ウェルビーイングな遺品整理〜「処分」より「譲渡」が心を満たす
昨年9月に母を見送って以来、ずっと頭の中にある実家の片づけ。
中でも悩みの種は、彼女がたくさんの思いと労力とお金(笑)を注ぎこんだお着物たち。
その着物や帯の嫁ぎ先を探して、この度「譲渡会」を開催しました。
これは、本当に良い形で手放す経験になったので、備忘録として、またどなたかの参考になればと思ってしたためておこうと思います。(長文です^^;)
■引き取り業者の値付けが後押しに
ある日、母が残した数多の着物と帯を家中のタンスから出してみる。
・・と、ざっと100点近い!(驚)
別にお茶やお花をやっていた人ではない。
本当に、単なる「趣味の着物」たち。
にもかかわらず、名だたる産地の紬やら、作家モノやら、オーダー染め等々、よくもまぁこれだけ・・・とため息の出る品ばかり。
義理の妹とたとう紙を開けまくって中身を確認する。
「まだまだあるね・・^^;」
「これ着たところ見たことないね・・・」
笑いとぼやきの中で、お互い引き取りたいものを選ぶものの、悲しいかな、母と私は好みも似合うものもかなり異なる。
彼女はブルーベースだし、赤系は持ってないし、なにせ私よりも10センチも背の高い人だったし。(義妹も背丈は私と一緒)
気持ち的には持ち帰りたくても、また私のタンスに眠らせることになったらそれこそ元の木阿弥。それに我が家のクローゼットだって限界がある。
ということで、がんばって減らしても残り約80枚!(汗)
この着物たち、仮に引き取り業者に渡したらいかほどの金額になるのか?
まずは試しにと、知り合いを通じて紹介してもらった専門の方に来てもらうことにした。
同世代の女性。テキパキとすべての着物に目を通す。
その方曰く、
「着物って今やあちこちで溢れていて、需要と供給のバランスがとても悪い。呼びかけなくても、中古品はどんどん集まってきちゃうんですよね」
だから
「買ったときのお値段はまったく関係ないので、そのつもりで聞いてくださいね」
と念を押されてうかがった金額は・・・
「全部で20万でいかがでしょうか?」と。
・・・トホホ☆
やっぱりね・・と思う気持ちと、捨ててしまうよりはいいよね・・と計算する思考が働きかかったけれど、多分その値段で作れた着物は一枚もない。
そんな金額であっけなく母の手塩にかけた(?笑)産物を処分してしまうというのはあまりに寂しく感じたので、せっかく来ていただいたのに申し訳なかったけれど、着物の中古市場のお話しをいろいろ聞かせてもらってお帰りいただいた。
(でも、後から友人に聞いたら、それでも良い値段をつけてもらったほうじゃない?とのこと。本当にそんなもんです、着物の値段って…)
じゃ、このお着物たちをどうすれば成仏・・・じゃなかった!笑
しっかりと生かしてもらうことができるのか?
いや、一番肝心なのは、
どんなふうに手放したら、私自身の気持ちが納まるか?
私の悔いが残らないか?
そう考えたとき、ふと閃いたのが、母の着物だけれど、
「“私の”知ってる着物好きの人たちに着て欲しい」という思いだった。
特に、母との別れの場面を綴った手記?をアップしたとき、心を寄せて共に泣いてくれたり、励ましてくれたり、慰めてくれたりした皆さんにお分けして着ていただけたら・・という気持ちが強く湧き起こった。
■まずは写真を撮ってアルバムを作ってみた
業者さんを紹介してくれた友人に、
「証紙、とってある?」と聞かれて、「???」となった私。
産地の分かる良いもの(大島紬とか結城紬とかそういうの)は、それを証明する証紙というのがついてくるそうだ。
そんな話、母から伝えられてなかったけど、タンスの中を探してみたら、いくつかの証紙がバラバラと見つかった。
業者の方に広げてみてもらった時、せっかくだからとそれぞれ写真に撮ってみた。証紙のあるものはそれも並べて写真を撮る。
この作業、やろうと思っても、一人ではなかなか面倒でできない。
(一個ずつたとう紙開けて写真撮ってしまって・・・を80枚も繰り返すなんて気が遠くなるでしょ?^^;)
後から思ったことだけど、このとき撮っておいてすごくよかった。
皆さんに着物を紹介するのにも役立ったし、手放した後もどんな着物を母が好んでいたのかの歴史が手元に収まる。
写真をクラウドにあげて、その着物や帯を他の人にも見てもらえるアルバムってできるのかな・・?
検索したら、何のことはない。
iPhoneの写真から共同アルバムにして、共有するリンクを作ったらすぐできた。
このアルバムができたことで、私の頭に
「そうだ!譲渡会しよう!」という構想がリアルなものになった。
どこか公民館みたいなところの和室とかを借りて、手放す着物や帯をダーっと並べて、そこに興味を持ってくれた友人や知人たちに集ってもらい、気に入ったものがあったらお持ち帰りいただく・・・とか言うのはどうだろう?
イベントオーガナイザーの血が騒いだ(笑)
■予想を超える反響にびっくり!感謝
まずは、私の中できっとこの着物はこの人が着たら似合うだろうなーと思ったり、こういう企画を喜んでくれるだろうなーと思い浮かんだ人に、個別にメッセージを送ってみた。
こういう構想を練ってるんだけど、どうかな?興味ある?
もし遠くて来れなかったら、オンラインでつないでもいいよ・・と。
ほとんどの人たちが「すごくいい!」「ぜひ行きたい!」と賛同してくれた。
と同時に、Facebookの友人限定のタイムラインで、
母の着物をお譲りするイベントしようかと思ってるので、興味があって(実家のある)茅ヶ崎まで来られる人がいたら連絡くださいね、ご連絡いただいた方にはアルバムのリンクをお送りしますね、と書いてみた。
するとこちらも、コメントや個人メッセージでびっくりするくらいの方々からご連絡をいただいた。
私の頭の中でお着物と結びつかなかった人もいたし(実は着物好きだった、とか)、この投稿がきっかけで数年ぶりにコンタクトしてきてくださった方もいたりして・・。
最終的には、会場の大きさと私の対応できるキャパの都合で、お断りさせていただくほどの人数の方が手を挙げてくださった。ありがたい。
また、こういう形で母の遺品整理をすること自体に、関心を寄せてくださった方もいた。
遺された着物の処分、困ってる人多いことを実感する…^^;
・・・というわけで、あれよあれよと言う間に、予想を超えるお申し出をいただき、嬉しいやら、驚くやら、心配になるわで、いろいろ考えが巡ってめずらしく眠れなくなったりして(苦笑)私的イベントとしては久しぶりにワクワクが止まらなくなった^^
義妹と相談して、私たちの都合と予約したい会場の空き状況で、ピンポイントで日程が決まった。
日程の選択肢がなかったので、予定が合わず泣く泣く見送られた方もいたけれど、それでも会場には10名、オンラインで4名の皆さんが、スケジュールしてくださった。
■譲渡会当日。きっと母も喜んでいたはず。
譲渡会当日。
晴れた。
義妹と「これで今日土砂降りだったら、お母さんが“本当は手放したくないの”って言ってると思った」と冗談言ったりして。
実家から運び出すのに、甥っ子にも手伝ってもらい、車2台で市民文化会館の和室に向かう。10:00過ぎには搬入完了。
姿見4台、30畳一間続きにした部屋に並べた着物や帯は圧巻!(笑)
ほら、好みが偏ってるのが分かるでしょ?(笑)
12:00から一人目のビデオ通話。
今回オンラインで参加していただいた4名の方は、大阪、京都、名古屋、そしてハワイ!
いまの時代、スマホ一台あれば、こちらの着物を広げながら簡単に品定めしてもらえる。
中には、手持ちの帯や着物に合わせたいというリクエストで、コーディネートさせてもらった方もいらっしゃる!^^
13:00、第一陣到着。
その後、14:30、15:00、15:30と徐々に人が増えていく。
いっぺんにお呼びすると鏡前が混雑すると思ったので、ほどよく時差出動していただいた。
みんな最初は眺めてるだけだったけど、着物は着てみないとわからないので、「どんどん着ちゃって〜♪」
今回ちょっと頭を悩ませたのは、欲しいものが被ったらどうしようかな〜ということ。
先着順というのはなんだか味気ないような気もするし、何よりこれは私のわがままだけど、ご自身の好みもさることながら、似合う方に生かして欲しい。
考えあぐねて、こんなの作ってみた。
時間を決めて、それまでに好みのものにこのクリップを留めていってもらう、まぁ入札方式というか、ドラフトの指名制度みたいな?笑
何度着ても何枚着ても問題なし!
いままで手を伸ばさなかったようなものも、ぜひチャレンジを!
ということで、実際に着付けてみたり、
着付けてあげたり、
「こんなのは?」って合わせたり・・・
なんてやってたら、あっという間に時間が経ってしまいました。
皆さんには、もし欲しいものが被ったら、平和的に解決してくださいね・・・ということだけお願いしていたのだけれど、さすがその辺はわかってらっしゃる方ばかりで、何の揉め事もなく、ご来場の方にもオンライン参加の方にも、それぞれが好みのものをお持ち帰りいただけることになりました。
そして終わった後は(これもやりたかった・・・♡)
着物好きの人たちを繋ぐ交流の場(・・という打ち上げ^^)
母の着物がハブになって、新たなつながりが生まれるのもまた楽し♡
皆さんにもお伝えしたのだけれど、私の次の野望は(笑)今回お譲りした着物を皆さんに着ていただいてお出かけする「全員が母の着物を着ている写真」を撮ること。
そりゃ〜母もビックリするでしょうし・・・笑
このイベント、個人主催のものとしてはここ最近で一番楽しかった、というか、何とも言えない充実感というか、達成感というか、すごく良い経験になった。感謝。
■譲渡会って、譲ったら終わりじゃなかった!
オンラインで品定めしてくれた人たちの分を発送して、再度残ったものを確認する。
残ったものは、着物10枚、帯3本。
いや〜、すごい!皆さんよくお持ち帰りいただいた^^
参加者のメッセンジャーグループやタイムラインのコメントには、
素敵なお着物をお譲り頂いただけでなく、この機会を通してご縁が広がった事も大変嬉しく思います。着物と帯の組み合わせで表情が変わっていくのが面白く、これから先に「着物」という楽しみが増えた一日でした。
着物好きな方々とのご縁をいただけたことも、とても嬉しいです。今度はいただいたお着物を着て、みなさんにお会いできるのを楽しみにしております。
どれも本当に素敵なものばかりで、見ているだけでも幸せ、眼福でした。お譲りいただいた着物は大切に着用させていただきます。みんなでお着物デート行きたいですね。
「何回・何枚着てもいい!」「お世辞抜きの感想が聞ける」「今まで着たことのない着物と出会える」このようなとても貴重な会に参加できて、とてもうれしかったですし、楽しかったです!
・・・・等々、皆さん、この会をとっても楽しんでくださった様子。
さらにさらに、次の日になると、こんな風に着てみました〜!これ着ていまからお出かけします〜!と、持ち帰っていただいた着物を着たお写真を送ってくれる方がちらほら。
オンラインでも、届いた着物にこんな風に自前の帯と合わせました〜とか。
あぁ、なんだろう、この安堵感は。
母が遺してくれた着物たちが、こんな風に生かしてくださる人の手に渡って、さらにその様子を伝えてもらえるって幸せなことだなーと実感する。
あの80点近いアルバムを見返すと、どの着物を誰が気に入って持ち帰ってくれたのか、どの帯は誰の元に嫁いでいったのか、などが思い浮かんで気持ちがあたたかくなる。
これは「セイバリング効果」。幸福度を高めるエビデンスもある^^
金銭に代える処分も悪いわけではないけれど、モノより思い出ならぬ、お金よりつながりが幸福度を上げてくれる、しかも持続的に浸らせてくれることをダイレクトに感じた出来事だった。
お母さん、あなたの大切な着物たち、また別の場所で生かされることになったよ^^ よかったね。