
レルシュタープが語る、ベートーヴェンの『月光』ソナタ
Note上で展開する、架空のラジオ番組《クラシック・エトセトラ》。
この番組では、毎回異なる音楽家がパーソナリティーを務め、
自身のお気に入りの曲と、その曲にまつわるエピソードを語っていきます。
今日の担当は、音楽評論家で詩人のルートヴィヒ・レルシュタープさんです。
(お話は史実に基づき構成しています)
こんにちは、ルートヴィヒ・レルシュタープです。
僕は両親が音楽家だったこともあって、
もともとは作曲を勉強していましたが
今は音楽評や詩を書いたりして暮らしています。
僕の詩には、フランツ・リストやマイヤベーア、
あのシューベルトも音楽をつけてくれています。

今日は、僕の書いた散文をきっかけに、
皆さんによく知られる渾名がついた作品、
ベートーヴェンの『月光』ソナタを紹介したいと思います。

ベートーヴェン自身が亡くなるまで所有していた。
現在はベートーヴェン記念館(パスクァラティハウス)に所蔵されている。
この作品は、ベートーヴェン30歳の時、1801年作曲したもので、
そもそもベートーヴェン自身は「幻想曲風ソナタ」という題名を付けて出版していたものです。

ベートーヴェンがこの作品を作曲してから20年以上経った1824年、僕が25歳の時、ある新聞の中で僕はこの作品について、こんな風に書いたのです。
もし幻想曲嬰ハ短調のアダージョを忘れていたら、
私は偽りの連続五度にも値しないだろう。
湖は夕暮れの月明かりの中に静まり、
波は鈍く暗い岸辺に打ち寄せ、
陰鬱な森の山々は聳え立ち、
聖地をこの世から閉ざし、
白鳥が幽霊のように囁き声をあげて洪水の中を泳ぎ、
エオリアンハープは孤独な愛の憧れの嘆きを廃墟から神秘的に響かせる
ーー静かに、おやすみなさい!

「湖に浮かぶ月の光」
この作品に対する僕のアイディアは、
その後、僕がルツェルン湖を旅した時に生まれたとか、
いろんな人の想像と共に拡散されていって
いつしか作品が「月光」ソナタと呼ばれるようになったんです。
でもこの第1楽章って、ベートーヴェンはきっと、
彼が大好きだったモーツァルトのオペラ《ドン・ジョバンニ》の
第1幕の「騎士長の死」の場面の音楽をパロディ化したものだと思うんです。
この場面の音楽を、ベートーヴェンは彼のスケッチ帳に書いてもいます。
その場面を少し聴いてみてください。
このビデオだと3分50秒あたりから最後までです。
ソナタは全体として、確かにオペラのように劇的です。
フィナーレは凄くドラマティックだし。
たとえ「死」のイメージが第1楽章に秘められていたとしても、
「死」と「月」のイメージって、そんなに遠くないものでもあるから、
「月光」の渾名も、あなたがち悪くないなって思っています。
「月光」の新聞記事を書いた翌年の1825年、
僕はウィーンのベートーヴェンを訪ね、ようやく挨拶ができたのですよ。
それでは、ベートーヴェンの『月光』の名で知られる
『幻想曲風ソナタ』ソナタ第14番 嬰ハ短調 作品27の2を
お聴きください。
演奏は、ダニエル・バレンボイムです。
Note上で展開する、架空のラジオ番組《クラシック・エトセトラ》。
いかがでしたか。
番組は、ほぼ日更新。名曲の、目から鱗のエピソードが語られていきます。
皆さんのフォローを、ぜひお待ちしています!
いいなと思ったら応援しよう!
