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メンデルスゾーンが語る、〈春の歌〉

Note上で展開する、架空のラジオ番組《クラシック・エトセトラ》。
この番組では、毎回異なる音楽家がパーソナリティーを務め、
自身のお気に入りの曲と、その曲にまつわるエピソードを語っていきます。
今日の担当は、作曲家のフェリックス・メンデルスゾーンさんです。
(お話は史実に基づき構成しています)



こんにちは、フェリックス・メンデルスゾーンです。
昨年、1843年にドイツのライプツィヒに音楽院を設立して、
そこで院長を務めています。

1839年のメンデルスゾーン(1809−47)

今日は、子供達との思い出の曲を紹介したいと思います。
今年出版したピアノのための曲集《無言歌集》第5巻の中の
〈春の歌〉という作品です。

この曲は、妻のセシルと子供達とイギリスへ行ったときに生まれた作品です。
私たちは演奏会のためにロンドンへ行ったのですが、
街が大気汚染でスモッグ覆われていて・・・
健康に悪いから、しばらく中心部から離れようということになったんです。
ちょうど郊外のキャンバーウェルという場所に、
妻の親戚のベネッケ夫妻が住んでおりまして、
しばらく、お世話になることにしました。
キャンバーウェルは、リトル・ドイツと言うのでしょうか、
各地からイギリスへ来たドイツ人がたくさん住んでいる場所なんですよ。

19世紀のキャンバーウェルの様子

ベネッケ夫妻には子供が6人いまして、家族みんな大の音楽好き。
彼らは、イギリスに移住する前のドイツ時代からも
自宅で時々音楽会をしていた程です。
滞在中のある日、皆でピクニックへ行く予定にしていたのですが、
結局、いろいろあって家に留まることになりまして、
それで、時間を持て余した私はピアノを弾くことにしたんです。
すると、その周りで子供たちが音楽に併せて楽しそうに遊び始めまして、
そんな子どもを眺めながら弾いていたら
この曲〈春の歌〉が出来上がったんですよ。

ピアノを弾くメンデルスゾーンと子供達
©︎夏目ムル


ベネッケ邸のあるキャンバーウェルは緑豊かな場所にありますので、
最初はこの曲を〈緑のキャンバーウェル〉と呼んでいたのですが、
今年出版する時に《春の歌》と名付けたのです。
曲が生まれたあの時の雰囲気に合うような気がしましてね。
僕と子供たちにとって大切な思い出の曲です。

それでは、《無言歌集》第5巻から第6曲〈春の歌〉作品62−6
をお聴きください。
演奏は、ダニエル・バレンボイムです。
彼は1970年代に僕の《無言歌集》全巻の演奏公演と録音もしてくれています。
《春の歌》の一つ一つ音、和音が
こんなに個性をもって豊かな色を持って響くんだって、
僕自身も驚いている演奏です。


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夏目ムル
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