【食エッセイ】魔法瓶につめたあったかいミルクセーキ
ある休日、フラッとカフェに立ち寄った時、甘いバニラのような香りがして、ふと小さい頃の記憶が浮かびました。
私がまだ小学生の頃、おばあちゃんが職場から持ち帰ってきてくれた温かいミルクセーキの記憶です。
おばあちゃんは定年をすぎても、地元のボタン工場に働きに出ていました。
おばあちゃんの職場には、カップ式自販機がありました。
自販機にはいろいろな飲み物が並んでいたけれど、おばあちゃんが選んだのはいつもホットのミルクセーキでした。
あの甘くて、ちょっと懐かしい味のミルクセーキ。
おばあちゃんは、その温かいミルクセーキをわざわざ魔法瓶の水筒に入れて、私たち孫3人のために持ち帰ってくれました。
普段家では飲めないミルクセーキに喜ぶ私たちの顔を見るために、おばあちゃんは水筒がいっぱいになる量を買ってくれていたんだろうなと思います。
帰ってきたおばあちゃんが「今日はミルクセーキ持ってきたよ」と声をかけてくれると、私たちは大はしゃぎしていました。
おばあちゃんから受け取った魔法瓶を開けると、ほんのりと湯気が立ち上り、甘いミルクセーキの香りが部屋中に広がりました。
姉妹3人で奪い合って飲んだそのミルクセーキは、大人になってから自分で買って飲むものとは違った美味しさがあった気がします。
おばあちゃんの優しさが詰まったその一杯は、私たちにとって何よりも嬉しいお土産でした。
おばあちゃんが退職するとき、真っ先に思ったことは、
「もうミルクセーキ飲めなくなるのか〜」
あれから20年は経ったけど、今でもミルクセーキを見るとおばあちゃんのことを思い出します。
どんなに時が経っても、おばあちゃんの優しさが詰まったミルクセーキの味は、私にとって忘れられない大切な思い出です。