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星屑みたいな

 不思議な縁の話を聞いた。某氏と、一緒に入社した人。転職組が打ち合わせ一切なしで同時に退社。ほんとに?笑って、ちょっと泣けた。進む道は違うけれど、きっとどこかでまた繋がってたりするんだろうな、と思う。
 というか、そうあってほしい。まだ某氏が元気だった頃、いや遡ってわたしもそこにいたあの頃、正反対に見えるふたりが笑いながら話す空気感、わたしはとても好きだった。

 「少年マンガだったら、俺たちのはじまりはここからだ!とか書かれちゃうやつっぽいね」
 ・・・・・・って言ったら笑ってやんの。同じ時間を長く過ごしてきたって、なんか感慨深いね。

 それぞれまったく違う場所から集まって、幾つもの研修を受け、同じ場所に席をもち、たくさん話し合って会議してたくさんのモノを作った。ああじゃないこうじゃないと反響や批判を取り上げ、お便りには目を通し、時にはキャラクターを描き、キャラクターの体裁で返事を書いたりもした。
 転職したものの、間接的には引き続きなんだかんだ長く関わっていたものだ。
 その会社との縁が、大学を卒業してからこのかたはじめて切れる。本業もあり、近年は名前を出さず某氏を通じてクローズドで協力していたので、そういうこと。中の人たちともう会わないとは限らないが、節目とはとても不思議な感じがするものだ。

 移動車の中で謎に魚肉ソーセージ食べてたなあとか、めちゃめちゃ早朝にすごい寝起き顔で集まったよねとか、行った先で某氏が彼女にプレゼントを探していてみんなで冷やかしたよなあとか、くだらない思い出ばかりがたくさんある。
 多分、残っていくのはいつだってくだらない思い出ばかりだ。
 打ち上げ、偉い人たちが軒並みぐでんぐでんに酔っ払ってるのを見るやいなや、あまり飲まない&飲めない勢がここぞとばかりに好きなものを注文したり。
 外注作家が二次会カラオケでアニソンを歌い出して、アニメ好きの先輩とバトルになったり。でも場をぜんぶ持っていったのが元プロ歌手で作曲家の大先輩だったり。
 ふざけて頭にネクタイを巻きだしたあの偉い人、和菓子を差し入れてくれたイケオジ上司。二日酔いの先輩が「胃薬持ってきて」と駄々こねるさまが可愛かったこと(声にしたら怒られるけれど)。

 真冬の夜中もしくは明け方、つめたく澄んだ空気の中で飲むホットココアが最高に美味しくて、疲れやわだかまりがゆっくりと溶けていくような気がしていた。
 表には出ないたくさんの悲しみや不条理をそうやって溶かして、朝にはもう何もなかったように次の仕事が待っている。
 冴え冴えと星が綺麗なんだよな、冬は。

 星屑みたいに小さなことばかり。でも大切な思い出ばかり。書けないことはもっとたくさん。
 あの時間があるから今があるんだろう。馬鹿みたいに要領悪くて走り回って、独楽鼠だのハムスターだの好き勝手言われていたあの頃。いつの間にか、少なくとも打たれ強くはなった。
 現実なんてまったく何ひとつ思うようになんてならないし、唐突にとんでもない崖っぷちに立たされたりも何度もした。あの頃一緒にいた人の多くだって、もうそこにはいないという。身体を壊してしまった人、心を病んでしまった人の話も聞く。みんな幸せになってほしい。みんなかならず。

 とりあえずわたしはここにいる。明日の行方もよくわからないまま、道を探しながら。

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なつめ
なつめ がんサバイバー。2018年に手術。 複数の病を持つ患者の家族でもあり いわば「兼業患者」

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