見出し画像

ドビュッシーが語る、《金の魚》と《雪の上の足跡》

Note上で展開する、架空のラジオ番組《クラシック・エトセトラ》。
この番組では、毎回異なる音楽家がパーソナリティーを務め、
自身のお気に入りの曲と、その曲にまつわるエピソードを語っていきます。
今日の担当は、作曲家のクロード・ドビュッシーさんです。


こんにちは、クロード・ドビュッシーです。

1905年頃のクロード・ドビュッシー(1862−1912)


突然ですが、僕は日本の美術が大好きでね。
かなりコレクションしているんだよ。
書斎には、浮世絵を飾っているし、
リビングには日本製の仏像も置いてるし、
机の上には「アルケル」って渾名をつけてる木彫のカエルの文鎮もあるし、
かなり年代物の鍋島製のインク壺も持ってるんだよ。
すごいでしょ。

ドビュッシー(左)と作曲家エリック・サティ(右)。
サティがドビュッシーの家を訪れた際に撮影された写真。
中央の暖炉の上には、ドビュッシーのコレクションの日本製の仏像が置かれている。

ジャポニスムが人気なパリでも、
とびきりの珍しいものばかりだと思うよ。
だから、客は我が家に来ると、
僕のコレクションと一緒に写真を撮りたがるんだよ。

ということで、
今日は、ぜひ日本の皆さんに聴いてもらいたい
僕の作品を2曲紹介したいと思います。

1曲目は、ピアノのための作品で《映像》っていう作品集の
第2集に収めた作品なんだけれど《金の魚》という曲だよ。
ときどき、金魚って訳されているみたいだけど、
僕的には、もっと立派な魚。そう、金の錦鯉って感じなんだ。
僕のコレクションの中に、錦鯉の蒔絵があってね。
その金色の鯉なんかを思い描いて書いた作品なんだよ。


それでは、まず1曲目の《金の魚》です。
今日は、僕の友人でもあるスペイン人ピアニスト、
リカルド・ビニェスくんの演奏でお聴きください。
蒔絵から錦鯉が飛び出すんじゃないかっていう躍動感のある演奏だよ。


次は2曲目です。
今の季節、日本の冬にぴったりな雪景色の音楽を紹介するよ。
これもピアノのための作品で、
《前奏曲集》という曲集の中に収めた《雪の上の足跡》っていう作品だよ。

さっきも話したとおり、
僕は、日本の浮世絵がすごく好きで、たとえば葛飾北斎の『富嶽三十六景』。
あれは大のお気に入りなんだ。
数百年に一度、世界に現れるかなっていうくらいの
素晴らしい作品だよね。

ドビュッシーとイーゴリ・ストラヴィンスキー:エリック・サティによる1910年6月の写真。ブローニュの森通りにあるドビュッシーの自宅で撮影。
二人の後ろには、葛飾北斎『冨嶽三十六景』の「神奈川沖波裏」(1905年に出版されたドビュッシーの交響詩《海》の表紙に使われたことでも有名)と喜多川歌麿の浮世絵が見える。


『富嶽三十六景』はパリの芸術界でも話題の作品でね。
「ル・シャ・ノワール/黒猫」ていうキャバレーでよく会う、
アンリ・リヴィエール君なんかは『富嶽三十六景』をパリ流に読み替えて
雪景色の絵も描いてたな。
僕も北斎を知ってからは、
パリの景色を、ときどき北斎の浮世絵のように見ていたのかもしれない。

アンリ・リヴィエール《エッフェル塔三十六景 建設中のエッフェル塔、トロカデロからの眺め》


フランスの画家たちは雪景色を描くのが、すごく好きなんだ。
最近パリで人気のロシアの画家たちにも雪景色が多いよね。
僕は、そんな中でも大好きな浮世絵に描かれた雪景色も見たりしてね、
それで、僕も僕流に、心に浮かんだ雪景色を音で描いてみたんだ。

葛飾北斎『冨嶽三十六景』より「礫川雪ノ且」(こいしかわゆきのあした)


「寂しく凍りついた風景がおぼろげに目に浮かぶように」って
楽譜の最初にも書いたんだけど、
真っ白な雪の静寂を感じてもらいたいなと思っています。
日本のみなさんに、僕がぜひとも聴いてもらいたい作品です。


それでは、《雪の上の足跡》をお聴きください。
演奏は、ヴィキングル・オラフソンです。


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集