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レルシュタープが語る、ベートーヴェンの『月光』ソナタ

Note上で展開する、架空のラジオ番組《クラシック・エトセトラ》。
この番組では、毎回異なる音楽家がパーソナリティーを務め、
自身のお気に入りの曲と、その曲にまつわるエピソードを語っていきます。
今日の担当は、音楽評論家で詩人のルートヴィヒ・レルシュタープさんです。

(お話は史実に基づき構成しています)


こんにちは、ルートヴィヒ・レルシュタープです。
僕は両親が音楽家だったこともあって、
もともとは作曲を勉強していましたが
今は音楽評や詩を書いたりして暮らしています。
僕の詩には、フランツ・リストマイヤベーア
あのシューベルトも音楽をつけてくれています。

ルートヴィッヒ・レルシュタープ(1799−1860)

今日は、僕の書いた散文をきっかけに、
皆さんによく知られる渾名がついた作品、
ベートーヴェン『月光』ソナタを紹介したいと思います。

1803年秋にヨーゼフ・メーラーにより描かれたベートーヴェン(1770−1827)の肖像画
ベートーヴェン自身が亡くなるまで所有していた。
現在はベートーヴェン記念館(パスクァラティハウス)に所蔵されている。


この作品は、ベートーヴェン30歳の時、1801年作曲したもので、
そもそもベートーヴェン自身は「幻想曲風ソナタ」という題名を付けて出版していたものです。

初版楽譜の表紙


ベートーヴェンがこの作品を作曲してから20年以上経った1824年、僕が25歳の時、ある新聞の中で僕はこの作品について、こんな風に書いたのです。

もし幻想曲嬰ハ短調のアダージョを忘れていたら、
私は偽りの連続五度にも値しないだろう。
湖は夕暮れの月明かりの中に静まり、
波は鈍く暗い岸辺に打ち寄せ、
陰鬱な森の山々は聳え立ち、
聖地をこの世から閉ざし、
白鳥が幽霊のように囁き声をあげて洪水の中を泳ぎ、
エオリアンハープは孤独な愛の憧れの嘆きを廃墟から神秘的に響かせる
ーー静かに、おやすみなさい!

『ベルリン総合音楽新聞』「ある音楽スケッチ」より 訳;夏目ムル
レルシュタープの散文に基づくイメージ

「湖に浮かぶ月の光」
この作品に対する僕のアイディアは、
その後、僕がルツェルン湖を旅した時に生まれたとか、
いろんな人の想像と共に拡散されていって
いつしか作品が「月光」ソナタと呼ばれるようになったんです。

でもこの第1楽章って、ベートーヴェンはきっと、
彼が大好きだったモーツァルトオペラ《ドン・ジョバンニ》
第1幕の「騎士長の死」の場面の音楽をパロディ化したものだと思うんです。
この場面の音楽を、ベートーヴェンは彼のスケッチ帳に書いてもいます。
その場面を少し聴いてみてください。
このビデオだと3分50秒あたりから最後までです。


ソナタは全体として、確かにオペラのように劇的です。
フィナーレは凄くドラマティックだし。
たとえ「死」のイメージが第1楽章に秘められていたとしても、
「死」と「月」のイメージって、そんなに遠くないものでもあるから、
「月光」の渾名も、あなたがち悪くないなって思っています。


「月光」の新聞記事を書いた翌年の1825年、
僕はウィーンのベートーヴェンを訪ね、ようやく挨拶ができたのですよ。

それでは、ベートーヴェン『月光』の名で知られる
『幻想曲風ソナタ』ソナタ第14番 嬰ハ短調 作品27の2
お聴きください。
演奏は、ダニエル・バレンボイムです。


Note上で展開する、架空のラジオ番組《クラシック・エトセトラ》。
いかがでしたか。
番組は、ほぼ日更新。名曲の、目から鱗のエピソードが語られていきます。
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夏目ムル
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