人に自分の好きな本を渡すのは、なんだかとても上品なことだと思います。選書に人の個性と歴史が出る。これまで沢山の本を薦めてもらい、沢山の本を押し付けてきました。私はあなたにこれを読んでほしい!なんて、正真正銘愛の告白みたい。本棚を見せることは服を脱ぐことに似てるかも。なんだか恥ずかしいですね、きゃっ♡
腫瘍が見つかったとき最初に誰に伝えるべきか悩み、大学時代に一緒に暮らしてた友人に電話しました。
「突然なんやけどな、胸に腫瘍が見つかってな、多分癌やねん」
彼は数秒間の沈黙の後、「友人が病気になると、こんな気持ちになるんやな…」と寂しげに言いました。
「俺には何にもできるのことないねんけど、今読んでる本を贈るわ。吉田松陰の留魂録って言うんやけど…」
さすが共に青春を過ごした同志です。本を贈ることが、時に言葉や手紙よりも強いメッセージ性を持つことを彼は理解しています。素晴らしい友人を持ったなと心の中は拍手喝采。幕末志士の吉田松陰が処刑される前に書き残した遺書や思想をまとめた本らしい。
「ありがとう。タイミングに合わせて絶対読むわ。ちなみにどんな内容なん?」
「ざっくり言うとな、80歳で死ぬ人も20歳で死ぬ人も、生きてる時間の中で春夏秋冬があるのであって、死ぬ年齢は関係ないって話やな」
新たな始まりを意味する春、成長と情熱で突き進む夏、落ち着きと命の終わりを悟る秋、静寂と死を迎える冬。何歳で死のうが、必ず人生には四季があることを彼は伝えたかったらしい。
「それはつまり、俺が27歳で死んでも、春夏秋冬があったはずだから死んでも大丈夫だよって意味か?(笑)」
「いや、違う!けど合ってる…!あー、えーっと、俺は長生きしてほしいねんけどな、でも、大丈夫だよって言いたくてな、なんて言ったらええんやろ、あれ?なんかミスってる?(苦笑)」
本当に不器用で可愛い奴です。きっと、数分の会話では語れないことを、自分の言葉では表現できないことを、本を贈ることで伝えたいと思ってくれたのでしょう。まだ自分は夏くらいが良いな。それか冬を越えてもう一度春が来てほしいな、2週目はありかな?。彼が伝えたかったことを理解するためのタイミングを、ベットから見える棚に飾って見計らっています。
伝えたい言葉は、簡潔でわかりやすくなくて、自分から発せられなくても、きっと、良いのです。