見出し画像

【日記】アダルトチルドレンが抑圧している憎しみに気づいた時

自分は鈍い方だ。

嫌いなものを好きだと思い込んでいることがあるし、相手が嫌いだったことに何年も気がつかないこともあった。

鈍いにもほどがあると思う。


 今日の話は、実は自分が憎しみを溜め込んでいたということに気づいた瞬間の話。
 
フィクションかもしれないし、ノンフィクションかもしれないお話。
 



遡ること、学生時代。
 
当時、わたしにはBという指導教官がいた。
 
当初は人柄に惹かれて、その先生に是非指導をしてもらうと決めた。
 
ところが。
 
期待が大きれば、後の裏切りも大きいというが、
 
蓋を開けてみたら、B先生は思っていたほどいい指導教官ではなかった。
 


まず、話がコロコロ変わる。
 
「早く卒業しなさい!」と急かしたかと思えば、「そんなに急いで卒業しなくても大丈夫ですよ」と言う。
 
場面場面で言うことが変わる。

何なんだと思った。
 



次に、指導の日にドタキャンする。
 
一週間も前に約束していたにもかかわらず、論文指導の日に「あ、別の用事があったのを思い出したから、明後日出直してきて」と連絡してくる。
 
私がその連絡に気づいたのは、B先生にすっぽかされた半日後のことである。
 


 
さらに、B先生は自分の言ったことを実行しない癖があった。
 
例えば、論文の進捗が知りたいということで、論文のデータをメールで送ってくるようにと言われたことがあった。
 
「よければあなたの論文、チェックしますよ」と。
 
なので、私は当日早速先生にデータを送った。
 
一日経った。
一週間が経った。
一ヶ月が経った。
何も返事がない。
 
そうこうしているうちに二ヶ月が経った。
それでも返事がない。
遂には論文が書き上がってしまった。
 
先生の「チェックする」とは一体何だったのか。
 
釈然としなかった。

「大学の先生は忙しいから仕方ないよ」と言われたこともあった。

しかし、腑に落ちなかった。

忙しいのは、先生もサラリーマンも自営業も同じである。

「先生は忙しいから」という理由ですっぽかしも有言不実行も許されては、たまったものではない。


釈然としなかったが、そのまま日々を過ごした。
他にもいろいろあったが、卒業のためだと思って、学生の本分に没頭していった。
 

 
その後、何のかんのあって、学校は無事に卒業できた。

しかし、晴れ晴れとした卒業、とはいかなかった。

卒業はできたのだが、何か釈然としない感情が残ったのだ。

一言でいえば、モヤモヤする。

胸に手を当ててみても分からない。

結局、それが何の感情なのかを明らかにしないまま、私は学び舎を去っていった。
 


そして、時間が経過した。
 
ある日、私は収納ケースを整理していた。
 
すると、大量の冊子類の中から学生時代のスケジュール帳が出てきたのだ。
 
懐かしい、とページを繰ってみる。

論文執筆時代のページが目に飛び込んできた。 

「先生、まじ許せない」

 飛び込んできたのは、物騒な文字列だった。

「許せない」
「イライラする」
「ふざけんな」
「ちゃんとしてよ」


当時の自分は相当苛立っていたらしい。
繰っても繰っても、焦燥感と憎悪を隠そうとしないページしか出てこない。
我ながら引いてしまうほどの書き込みだった。
そして、

「憎い」
「憎い」
「憎い」


 ああ、そうだったんだ。
 
ちゃんと、ここに書いていたのに。
 
文字はきちんと気持ちを形にしていたのに。
 
「何か釈然としない感情」は目の前にあったのに。
 
鈍いにもほどがある。
 
日替わりの言動も。
不誠実な対応も。
 
全部自分にとって憎しみの対象だったのだ。
 
『私、先生が憎かったんだな』
 
そう気づいて口に出した瞬間、
 
何かがすっと、溶けていく気がした。

「憎い」は良くない感情のはずなのに、今の私には何故か心地よかった。
 
気がついていなかった時は、心に黒い澱が溜まっていくだけだったのに、自覚すると、こんなにも清々しい気持ちになるものなのか。
 
だから、私はもう一度口にした。
 
『先生なんか大っ嫌い』
 
それで終わり。
 
私は今後、先生を思い出すことはないだろう。
 
先生も学校も、人生のいち通過点に過ぎない。
 
それに囚われていては、「目的地」へは進めない。
 
「楽な一歩」すら踏み出せない。
 
私は、いま変わろうとしている。
 
これまでの、焦燥感や不安が強い自分から脱却しようともがいている。
 
だから、こんなところで通過点に囚われて立ち止まっている暇はないのだ。
 


そっと、日記を閉じた。
 
あの日の感情を気づかせてくれた、昔の自分にお礼を言いたい。
 
ありがとう。

あなたの気持ちは、私がちゃんと受け取ったよ、と―――。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?