思いがけず利他 中島岳志
タイトルが秀逸すぎて思わずポチる。中島さんの本は初めて読むが大好きな伊藤亜紗さんと同じ大学の教授で一緒に研究してるとわかり軽くコーフン。
いい事って「思いがけず」なぜか「やっちゃった」くらいがベストなのかも知れないなと思う。
吉本隆明さんの言葉で「いい事をしている時は悪い事をしていると思ってやるとちょうどいい」というのがあるけどそれとも少し似ている。「いいことが自分の中だけにあるときはいいのですが、それが行為としてあらわれたとき、見た人が不愉快になる場合があるわけです。日常のなんでもない行為まで善悪が迫ってくると、ものすごく息苦しいでしょう。まわりを息苦しくさせる人は善悪のことを本当は知っていないのです。」今の日本は本当にきゅうきゅうに息苦しいな・・・と思った。風通しが必要でその隙間に入り込むのが利他なのかも知れない。
この本に登場する談志の「文七元結」という落語。知らなかったので早速聴いてみた。落語家によって解釈が違うんだねぇ・・・そして談志やはりいいなぁと思う。どうしようもない人間を単に肯定しただけでは落語を聞いた後の余韻を説明できないと中島さんは言う。ーどうしようもない人間のどうしようもなさ(業の肯定)を聞くことで、私たちはなぜ救われるのか。なぜ世界を温かく抱きしめる感覚を抱くのかーこの後の解説と中島さん自身の体験を書いた「青空の梅干しに」でやられた。。。このバカボンのパパのテーマソングを聞くたび涙が出そう。
「とっさに」「ふいに」「つい」「思いがけず」行ってしまうこと。祈ること。
昨年コロナ禍でジャック・アタリの「合理的利他」が注目された。自らが感染の脅威にさらされない為には他人の感染を確実に防ぐ必要がある。利他主義は結局自分の利益になると言うもので正にクールで現実的な視点と思いつつどこか寂しさを感じた。※
この本には、善意や正義に基づく、時に支配的な利他でもサバイバル術として活用する合理的な利他でもなく、とてつもなく豊かな利他の世界が広がっている。自分はどうしようもない人間である、そう認識した人間にこそ合理性を度外視した「一方的な贈与」や「利他心」が宿る。「無私」の境地とでもいうのだろうか。世界や運命の前に自分の全部を差し出すしかない・・・。
そして時にその行為は奇跡のような展開を世界にもたらす。
とても面白かった。
※追記 後日、「合理的利他」は人にだけではなく自然環境に対しても行わなければならないとのジャック・アタリのインタビュー記事を読んだ。そう考えるとまた違った見方をしなければならないと思うが(人間の責任という意味で)意識した時点でやはり少し違ったものになる気がする。