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「チューリップを市場で見かけました!もう一年経ったんだ。最近寒くなってきましたもんね!」
桜が咲く頃には何かの終わりと始まりを感じる。金木犀の匂いが香ると少し悲しくなる。人が、訪れた季節に持つ感覚、これを「季節感」と呼んでみます。冒頭のセリフは、昨年出会った大学生の青年が発しました。美意識が高いイケメンは貴重なので、ある日私は彼を花の世界に入れたいと思い、半ば無理やり花市場に連れて行きました。彼は人生初めての花市場で少し恥ずかしそうに、それでも堂々と、私の感覚では仕入れられない花を持ってきてびっくりしたことを覚えています。
チューリップは一般的には春に咲く花です。入学式や卒業式で学校を訪れると、手入れされた花壇に可愛くまっすぐに咲き誇っている姿を見ることができます。ですが、花市場では早ければ11月から流通が始まり、12月になれば頻繁に花屋さんで見かけるようにもなります。彼にとってのチューリップは、初めて花市場に行った凍えるように冷えた朝の思い出と、これから本格的に寒い季節が訪れることを教えてくれる存在なのです。これが、彼の季節感。
彼にとってのチューリップのポジションは、私にとってはラナンキュラスです。私はこの花を、肌寒いと感じ始めた時期に見かけるようになります。あの幾重にもシルクの布が重なったような華やかな花弁を見ると、哀愁を帯びた時の流れの早さと、今年もこの花と再開できた喜びが心を埋め尽くします。春夏秋冬の四文字では言い表すことのできない、たくさんの季節を花は教えてくれます。
そういえば、今日はクリスマスですね。
花市場ではきっと、大量のモミの木が並び、赤薔薇の値段が跳ね上がっているでしょう。そして虎視眈々と、時が来れば即座に主役の座を奪う為に、少し控えめな立ち位置で待機している正月飾りや門松を見ることができるはずです。その光景を見るたびに、私はもう少しで年が終わることを感じます。赤色に彩られたナンテンの実は、クリスマス?正月?どちら向けの赤色か、いつも笑いながら悩んでしまう。これが、私の季節感。
季節感が一つ増えると、私だけの季節が一つ増える。これが、楽しい。
メリークリスマス!
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