妊娠物語3

妊娠…堕落論 第7章 その6

 私は慌てて時計を見ました。もうすぐ午後6:00です。手紙だけじゃダーリンのことはわからない!早く新入社員に会ってはっきりした事実を聞かなくては!早まる鼓動を押さえられません。今の私は一刻も早く死刑執行を望む死刑囚のようでした。会って話したところでダーリンが死んだという事実を確認するだけなのに!涙がつぎから次へと溢れてきます。しかし彼には会わなければいけない。私と、そしてお腹のベイビーのために。

『あなたに逢いたい!』

 手紙の中の『逢いたい!』という言葉が何度も頭の中で繰り返されます。会うのはダーリンの死亡通知を出してきた人間なのに!私はいつの間にか手紙とスマホをもってエレベーターに乗っていました。そしてエレベーターが一階まで降りていく間、私は新入社員の言葉を何度も反芻する。『僕は真実をすべて話す!』毛だらけで全身真っ黒なダーリンの最後が知りたい!彼は人生最後の時間をどうやって過ごしていたのか。

 エレベーターの扉が開いた。私は玄関へと近づいていきます。エントランスルームへのドアが開いて前をみたら、目の前に貧弱な長渕剛みたいな人が立っていました。誰?こんな人住んでたっけ?と思っているとその人いきなり私に駆け寄ってそして抱きしめてきたのです。な、何すんのよとぶっ飛ばそうとしたら、ニセ長渕が「逢いたかった!貴女に逢いたかった!」と言ってそのまま泣き出しました。まさかあなた!と私は顔をあげ相手の顔をよくみると、そこにすっかり貧相になった新入社員がそこにいたのです。

「へへッ!ビックリしたでしょ!これが今の僕ですよ。やさぐれてどうしようもない。これが堕落の極みってやつですよ!昔の僕からは考えられませんね。僕の手紙読みましたか?」

 そう言いながら彼はさらに強く抱きしめてきます。しかし今の私にはそれを払いのける力はなかったのです。


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