外国ルーツの人にきく [食べたら元気になるごはん] 第0回 連載のまえがき
ひどく疲れたときや、落ち込んだとき、どんな料理が食べたくなりますか?
ライターの青野棗(あおのなつめ)です。
「外国ルーツの人にきく〜食べたら元気になるごはん」という企画に取り組んでいます。
日本で働く外国ルーツの方々に、風邪をひいたときや、落ち込んだとき、ものすごく疲れたときに食べたくなる料理を教えてもらいながら、日本での暮らしについてインタビューするという企画です。(写真は2019年12月の第1回目取材時のお弁当で、鶏ゴボウごはんのおにぎり、たまごやき、ブロッコリーとおろし生姜のおひたし)
この企画はもともと、品川区の隣町珈琲が創刊した地域文芸誌『mal"』とのご縁ではじまりました。
http://tonarimachicafe.jp/contents/books.html
http://tonarimachicafe.jp/contents/BOOKS2.html
その後、個人的にもインタビューを続けていく中で、これはライフワークにしたい企画だなあと思うようになり、定期的に発表できる場を探していて、noteにたどりつきました。
連載をはじめる前に、どうしてこの企画をはじめたのかを書こうと思います。
どうぞよろしくお願いします。
私がはじめて「外国人」になったときの話
私がはじめて「外国人」になったのは、今から30年以上前、交換留学生としてアメリカで暮らした、高校生のときでした。
英語もほとんど話せないのに、よく行ったなあ……と今は思うのですが、そのときはわくわくする気持ちの方が強かったのです。
1年間お世話になるアメリカ人のホストファミリーと、空港で初対面の挨拶を交わし、はじめて一緒に食べた夜ごはんは、『ピザハット』のピザでした。
次の日の朝ごはんは、シリアルと牛乳でした(灯油か?と思うほど大きな牛乳の容器に驚かされました)。
昼は高校の食堂でホットドッグを食べました。
その日の夜は『マクドナルド』のフィレオフィッシュバーガーとポテトを食べました(日本の『マクドナルド』よりも、少しだけ塩分が強いように感じました)。
30年以上前の当時、関西の田舎である私の地元には、『ピザハット』も『マクドナルド』もありませんでした。
ピザもハンバーガーも、私の中では「都会へ出かけたときに食べる、おしゃれな食べもの」という位置づけでした。
そんなわけで、こういう食事が楽しくて、アメリカのごはんはいいなあ、毎回がお祭りのおやつみたい、面白いなあと思ったものです。
でも、これはお祭りのおやつでも、たまに都会に出かけたときに食べるものでもありませんでした。
これは、日常のごはんでした。
「私は野菜が好きだ」(それは英語で言えました)と言うと、ホストマザーは仕事の帰りによく野菜を買ってきてくれて、それをオーブンで焼いたり、一緒にサラダを作ったりもしました。
「こんな野菜知ってる?」とアーティチョークをはじめて教えてくれたのも彼女です(これは彼女が留学生としてスイスにいたときに、はじめて知った野菜だそうです)。
ホストマザーは思慮深くて優しい人で、いろんな場面で私を助けてくれました。
それでも、私はだんだん不安になってきたのです。
炊きたてのごはんに、熱々のお味噌汁。
お味噌汁には刻んだ青ネギをたっぷり入れて食べたいなあ……。
そんなことばかり考えるようになりました。
でも、そういうことを伝える英語力は、私にはありませんでした。
さらに、アメリカではどこへ行くのにも車が必要で、私は運転することができませんでした。
日に日に暗い顔つきになってゆく私を案じたのか、親切なホストペアレンツは、ある日、どこからか炊飯器を手に入れて、持ち帰ってくれました。
その日のうちに私たちは、あたりでいちばん大きいスーパーマーケットに車で出かけ、カリフォルニア米を買いました。
製菓材料のコーナーでセサミ(ごま)を見つけたので、それも買ってくれるように頼みました。
ホストマザーが「キッコーマンのソイソース」(しょうゆ)を探し出してきてくれたときには、嬉しくて叫びそうでした。
ふと思いついて、野菜売り場でアボガドも買ってもらいました。
その日の夜に作った「アボガド丼」のおいしさは、30年以上たった今でも覚えています。
炊いたごはんにスライスしたアボガドをのせ、ごまとしょうゆをかけただけのもので、アメリカの家族にはそれほどは喜ばれず、まったく同じものを今食べたとしたら、私もまた別の感想を持つだろうと思います。
でも、そのときは、ほんとうに、心が揺さぶられるようでした。
そのうちに、アメリカの食事にも慣れました。
薄いパンにピーナッツバターとジャムを挟んだサンドイッチや、「グリルドチーズサンドイッチ」(薄いパンでスライスチーズを挟み、押さえつけるようにしながらたっぷりのバターで両面をこんがり焼く)が大好物になって、いまだにときどき無性に食べたくなります。
でも、ひどく疲れたときや、落ち込んだときには、やっぱり日本の食事が恋しくなりました。
そんなときには、とりあえずごはんを炊きました。
心の状態と、食べものは、深くつながっているように思います。
「外国人」としてこの国にいることは、どんな感じだろう?
ここ数年、コンビニエンスストアや飲食店、介護施設や工場や工事現場など、さまざまな場所で、外国の人が働いているのを見かけることが増えました。
でも、ふだんの生活の中で、知り合える機会はあまりありません。
「外国人」としてこの国にいることは、どんな感じだろう?と思います。
アメリカで私を助けてくれたホストマザーみたいに、しょうゆを探してきてくれるような人は、まわりにいるだろうか、とよく考えます。
「ちゃんと食べていますか?」、と心の中でいつも話しかけてしまいます。
でも、実際にそんなふうに話しかける勇気は、なかなか出ません。
「あなたにとって、元気になる食べものはなんですか?」
「くたびれたとき、風邪をひいたとき、どんなものを食べたくなりますか?」
この企画は、それを聞いてみたくてはじめることになりました。
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