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walk

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#小説

 月、綺麗だね。友達からのメッセージ。なんてことはない、そう、意味はない。うん、そうだね、綺麗だねと返す。暇?と聞かれるとそれなりに、と打ち返す。何してるの?と画面に表示されたから、ビジホのベッドで横たわっていると返信する。へえ、と、チャットが送られて、着信のバイブが鳴る。電話に出て、向こうからの声を待つ。
「もしもし?」
 涼しさと冷たさが絶妙に入り混じった声がした。
「はい、もしもし」
「てっ

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歩く速さ

 ねえ、ちょっと待って。数歩後ろから声が聴こえて僕は振り向く。彼女は少し疲れた相を浮かべて僕の隣に落ち着く。
「歩くの、速くない?」
「ごめん。気付いたら置いてけぼりにして」
 デジャブだ。僕は過去にも同じやりとりをしたんだ。立場は逆で、片思いの相手に声をかけたんだ。



 その日はよく晴れた夏の日だった。好きな人と美術館に訪れて、ミュージアムカフェでお喋りをして、夕食をどこで食べようか迷って

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