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【パンタローネが語る】トロイア戦争。現在のトロイアの木馬は?

娘や息子の恋愛に反対する主人役の老人。滑稽であるけれども狡猾な召使い。その助けを借りて、恋愛を成就させる恋人たち。イタリアの伝統仮面演劇コンメディア・デッラルテは、「主人役の老人」「召使」「恋人たち」と大きく3つに分けることができるストックキャラクターが、時事問題をからませ、主人役を揶揄しながら笑いをとって繰り広げるお芝居です。

数あるストックキャラクターのなかでも、ケチな老人パンタローネは主人役の中で最も重要。

パンタローネ
Di Maurice Sand - SAND Maurice. Masques et bouffons (Comedie Italienne). Paris, Michel Levy Freres, 1860 - from de:wikipedia de:user:Eisenacher at 02:28, 11. Mär 2006, Pubblico dominio, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=1188840

召使いの主要キャラクタ―アルレッキーノがベルガモの方言を話すのに対し、パンタローネはヴェネツィアの方言を使います。コンメディア・デッラルテが盛んだった時代、イタリアは統一国家になっておらず、方言は各国の特色を示していました。そして、当時海を制覇していたヴェネツィア共和国は、東方との商売を盛んに行っており、お金はもっているのに、ケチな老人のパンタローネは、ヴェネツィア商人の特徴をよく表していたのです。

基本的に威厳があり厳格なパンタローネ。喜劇の中で笑いをとる役ではありません。そんなパンタローネがまじめさを忘れるのは、女性や宴に燃える時。好色なのも彼の特徴の一つです。

一番左がパンタローネ

そんなパンタローネのお面をかりて、現在の時事問題を語るイタリア人舞台俳優がいます。名前は、アンドレア・ブルネェラ。話す言葉は、ヴェネツィアの方言ですが、表示のイタリア語訳をもとに内容を訳してみます。

https://youtu.be/e2yNE2kecUo

Cantami su mia musa quella bile
tanto fatale agli infelici achei
che infuriar fece il Gran Pelide Achille
coi greci tutti in mezzo ai piagnistei!

ムーサよ、我に語れ!
不幸なアカイア人にとってとても運命的で
ギリシア人を嘆かせた
偉大なアキレスによって猛威が振るわれたあの怒りを!

La guerra di Troia,
il cavallo di legno,
Laocoonte coi figli e i serpenti dal mare…

トロイア戦争、木馬、ラオコーンと息子たち、そして海からの蛇・・・

E' forse dunque questa guerra,
il nostro feticcio presente e attuale?
Dovremmo a tutti i costi ancora una volta
spalancargli le porte d'Europa e farlo entrare per poi darci alla pazza gioia?

もしかして、この戦争は今現在の呪物?
何としてももう一度ヨーロッパの門を開けて、
それを受け入れた後、狂ったように喜ぶべき?

Ubriachi, drogati, fottuti, viziati, rintronati,
da questa sotto società dello spettacolo in cui
chiunque è obbligato protagonista di un selfie da sottoscala…
Quanto saremo svegli, quanto saremo pronti,
Quando quel gran cavallo si aprirà?

誰もがレベルの低いセルフィ―で主人公になったつもりになる
このショービジネスの社会で
酔っぱらい、薬物依存し、やられて、甘やかされて、アホになった
我々が、あの大きな木馬が開くときに
どれだけ目を覚まし、どれだけ準備ができているのか?

Attento Enea!
Coi nipoti che sparano col Flobert
all'insegnante in classe mentre insegna,
i bisnonni che crepano un sull'altro
visto che non c'è posto in terapia intensiva
e perfino un femminicidio al giorno che
scatta a tassametro quanto le feste dei santi…

気をつけろアイネイアス!
授業中に生徒がエアソフトガンで教師を撃ち、
集中治療室に空きがないために老人が次々と死に
聖人の日がタクシーメーターを上げていくかのように
毎日フェミサイドが起こる。。。

Attento Enea!
Che quando io tutto questo dirò in Alto,
Uomini cari, ne pagherete il fio:
Come sapete gli dei non pagano ogni sabato di sera,
ma quando pagano, danno moneta intera!
 
気をつけろアイネイアス!
私が高みでこのすべてを語ったとき、
親愛なる男たち、君たちはその代償を支払うことになるだろう
知っているだろう、神たちは毎週土曜日の夜支払うわけではなく、
支払うときは、全額支払うのだ!

パンタローネは、ギリシア神話のトロイア戦争をパロディに現在の問題を語っています。攻撃していたギリシア人が残していった大きな木馬を、欺かれたトロイア人が城門を破壊してまでして城壁内に運び込んだたため、トロイアが陥落するトロイア戦争の叙事詩は有名です。

ここで、パンタローネは、ウクライナをトロイアの木馬に例えています。アメリカやヨーロッパ諸国から多大なる軍事支援を受けているウクライナ。
ウクライナが勝利した場合、ヨーロッパに受け入れる準備ができているのか?ヨーロッパの破滅につながるのではないかと警鐘を鳴らしているのです。

ウクライナは、とても大きな国土の国です。EU加盟国の中で一番大きいフランスの国土を上回ります。今現在、すでに加盟国が増えたEUは、フランスやドイツを中心になんとか調和を保っています。しかし、文化的にも歴史的にもヨーロッパよりもロシアに近いウクライナが、ヨーロッパに受け入れられた後、自国のアイデンティティをつくった際、今の調和を保ち続けることができるのか。

そして、受け入れる側イタリア(ヨーロッパ)の状態を嘆きます。

去年の秋、イタリア北部ヴェネト州にて、高校に入学したばかりの学生(14歳)が授業中に教師に向けエアソフトガンを発砲し、ゴム製の弾丸が教師の目と頭にあたるという事件が起こりました。そして、今年に入り、その教師がクラス全体を告訴したため、ニュースに大々的にとりあげられました。

そもそも生徒が玩具であれ銃を教師に向け撃ったことだけでも大問題ですが、さらにその様子は動画にとられネット上に拡散されています。(今でもモザイクは入っていますが動画をみることができます。)しかし、親は謝罪するどころか自分の子どもを守るために校長先生に直談しに行ったり、テレビで人気のある女性コメディアンが「生徒の共感を呼び起こすことができる教師は、銃で撃たれることはない」と発言したりと、生徒側にたった意見もたくさん出ました。賛否両論が巻き起こりましたが、最終的には、教育相ジュゼッペ・バルディターラ氏が以下の言葉をTwitterに残し、校長先生を呼び寄せ、この問題に真摯に取り組んだことに少し安心しました。

"Quando uno studente spara ad un insegnante non ci sono se e non ci sono ma. Educhiamo al rispetto sempre e comunque”
一人の生徒が教師に向かって発砲した際、「もし」や「だけど」はありません。どんな時でも、いかなる場合も、敬意をはらうよう教育すべきです。

Twitter

また、フェミサイドも現在のイタリアの大きな問題の一つです。2021年のデータによると、119人もの女性が暗殺され、そのうち104人がパートナーもしくは元パートナーによって殺されています。これは、男女不平等の歪みを一気に解消しようとした結果なのではと私は思っています。

日本とイタリアは、アジアとヨーロッパでとても離れていますが、第二次世界大戦での敗戦国であり、その後経済発展をとげ、平和で豊かな暮らしをしている点が似ています。他国の時事問題を知ることで、現代社会の歪みに気づくきっかけになればと思います。

パンタローネの動画の続きはこちら:

パンタローネの動画は、You Tube、 instagram、TikTokでみることができます。

https://www.instagram.com/kaminateatro/

参考資料:
https://www.universoscuola.it/sparano-docente-pistola-aria-compressa-insegnante-denuncia-classe.htm
https://www.rainews.it/articoli/2022/11/istat-violenza-donne-femminicidi-famiglia-42c5e092-8d4e-44a7-85a2-b0f52801ff98.html

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