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【悪性リンパ腫・闘病記⑦】嫉妬に狂った愛犬 VS 恐竜になった私

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「うゔぉぉぉぉぉぉぉん!!!!」
「ゔぇっふぇっふぇふぇ!!!!」
「ぐぎゃあああああああ!!!!」

なんて、とても言葉で表現できない呻き声を発している。咳をすればその勢いの強さに身体中が緊張し、咳を我慢すれば私の身体は最大出力の音量で、制御することなく叫び声をあげる。苦しい、息をすることができない。

腫瘍の検査のために全身麻酔手術を終えた私は、1週間の入院を経て退院。検査結果が出るまでの10日間は自宅療養となった。術後の後遺症で空咳が出ることは示唆されていたのだが、それにしても咳が日に日に強くなってくる。退院して4日後あたりから歯止めが効かなくなり、少し態勢を変えただけ、立ち上がっただけで、目眩がするほど咳が出るようになった。

これは明らかにおかしいと思い、一度病院に向かったが「後遺症が強く出てるだけ」と診断を受け、より強い咳止めを処方されただけだった。この薬が全く効かない。徐々に吸い込める酸素の量が少なくなってくる。自分でも一歩引いてしまうような、大袈裟すぎると言われても反論できないような、大きな咳と呻き声。家族、特に母にはとても迷惑をかけている自覚がある。

子供時代に過ごした自室。恐竜が大好きだったので、フィギュアがたくさんある。ティラノサウルスとブラキオサウルスと目が合う。

(咳を我慢して)
「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぶっふぇくええええ」
(脳内で恐竜たちが)
「ぎゃぉぉぉぉぉぉぉんぶおああああ」

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(咳を我慢して)
「くそおおおお、苦しいよ、なんで俺がこんな目にいいいいい」
(脳内で恐竜たちが)
「腹が減ったー!!!!!!!!!」

ここはジュラシック・パークか?と錯覚を覚えるかのごとく、5畳の子供部屋には少なくとも3匹の恐竜が生息していた。しかし、彼らはコミュニケーションを取れてはいない。各々が各々の主張を叫び声という形で発しているだけなのである。

残酷にも、有難いことにも、時間は進んでいく。病院まであと3日、苦しみがピークに達してきた。咳が止まらない、息が吸えない。「背中をさすろうか?」そんなとき、母がファインプレーをしてくれた。胸に湯たんぽを当てて横を向き、背中をさすってもらうと、少し症状が落ち着く。さらに、やはり母と子の関係からか気持ちも落ち着き、眠ることが容易になる。睡眠中は症状が出てこないので、如何に眠るか、が勝負のカギとなっていたのだか、この方法のおかげで光明が見えた。

病院まであと2日。耐えに耐えて夜になった。あとは眠るだけである。母を呼び、背中をさすってもらう。あとは眠るだけ。よし、ウトウトしてきた…。

「くぅ〜ん…キャンキャン!!」

甲高い声が頭に響く。私の実家は、御年14歳にも関わらず衰え知らずで家中を走り回る犬(犬種:パピヨン)がいる。チャーミングな見た目で非常に可愛いのだが、あまりにも家族からの寵愛を受け過ぎた結果か、マイペースなフランスの血のせいか知らないが、とにかく嫉妬深くて自己中心的な性格をしている。そして寂しがり屋。母がいないと眠れないらしく、さらにその母が私の介抱をしているため、嫉妬して吠えてくるのだ。甲高い声が頭に実によく響く。

「キャンキャンキャン!!」
(ねえねえ!息子と僕どっちが大事なの!?そんなやつ放っておいて、僕と早く寝てよ!!)

「ゲホゲホゲホ」

「キャンキャンキャン!!!!」
(ねえ!もう我慢できないよ!僕のこと好きなんでしょ!!もっと、愛を、ちょうだい!!!!)

「ゲホゲホゲホ…」
(こいつこの状況ですごいな…)

出会いは彼が一歳のとき。前の飼い主が不幸にも交通事故で亡くなったらしい。一時的に保護した知人が飼い主の募集をしており、「あと1週間待っても貰い手がいなかったら保健所かな」と私たちに告げた。それはダメだ!とマイホームを建てたばかりの両親に頭を下げ、飼うことを決めた。中学1年生の冬。

あれから13年。餌の時間以外で懐いてくれることはなかったが、まさか晩年に恩を仇で返してくるとは思わなかった。甲高い声が頭に響く。保健所送りになるところを救ってあげたのは誰だ!?と叫びたくなるくらいである。私は最大出力で咳をする。犬は嫉妬に狂って吠える。脳内で恐竜も叫ぶ。ここは紛れもなくジュラシック・パークである。

先週、「僕のワンダフルライフ」という映画を見た。飼い主のことが大好きだったゴールデンレトリバーが、もう一度飼い主に会いたくて、転生に転生を重ねて再会を果たす話。あいつは転生しても会いにきてくれないだろうな。共に喜怒哀楽を共有し、慈悲深く寄り添ってくれる犬を病気が良くなったら飼いたいなと切に思った。

結局、甲高い声の方がストレス値が高いと判断し、母の介抱は犬の注意が逸れる日中だけとなった。あとは時間を進めるだけ。ゲームをしたり、動画を見たりしてなんとかやり過ごし、ようやく病院の日になった。

相変わらず咳が辛い。今日で劇的に何かが変わるとは思えないけど、少しは症状が良くなるといいな。

「緊急入院をしましょう」

腫瘍が気管支を圧迫していた。あと一歩で窒息死だったらしい。

-次回へ続く-

【悪性リンパ腫・闘病記⑧】骨髄生検-結果にコミットする-




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