友情 ~俺たちのオリンピック
グランドに足を踏み入れたピエールはグランドの中央にいるフランソワに向かって笑んだ。フランソワはすぐにピエールの笑みに気づいて拳を上げた。その眩しいフランソワを見てピエールはやっと同じグランドに立てたんだなと感激して目頭に手を当てた。
二人は子供の頃からの親友であった。共にプロサッカー選手を目指して同じユースチームに属していた。フランソワはすでにエースでそのプレーはプロからも注目されていた。ピエールはそのフランソワに憧れいつかいつか一軍に上がって彼とともにグランドに上がることを夢見ていた。
ピエールはフランソワとのプレーを夢見て一軍に上がるために涙ぐましい努力を重ねた。その甲斐があって彼はとうとう一軍に上がることが出来た。彼とのコンビで数々の勝利をものにした。自分のロングパスをそのままトラップもせずボレーでそのままゴールに叩き込みフランソワ。四五人に囲まれてもなんなくかわしてフリーだった自分にキラーパスをくれるフランソワ。得点を決めた自分を抱きかかえて喜んでくれたフランソワ。チームは残念ながら優勝できなかったけど、それでもフランソワは自分と一緒にプレイ出来てよかったと言ってくれた。
だけど出会いがあれば別れが来る。成長するにしたがって思い知らされる現実。ピエールはフランソワからチームを離れると聞かされた。プロにスカウトされたという。ピエールはフランソワの話を悲しい気持ちで聞いた。なんて事だろうせっかく同じ場所に立てたのにまた上に登ってしまうなんて。でもピエールはもうフランソワに置いて行かれたくなかった。絶対にフランソワと同じグランドに立つんだと思った。だから彼はフランソワに力強くこう宣言したのだ。
「フランソワ、いつか俺も同じグランドに立って見せる。その時まで待っててくれよ!」
フランソワはこう言って号泣する友人をガシッと抱いてこう答えた。
「ああ!わかってるさ!俺たち同じグランドで優勝目指そうぜ!」
それから十年以上たちピエールは今こうしてフランソワと共にオリンピックの決勝戦のグランドに立っている。ピエールは目に溜めた涙で痛む目をかっと見開いてグランドを眺めた。そしてフランソワの所に駆け寄ってこう言った。
「フランソワ、待たせたな。やっとお前と同じグランドに立てたよ。もう大船に乗った気でいろ。この試合は俺がなんとしてでも勝たせてやる」
「ふっ、大きくでたなピエール。俺もお前をずっと待っていた。お前がいたらもう負ける気なんてしないぜ」
「ああ!任せとけフランソワ!今度は俺が何度もキラーパスを送ってやるぜ!」
国家の威信をかけた決勝戦。それぞれのプライドがグランドで激しくぶつかる。激しいタックル、審判の鋭い笛の音。相手チームの観客席から飛ばされるブーイング。ファールで貰ったフリーキックを蹴ろうとするフランソワ。
「汚ねえぞクソ審判!またファール取りやがって!お前卑怯にもほどがあるだろうが!こっちばっかりファール取りやがって!そんなに自分の国勝たせたいのかよ!」
決勝相手国の選手の猛攻撃を受けた審判はすぐさまレッドカードで退場を通告した。この審判の決定に相手国の選手は勿論監督やコーチまで出てきて彼にレッドカードを取り下げるよう詰め寄った。だが審判は引かないそれどころか逆にこれ以上抗議を重ねたらあなた方もレッドカードで退場させると言い放った。その審判の断固たる態度に相手国の連中は匙を投げて自陣へと戻っていった。審判はプレーを再開する前に自国のエースフランソワを見つめ無言でゆっくり頷いた。
大丈夫だ、俺はお前のためならこんな事全然平気さ。フランソワ、絶対勝てよ。俺はお前たちが勝つまで何度もキラーパスを送り続けてやるから。