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愚か者の石 河﨑秋子著を読んで

長編監獄小説。
明治時代、北海道開拓のため、囚人たちは刑の軽重に関わらず、長期間の労役を課されていた。

そんな中、わりと軽い罪で捕まった巽は、2人を殺める重い罪の囚人、大二郎と同房になる。大二郎は、いわゆる法螺吹きだが、明るくみなを楽しませる愛嬌がある男だった。

巽にとっては、つらい囚人生活の中でも大二郎と時間をともに過ごせたのは、幸運だったのではなかろうか。

その大二郎は、小さな石を大切に隠し持っている。タイトルにもある通り、この石は物語のキーになっている。

よき相棒に恵まれたといっても、その労役は厳しいものだった。巽や大二郎に課される労役の様子が目に浮かぶように、しかし淡々と描かれる。中でも読んでいてつらかったのが、戦争で使う火薬を作るための硫黄採掘の場面である。

肉体労働だけでなく、有害な硫黄ガスで目をやられ喉をやられ、死んでいく囚人も多くいる。

人を人と思わないような労役が、『夜と霧』を想起させるほどだ。

この物語では、2人のほかに能面であまり表情を変えない看守の中田が重要人物として描かれる。

3人の奇妙な関係と大二郎の謎に目が離せない。しかし、先を急がずじっくりとその文章に浸りながら読み進めたい。そんな物語だった。



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