓喜した。この爺さんの掃除されてない部屋を見ればひとり暮らしの老人の生態を完全に把握できるではないか。今日はなんてついている日なんだ。これもスタニスラフスキー先生の思し召しなのか。ああ!役者人生の中でこんなにうれしいことはなかった。

「いえ、それで結構です!今すぐその部屋を見せてください!」

「え~っと、そう言われましても、私としてはやっぱり人に見せられないものでして……」

「じゃあ、家賃代の倍を出しますよ!僕はその掃除をされていない部屋が見たいんです!この通りお願いします!」

 いくら個室とはいえ高級レストランで人気俳優にいつまでも頭を下げさせとくわけにはいかなかった。爺さんは俳優に向かってわかりましたと言い、そしてもう一度忠告するように部屋は人の予想以上に汚いですから覚悟して下さいと言った。


 さてそんなわけで俳優と爺さんはレストランを出ると再度車に乗って、爺さんの住んでいるアパートへと向かった。俳優は信号で車を止めている最中にチラリと爺さんを見た。爺さんは口を閉じ不安そうな顔でただ前を見ている。俳優はこの爺さんが自分の演じる老人そのものに見えてきて、いっそ老人役は自分じゃなくて彼がやったらいいのでないかと思った。だが、すぐに俳優はそんな甘ったれた考えではこの先役者なんてやっていけないぞと自分に喝を入れた。

 車をアパートの近くの駐車場に止めて俳優と爺さんは一緒にアパートへと向かった。夜の寂れ果てたこの郊外に爺さんのアパートが電灯に照らされて闇の中でぼんやりと光っていた。いかにも貧しさの果てといった感じの住居だった。爺さんはアパートに近づくごとに顔がこわばっていった。このこわばり方からして相当部屋を見られたくないのだろう。さてその爺さんは見られたくない部屋はどのようなものなのか。俳優は爺さんをいささか気の毒に思いながらも、未知なる部屋に対する好奇心を抑えならなかった。

 部屋の前に着くと爺さんがポケットから鍵を取り出してドアノブの鍵穴に突っ込んだ。しかし鍵の入れる方向が間違っていたのか、何度も鍵を差しなおした。俳優はもうじれったくなって何度も爺さんから鍵を奪って自分で開けてしまおうとした。しかしあくまで部屋を開けるのは爺さん。何故ならここは爺さんのテリトリーだからだ。自分はこのドアの鍵を開けるのに戸惑う爺さんの行動も見なくちゃいけない。彼のような老人は我々と違い鍵の開け閉めさえ満足に出来ないもの。苛立つよりまず爺さんの行動を観察しなければ。俳優はまだ鍵に戸惑っている爺さんを穴が開くほど凝視した。

 ようやくドアが開いた。爺さんは俳優の方を向いてお手間を取らせて申し訳ありませんと頭を下げて謝り、遠慮がちにドアを開けた。その爺さんの行動を見て俳優は何故か妙な緊張感を覚えた。このドアの向こうには何があるのか。いや、掃除を全くしていないということだから、相当汚れて散らかっているに違いない。現に今思わず鼻をつまんでしまうほどの臭気が漂っているではないか。しかし自分はそれでも部屋に入ってこの爺さんの生態を見なければならぬ。爺さんの部屋を見て老人役を我がものと出来る事に比べたら匂いなんて些細なことだ。俳優は意を決して部屋に入った。

 俳優は部屋に入った途端そのあまりにもありえない光景に呆然とした。彼が驚いたのは別に弁当箱がいたるところに散らばっていたからではない。また缶ビールの空き缶がそこら中に床に転がっていたからではない。彼は本当に驚いたのはエロDVDの山が部屋を占拠していたことだった。おまけに壁にはエロDVDやエロアニメのポスターがそこら中に貼られており、部屋は半分以上エロコンテンツで占められていた。

「これ、全部あなたのものですか?」

 俳優はかなりためらったがやっぱり質問をしなければならないという義務感を感じてこう尋ねた。爺さんは俳優の質問に顔を赤らめながらこくりと頷いた。俳優は息を吸い込んだ時妙にイカ臭い匂いがしたので再び床を見た。すると自分の足元に丸めたティッシュペーパーが三個転がっているのを見た。見た感じどうやら昨日か今日使用したもののようだった。それはどう見ても鼻を噛んだものではなかった。俳優はさすがにこのティッシュペーパーについて聞くのはためらったが、しかし老人というものを知るためには絶対聞かねばならないとためらいを押し切って尋ねた。

「あの、あなたこのティッシュペーパー、そこに積まれているDVDを見ながら使用したんですよね?いつ、何回したんですか?」

 すると爺さんは真っ赤な顔で恥ずかしさに顔を歪ませてこう答えた。

「昨晩三回です。昨日仕事帰りにオキニの女のDVDを買いましてそれを観て興奮してつい三回もしてしまいました」

 この爺さんの告白に俳優は大衝撃を受けた。爺さんの言葉は彼の老人観を完膚なきまでに破壊してしまった。一晩に三回だとこんなやせっぽっちの老人がいくらオナニーとはいえ三回もだと?老人とはこんなに活力にあふれていたのか。ああ!今まで他の俳優たちが演じ切っていた老人は全部嘘だったってことじゃないか!老優が演じていた老人も出鱈目だったということか!なんてことだ!僕らはずっと出鱈目を観させられてきたのか!俳優はこのリアル老人のエロとゴミにまみれた部屋を見て自分の演技観そのものが崩壊してゆくのを感じた。

 俳優は爺さんに家賃代の倍の金額を渡し、深く頭を下げて礼を言った。その時彼はまた教えてもらいたいことがあったらすぐに連絡すると言い、電話番号を書いた紙を渡した。それから彼は爺さんに別れを告げてアパートから駐車場まで歩いたが、その途中で足を止め、ポケットからスマホを出して脚本家に電話を掛けた。

「あの、先生ですか?僕です。この間いただいた台本なんですけど、老人役があまり現実離れしているように感じられたので意見をしたいと思って電話しました。僕のような若輩が生意気な口きいて申し訳ないけどやっぱり先生の老人像って昔の老人像をなぞっているだけで全くリアルじゃないんですよ。僕今日あるお年寄りとご一緒してその事がよくわかりました。先生、今からでもいいですからちゃんとあの老人をリアルに書き直してくださいよ。まず老人が何もない部屋に住んでいるなんて嘘です。実際の老人はエロDVDの山に囲まれて暮らしているんですよ。それに女はもう卒業したなんてのも嘘です。実際の老人はエロDVDを見て一日三回もオナニーしているんです。僕はスタニスラフスキーのようにリアルなものを演じたいんです。先生の書く老人像はそのリアルから限りなく離れている。だからもう一度言います。これからの回でもいいからさっき僕が言ったようなリアルな老人のシーンを絶対に入れてください!」
 

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