【PAT】フランスのProjets alimentaires territoriauxとは?
こんにちは。池田です🦄🌈
今回は、フランスで今どんどんと押し出されている、Projet Alimentaire territorial (以下PAT) を紹介します。
PATが押し出されている背景
Les projets alimentaires territoriaux (PAT) ont pour objectif de relocaliser l'agriculture et l'alimentation dans les territoires en soutenant l'installation d'agriculteurs, les circuits courts ou les produits locaux dans les cantines. (Qu'est-ce qu'un projet alimentaire territorial ? 2018/3/8, Ministère de l’agriculture et de l’alimentationより引用)
PATは、地域の食料システム構築を国(日本でいう農林水産省)が後押しするプロジェクトです。特に、対象となる地域近郊の農業を活性化させ、地産地消を後押しすることが目的です。直売や学校給食での地域の生産物導入を主な手段とします。
経済的にも社会的にもサスティナブルで、そして環境にやさしい地域の食料システムの構築です。(これまでまとめたローカルフードシステムについての記事がまとめてあります。是非ご覧ください!↓)
ではなぜ、直売や学校給食への地域の生産物の導入が勢いをもって推し進められるようになったのでしょうか?
それはこれまでがひどかったからです。
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(私が通っている大学の食堂の様子:コロナで経済的に困っている学生には1€で一食分の食事を提供しています。)
忘れてはいけないのが、フランスが持つ背景です。
これまで、フランスの学校給食の「生産」は主に大企業が担ってきました。簡単にまとめると、企業側はできるだけコストを抑えた給食を提供し、給食費を徴収しない学校側(特に公立の場合)も、それを喜んで受け入れていたという状況がありました。
市場主義的な考え方が学校給食にも入り込んでいるということですね。
私のフランス人の友人は、小中高と学校給食が本当にまずかった、何の料理かもわからなかったと愚痴をこぼしていたくらいです。
下の写真は、パリ18区の学校給食の写真だそうです。この記事では、生徒の親たちが市長に対して給食の質の向上を求めて署名を集めたという内容が記載されています。
Europe1の記事では、「質の良い給食は可能だ(Restauration scolaire : une cantine de qualité et durable, c'est possible)」と題して調査が行われていました。とても興味深いですね。
このような状況があるがゆえに、フランス政府は、教育における栄養学的な観点からも、社会的な観点からも、学校給食の質の改善が必要だとして対策に乗り出しています。(フランスの食育に関しては、別の回で紹介したいと思います。)
他にも、ローカルやビオ(有機)というキーワードが「パリジェンヌ」をはじめフランス中の都市人口に浸透してきたという背景があります。(AMAP:産地直送の仕組みでも同様の話題を紹介しています。ぜひご覧ください!)
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PATはどのような政策なのか?
では、PAT (Projet alimentaire territorial)はどこで誰がどのようにして進めていくのでしょうか?
まず大前提として、PATは地方自治体単位で主導されていきます。重要なポイントは二つ、①複数のアクターが協力すること、②地域の特色を理解すること、です。DRAAF(Les directions régionales du ministère)という機関が、政府の直属の機関としてプロジェクトをサポートしていく仕組みです。
各プロジェクトは、国として大まかな方向性がずれないように、 Plan régional d’agriculture durable(地域の持続可能な農業計画) や、Programme national pour l’alimentation(国家食料計画)に合致している必要があります。しかし、地域ごとに見てみるとその細かい内容が異なるプロジェクトということになります。
また、フランスには、都市開発に関する計画が多く存在しています。その中には、緑地計画や農地計画等の食料システムに関連したものが多く存在し、これらの計画は地域ごとに管理、更新されています。これらとPATをリンクさせ、より包括的なプロジェクトを作っていくことも可能とされています。(余談ですが、私がフランスの都市・農村開発を学んでいて非常に興味深いと思うのは、この各部門の「連携」が非常に重視されている点です。)
Les actions de votre PAT, répondant aux objectifs du Plan régional d’agriculture durable et du Programme national pour l’alimentation, peuvent s’articuler avec d'autres outils de politique publique territoriale: Schéma de cohérence territoriale (SCoT), agenda 21 local, contrat de bassin, programme régional de développement rural, charte des PNR, contrat de ruralité, contrat de santé local, stratégie touristique, Schéma régional d'aménagement, de développement durable et d'égalité des territoires (SRADDET), etc. (Comment construire son projet alimentaire territorial ? 2017/12/8, Ministère de l’agriculture et de l’alimentationより引用)
各地域のPATの受け取ることのできる支援として、国は多くの財政的なプログラムを用意しています。(プログラムの紹介は省略します。)「これをやりましょう」というだけでなく、資金提供をしっかり行っている点がPATを推し進める力となっています。
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(Comment construire son projet alimentaire territorial ? 2017/12/8, Ministère de l’agriculture et de l’alimentationより引用)
PATでは、複数のアクターの協力体制が必要不可欠とされています。例えば、農家、組合、食品加工業者、流通業者、地方自治体、研究機関、そして市民などです。
これらのアクターは、地域が一貫性をもって発展していくように連携してプロジェクト内の活動を行っていきます。その活動というのが、先ほど出てきた、直売を充実させることや、学校給食の質の向上などの活動ということになります。
また、PATの活動では、このようなロゴを使用することができ、活動の内容を地域の住民に周知することができます。
(Comment construire son projet alimentaire territorial ? 2017/12/8, Ministère de l’agriculture et de l’alimentationより引用)
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ここまでで、PATの大まかな説明を終えたいと思います。
補足ですが、2020年12月の募集では、一次審査を通過したPATは全部で65件、それに対する助成金予算の総額は530万ユーロ強と算出されているそうです。
(France Relance : 65 nouveaux projets alimentaires territoriaux sélectionnés, 2021/3/31, Ministère de l’agriculture et de l’alimentationより引用 )
これからのPATの広がりが非常に楽しみです。
また、このような取り組みがより多くの方の目に留まるようになればとても嬉しいです🌱
次回は、PATの事例を紹介できたらと考えています!
お楽しみに
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池田夏香:パリ第10大学(Université Paris Nanterre) / 地理・都市政策・環境学部(Géographie, aménagement et environment) / 農的な場や地域の振興に関わる分野を専攻しています。(Nouvelles ruralités, agricultures et développement local)
プロジェクト/インターンシップ:イルドフランス国立自然公園における農法の転換と水質汚染改善へ向けたコンサルタント(Consultancy for the sustainable transition of agricultural production systems to improve water pollution in the Vexin-Française Natural Park in Ile-de-France) / インド ポンディシェリにおける地域食料システム構築プロジェクトでのインターンシップ(Research internship for local food system in Pondicherry, India)/ 長野県 岩野地区堤外農地における浸水と農家のレジリエンス調査(Community practices of the Japanese agricultural village: Evolution of factors of resilience and vulnerabilities in Iwano, Nagano prefecture)