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クライスラーが語る、《愛の喜び》

Note上で展開する、架空のラジオ番組《クラシック・エトセトラ》。
この番組では、毎回異なる音楽家がパーソナリティーを務め、
自身のお気に入りの曲と、その曲にまつわるエピソードを語っていきます。
今日の担当は、ヴァイオリン奏者のフリッツ・クライスラーさんです。



こんにちは、ウィーン出身で、
今はアメリカを拠点に活動しているフリッツ・クライスラーです。

1913年のフリッツ・クライスラー(1875−1962)


戦争中は、僕もオーストリア兵として参戦していたけれど、
その後、アメリカに来てね。
ヴァイオリニストとして、世界各地を回ってツアーをしてるよ。
今は、なんと年間250公演!
ほとんど毎日コンサートの生活だよ。

今日は、その僕のコンサートで毎回大人気の作品を紹介するよ。
《ウィーン古典舞曲集》っていう名前で発表した
ヴァイオリンとピアノのための曲集の中の作品で
〈愛の喜び〉 っていう曲だよ。

実はこの作品には秘密があってね。
これは、絶対に内緒ね。

《ウィーン古典舞曲集》って、
名前からわかるように
ウィーンに昔から伝わる舞曲を使ってるってことにしているけれど、
実は、これ、完全に僕のオリジナルなの。

みんな、ウィーンとかウィンナー・ワルツとか好きでしょ。
だから僕のオリジナルっていうよりも、
その方がウケるんだよね。
「ああ、ウィーン・・・」って、
みんなウットリで聴いてるよ。エヘヘ。
でも、絶対に内緒ね。
みんなの夢を壊さないようにしなきゃね。

ピアノに座るクライスラー。
クライスラーは、ピアノの名手でもありました。 ウィーンの音楽院では同じクラスのヴァイオリニストの伴奏も日常的に引き受け、ほとんどのヴァイオリン作品のピアノ伴奏を弾くことができたと言われています。 クラスラー自身によるピアノの録音も残されています。


それから、〈愛の喜び〉ってことで、
僕の「愛の喜び」である妻のこともちょっと話しておかなきゃね。
彼女ハリエットとは、まだ僕がウィーンに住んでいた時に出会ったんだ。

船上のクライスラーとハリエット


それも、アメリカからヨーロッパへ戻る船の中の理髪店で!
運命的な出会いでしょ。
それで、そのまま船内で婚約して、
翌年、ニューヨークで挙式を挙げたんだ。

クライスラーとハリエット


ハリエットは、僕の音楽人生にとってまさしく「幸運の女神」!
ニューヨークの大きなタバコ商の家の生まれでね。
音楽とは無縁なんだけれど、
僕の才能をだれよりも理解してくれる人なんだ。

クライスラーとハリエット

今は、僕のマネージャーをしてくれていてね。
ギャラの値上げとか、むずかしい交渉はすべて彼女まかせ。
世界各地での演奏会をどんどんブッキングしてくれる
敏腕マネージャーだよ。

家では音楽以外のことは全くしなくていいって。
でも、僕は練習が嫌いだから、
練習しなさいって、僕を練習室に閉じ込めるんだよ(笑)
厳しい妻でしょ。

二人はクライスラーが亡くなる時まで生涯を添い遂げました。
ハリエットはクライスラーが亡くなった翌年に後を追うように亡くなっています


ということで、僕の「幸運の女神」についてお話をしたところで、
さっそく〈愛の喜び〉を聴いてください。

演奏は、今、世界で最も素晴らしいヴァイオリニスト、
フリッツ・クライスラーさんです。
って、僕自身だよ(笑)へへへ・・・。


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