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小さな旅の記録

無事、三日坊主を抜け出し4日目になりました。
今日は、先週末の大切な記憶を残しておくことにした。どんなに忘れたくない出来事や感情でも、どんどん忘れていってしまうことが恐ろしくてたまらないのです。



土曜日。いつもならもう少しだけ微睡を楽しんでいるベッドを抜け、いつもより少し丁寧にメイクをして、電車に乗った。まだ夏の日差しが残る9月の日、私は小さな旅をした。憧れの女の子に会うために。

何年振りかに乗る一人の新幹線。駅で少し奮発してのどぐろ入りの柿の葉寿司をレジへ差し出す。内心ドキドキしながら、ビールの缶も添えて。
時間に余裕を持って新幹線を待つ列に並んだせいで、ビールがぬるくなってしまわないか心配になってきた頃、ホームに車両がヌルッと入ってきた。
窓際の席、車窓に流れる景色を眺めながら味わう柿の葉寿司とビールは最高に美味しかった。カバンから本を出して読む。こんなに幸せなことってあって良いんだろうか。
ちっぽけな贅沢で日々が報われたなぁなんて思っていたら、あっという間に一時間半の道程を走り終えた新幹線が駅へと滑り込む。
初めて出会う街、二度と会うこともないだろう人々、そして、果たすべき役割の何もない透明人間のような自分。私は、この感覚を味わうために旅を繰り返してしまうんだ。

約束の時間までは海へ行ってみることにした。
知らない街のバスを、これまた内心ドキドキしながら乗り継ぎ、二度目の日本海へと辿り着く。太平洋よりも濃く、力強い印象を受けるのは気のせいだろうか。遠くに佐渡島がのっぺりと横たわっているのが見えた。しばらく海を眺めた。潮騒の中で自分の中が空っぽになっていくような感覚が好きだ。私は、海が好き。

そうこうしているうちに約束の時間が迫り、街へと戻る。今度は知らない電車に乗って。
今回の旅の目的、それは好きなバンドのライブに行くため。ライブって待ち合わせみたいだなぁって思う。行く側も、ステージに立つ側も、お互いがお互いに会いたいと思ったその日の予定を空け、その瞬間を共有するために日々生き抜いてやって来る。ようやく顔を合わせる瞬間が、私は狂おしいほど愛おしく思う。日常の水面から、顔を出して息を吸い込む瞬間。
眩しさに滲むステージと、溶け込んで全てから身を隠せそうな客席の暗闇。私はこの空間に心底ホッとする。一曲目から何故か涙が止まらなかった。存在しそうで存在しない、憧れの中だけの生活と、創り出された感情。ここへ来なければ湧き上がることのないそれらは、最高純度の幸せでありながら心の片隅に傷をつける。好きな音楽も映画も、何もなかったはずのところで生まれる感情の強さに苦しくなる。一種の自傷行為なのだ。
それでも、日常から離れた瞬間でしか会えない自分に会いたくて、何度も足を運んでしまう。

私はあなたたちの音楽のような女の子になりたい。かっこよくて、可愛くて、とても強い。何者にもなれずに燻る焦燥感と、あの時の誰かの言葉や自らの振る舞いを頭の中でぐるぐると反芻する時間の嫌悪感。美しくはない感情は音楽によって昇華され、どうしようもない自分を愛し世界を愛することができるような気がしてくる。そして、私の可愛さは私がいちばん知っている。自分の中で静かに、でも確かに燃える何かを感じながら、過ぎた幸せな瞬間を夢に浮かべて瞼を閉じる。バスの中。帰り着く頃には、この夜は明けているだろう。

-2023/09/02の日記-


だって どうだっていいって笑っても
まだ自分のことを愛したいんだって
もがいているんでしょう?

more than words/羊文学
羊文学、ツアー初日に会いに行ってきた。
電車の旅は空白が多くて好き。

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