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ストーリーのない小説

「ストーリーがなかったら小説にはならない。だから僕らがストーリーを紡ぎ出さなくちゃいけないんだ」

「あなた小説のこと何にも知らないのね。世界にはストーリーのない小説なんていくらでもあるのよ」

「バカ言っちゃいけない。ストーリーのない小説なんて小説じゃないさ。人生がそうであるようにね」

「ハハハ、あなたの小説観って失笑ものだわ。現代の先鋭的な作家はそんな低俗な小説観に反旗を翻してストーリーのない言葉の芸術としての小説を書いているのに。あの、こんなこと言うのはなんだけど、フローベールからヌーヴォーロマンまでの小説の発展の歴史を学んだら?」

「僕はそんな小説のくだらないお勉強のことを言ってるんじゃないよ。フィツジェラルドがどうとかサリンジャーがどうとかカポーティ―がどうとかそんな事を言っているんじゃない。僕が今君に言っているのは言葉では言い表せないシンプルな感情についてだ。もうわかるだろ?僕が何を言いたいか」

「いえ、わからないわ。あの、申し訳ないけどあなたの言っている事は広告みたいに薄っぺら過ぎて私の心にまるで響いてこないの。もっとストレートに言えないの?」

「好きだ!君が好きなんだ!ほら言ったぞ!さぁ、君の答えを聞かせろよ!」

「……あなた。今なんて言ったの。まるでマラルメかウンガレッティかジョイスかベケットみたいに難解極まりない事言ったよね?でも残念だけど私の頭ではあなたの難解な言葉は理解できないわ。難しすぎるから多分一生理解出来ないと思う。じゃあね」

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