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《長編小説》全身女優モエコ 高校生編 第九話:お友達

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 猪突猛進な性格のモエコは財閥の御曹司を演劇部員に紹介するとすぐさま、彼に演劇大会の舞台の背景を手伝って貰うことを学校に承諾させるため、御曹司と顧問を連れだって部室からまっすぐ校長室に向かったのだった。モエコは部室を出る時、部室に残る部長たちに向かって全て私に任せるのよと眉間にシワを寄せて言ったが、部長達はそんなモエコを呆然として見送るだけだった。

 職員室に向かう途中、廊下でモエコたちとすれ違った女子たちは、モエコと一緒に歩いている見慣れぬ垢抜けた男にときめいて感嘆の眼差しを投げた。絵かきは彼女たちの視線に応えてニコリと微笑んだりしていた。

「大丈夫だろうね。こんな事校長と教頭は認めてくれるだろうかね」

 と突然顧問がモエコに心配そうに訪ねた。先程は強引にモエコに押し切られて絵かきに背景を手伝って貰うことを承諾したが、職員室が見えてきた途端急に不安になったのだ。モエコの知り合いとはいえ、見ず知らずの他人を学校に入れて良いものだろうか。モエコはさっき別に彼に背景を描いて貰うってわけじゃないの。ただアイデアを出して貰うだけよ。だから演劇大会の規定には反してないじゃない、と言っていた。だがあまりにも突然すぎる話だし、この絵かきについて校長や教頭をどう説得すればよいのか。

 モエコが顧問に答えた。

「先生、何言ってるの!大丈夫とかじゃなくて彼らに私達の要求を飲ませなくちゃダメなのよ!今年は去年の汚名を挽回しなければならないのよ!そのためには何もかも小道具から背景に至るまですべてのものを完璧にしなくちゃダメなの!観客や審査員があまりのゴージャスさに思わずため息を漏らすような、そして刺されて死んだカルメンが喜びのあまり蘇ってしまうようなそんな舞台にしなくちゃダメなの!だから先生覚悟を持って!教師としての首をかけて私と一緒に彼らを説得して!」

 顧問はモエコの不条理の極みのようなお願いに怖気づきなんと答えてよいかわからなくなってしまったが、そこに助け舟を出すように二人の間に入って笑いながら言った。

「まぁ、先生いざとなったら僕に任せてくださいよ。僕はこう見えても口が上手いんですよ。モエコちゃんのためだったらなんでもやりますよ」

 そう言うと絵描きはモエコに向かってウィンクをした。顧問はそれを見て二人が一体どういう関係なのか訝しんだが、しかし何故かそれをモエコに聞くのを躊躇ってしまった。

 モエコたちが職員室に入った時、机に座っていた教師たちは同は一斉にドアの方を見たが、モエコの後ろに見知らぬ男がいるのを見て何事かと驚いた。まさかモエコが事件でも起こしたのかと思い慌ててモエコの元に駆けつけた。モエコは集まってきた教師たちに向かって向かって校長はいるかと尋ねた。すると教師の一人がモエコと顧問に向かって校長は教頭と一緒に校長室にいるが、その方はどういうご用件で来られたのかと逆に聞いてきた。モエコはだんだんめんどくさくなってきて「どいて!」と教師たちを振り切るといきなり校長室のドアを開けたのである。校長室にいた校長と教頭はいきなりのモエコの登場にびっくりした。特に教頭は衝撃のあまり思わず心臓が飛び出そうになった。

「ほら、皆来て!」

 とモエコが顧問と絵描きを呼び寄せる。モエコに呼ばれて顧問と絵描きは校長室へと向かったが、顧問はこれから起こる事態を想像してもう生きた心地がしなかった。一方絵描きはヘラヘラと笑い口笛なんか吹きながらモエコところに歩いていった。


 モエコは校長室に入るなりその場にいた校長と教頭に向って言った。

「校長先生、教頭先生!モエコの一生のお願いを聞いてほしいの!」

「君、いきなり押しかけて来てなんだその言いぐさは!おまけに部外者まで連れてきて!なんだね、このフーテンみたいな男は!誰がこんな男を学校内に入れることを許可したのだ!君か!」

 校長はいきなり入ってきたモエコたちに向かって思いっきり怒鳴りつけた。いきなり罵倒されたモエコは顔を真っ赤にしてブチ切れ、フーテン呼ばわりされた絵描きはヘラヘラとせせら笑い、校長に思いっきり指差された顧問はすっかり青ざめていた。

 教頭もまたモエコが連れてきたらしいフーテン男に驚いた。勘の鋭い彼はすぐにモエコが男を連れてきたと察した。しかしこの男は何者なのか。それにモエコの一生のお願いとはなんなのか。彼は顔を真っ赤にして今にもブチ切れそうなモエコに向かって恐る恐る聞いてみた。

「桧山さん、そのお客様はどなたかね。そしてどういうご用件で来られたのかね?」

 モエコは教頭と絵描きの男を交互に見て、そしてニコリと笑っていった。

「この人は私のお友達よ!いつもお世話になってるの!」

 このモエコの言葉を聞いた教頭と絵描きは共に驚いて思わず互いを凝視した。そして一瞬にして彼らは察したのだ。教頭は愕然として口を開けたままとまり、絵描きはその教頭に向かって意地の悪い笑みを浮かべた。

 ああ!なんてことだ。モエコの奴は私以外の男と付き合っていたのだ。教頭は思わずモエコを見た。騙していたのか。この私をずっと騙していたのか。彼はすっかり頭が真っ白になってなにも言えなくなってしまい開けた口を閉じることさえできない。その教頭に向かって校長が怒鳴った。

「君はいつまでそんなに固まっているんだ!早くこのスケバン生徒とフーテン男を追い出したまえ!まったく学問の場をなんと心得ているのか!このスケバンはフーテン男との交際を認めてもらうよう私の所に直訴にでもきたのか!追い出したまえ!この生徒はことは早速職員会議にかけて処分してやる!」

 お友達ショックからまだ立ち直れずにいる教頭には校長の言葉などまったく耳に入らなかった。ああ!モエコよ!なんでなのだ!私以外にお友達がいたなんて!お前はそんなあばずれ女だったのか!こんなフーテン男とお友達だったなんて!モエコよ、もしかしてお前は自分の処女をその男に捧げたのか?ああ!モエコよ!私はどうしたらよいのだ!

「やかましい!このくそハゲ!何がスケバン女よ!私がこの人と交際してるですって!ふざけんじゃないわよ!この人はお友達なのよ!お友達と恋愛なんかするわけないでしょ!」

 教頭はモエコの言葉にハッとして彼女を見た。良かった。モエコはまだ処女だ!

「なんだと!人の気にしていることをよくも!……退学だ!貴様のようなスケバンアバズレ生徒は今すぐにでも退学処分にしてやる!」

「退学できるもんならしてみろ!自分がハゲだって本当のこと言われたぐらいで生徒を退学処分にするなんてとんだお笑いだわ!」

「ああ!そんなに退学したいのなら今すぐハンコ押してやる!後で後悔して泣き言言っても遅いからな!」

 モエコと校長の争いは収集がつかなかった。完全に激怒したモエコはもう当初の目的なんかすっかり忘れてひたすら校長を罵倒している。校長も退学だ!退学だと喚き散らしている。このままじゃ暴力沙汰になると思われたとき、突然絵描きがモエコと校長の間に入ってきた。

「まあまあ二人とも。カッカなさんな!モエコ、君は校長先生に頼みごとがあってここにきたんだろ?忘れてないかい?」

「それどころじゃないわよ!このハゲは、自分がハゲだってホントのことを言われたぐらいで私を退学処分にしようとしているのよ!こんな奴に頭なんか下げられないわよ!」

 絵描きは怒りに顔を真っ赤にするモエコをやさしくなだめた。

「そこを耐えて頭を下げるのが大人の対応ってもんだぜ、モエちゃん。君は自分のプライドのために君と仲間で作ってきたものをぶち壊すのかい?」

 男に言われた言葉にモエコはハッとした。ああ!そうだったわ私は演劇大会でカルメンを成功させるためにここにきているんだわ!ああ!そのためだったらこのくそハゲにだって土下座するわ!モエコはそう決心するといきなり涙を流して土下座して校長に懇願した。

「ああ!校長先生!お願いです!今度の演劇大会に使う舞台の背景をそこにいる方絵描きさんに手伝ってもらうことを先生に許可してもらいたいのです!本当ならこんなこと出来ればしたくはありません。だけど演劇部で背景をやっていた子が入院しちゃって、舞台の背景のデザインができる人間が誰もいなくなっちゃったんです!この絵描きさんも私の必死の頼みに涙を流して協力すると誓ってくれました!だからお願いです!私と演劇部の願いをかなえてください!」

 するとなんと教頭までモエコと一緒に土下座し始めた。彼はさっきのフーテン男のモエコに対する態度をみて先手を取られたと思った。あれでモエコは幾分奴になびいたに違いない。男を叩きのめしてここから叩きだしたかったが、そうしたらモエコは自分から離れて行ってしまうような気がした。だから彼はモエコのために土下座することでモエコに自分をアピールしようとしたのだ。ひたすらモエコのために尽くすことそれが彼のモエコに対する愛だった。ああ!自分はモエコのためだったら糞の上でさえ土下座できる男なのだ!これはあのきざったらしいフーテン男には絶対に出来ないことだろう。彼はそのモエコへの愛のためにいつまでも棒立ちで立っている顧問に対して「君もさっさと土下座せんか!」と叱って土下座することを強要した。

 しかし校長にモエコたちの願いは全く届かなかった。彼は土下座しているモエコたちに向ってこう言い放った。

「今更土下座したからってなんだ!人をあれほど侮辱しておいて!君たち教師もこんなアバズレスケバン女をかばうんじゃない!この私をあれだけ侮辱していおいて何が演劇のためだ!去年県内に恥をさらしまくったのを忘れたのか!懲りずにまた今年も恥をさらすつもりか!こんなフーテン男まで呼んで!貴様らは一体この神聖な学問の場で何をするつもりなんだ!君はこの名門校の面汚しだ!さっさとここから出て行きたまえ!」

 この校長の言葉にモエコは完全にブチ切れた。モエコは立ち上がり、校長を思いっきりぶん殴ってやろうかと腕をぶん回し始めた。しかしその時再び絵描きがモエコと校長の間に入った。そして今度は校長に向ってこう言った。

「校長先生、そういえば今思い出したんですけど、この高校ってウチの一族の系列の財団が運営してるんじゃないかな」

「君、何を言ってるんだね?フーテンにかぶれたあまり頭でもおかしくなったのか?」

 絵描きは校長のそばによると名刺を差し出した。校長はその名刺を見た瞬間びっくりした表情で絵描きを見ていきなり土下座し始めた。

「今までのご無礼申し訳ありません!まさかあなた様が本家の御曹司とは知らず数々のご無礼を!この通り重ねてご無礼をお詫びします!まさかあなた様がこんな僻地にいらっしゃるとは思いもよらなかったもので!どうかこのことは理事たちにはご内密にお願いします!」

 校長はその光る禿げ頭をさらしながら深く頭を下げている。財閥の御曹司の絵描きはその校長にのもとにかがんで立つように促しそして聞いた。

「というわけで僕にモエちゃんたちのお手伝いをさせてもらえるかい?」

「是非!お許しいただけるどころか当校のためにお力を貸していただけるとは御礼の仕様がありません!」


 その後、モエコと御曹司とあと顧問はそろって校長と教頭に礼をして校長室から退出したが、その時モエコが再び校長室にいる教頭の元に駆け寄ってきた。彼女は教頭に向って涙をためてさっきはありがとうと言葉をかけた。教頭はそのモエコの思わぬ言葉に感激に咽び涙をこらえるのに必死だった。彼は嬉しかった。ただ愛するモエコの願いがかなったことが嬉しくて後のことは何も考えていなかった。彼はこう思っていた。まだモエコは自分の手中にある。東京から来たであろうあの財閥の御曹司は自分ほどモエコを知らないはずだ。教頭はこんな風に恋する男の能天気さで自分にとって都合の悪い想像をことごとく打ち消した。


 モエコたちは部室に戻ることにしたが、まず顧問が早足で歩き、その後をモエコと絵描きの御曹司がついていった。その道すがらモエコが御曹司に礼を言うと彼は意地の悪い笑みを浮かべてモエコに言った。

「僕だけじゃなかったんだね。モエちゃんは悪人だなぁ」

「へっ、どういうこと?あなた何を言ってるの?」

「いや、なんでもないさ。それとさっきの演技上手かったね。僕が泣きながら背景の手伝いをすることを引き受けたって嘘ついてさ」

「ふん、私は今カルメンにかけてるの。この舞台を成功させるためだったら嘘でもなんでもつくわ!」

「まあいいさ。だけどね」と御曹司はモエコにヌッと近づいて言った。

「約束はちゃんと守ってもらうよ。この舞台が終わったら絶対に君のヌードを描かせてもらうからね」





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