オフィスに琥珀の爆弾を
さいきん転職したので、十何年かぶりにスーツに袖を通して都会のオフィスに通っている(いうてもまだ勤務三日目だけど)。
仕事はデスクワークだ。
十数名ほどの社員が机をならべ、パソコンをパチパチやる音が聞こえ、電話が鳴り、女性社員が近所のおいしいオムライス屋の話をし、男性社員はゲームの話とかしている。
フロアには置き型お菓子販売の棚があって、集金箱にお金を入れて好きなお菓子を買える。同じ仕組みで飲み物もいろいろある。
あぁ、オフィスワークだ。
そして──カップ麺やインスタントコーヒー用に電気ポットもある。
琥珀色の爆弾を持ち込めるか
ぼくの趣味・特技はコーヒーである。妄執に他者を巻き込みたくて始めた出張コーヒー屋は10年を超える。
そこに熱湯があるならば、手元にはハンドドリップしたコーヒーがなくてはならないのだ。
オフィスで美味いコーヒーが飲みたい。
それに、そこで働く先輩方に無拍子で琥珀の芳香をほっこり喰らわせたい。
仕事をする場所に、それとは無関係に本気で淹れた珈琲を持ち込みたい。
とはいえ、職場に愛用のタカヒロドリップポットやフラワードリッパーを持って行くわけにはいかない。
いや、持って行っても怒られないと思うけど、
「あ、あの人はいまから本格的にコーヒーを淹れるんだな」
と周囲に身構えられると、コーヒーの貫通力が下がるような気がする。
かなざわ珈琲の流法を使う
ではどうするか。
美味いコーヒーをオフィスへ持ち込みたいなら家で淹れていけば良い。
そりゃあそうなのだが、オフィスに電気ポットがあるのに、コーヒーを満載した水筒を持って出勤するのはオシャレじゃない。重くて肩こる。
そこで思いつくのが「かなざわ珈琲」の淹れ方だ。
ハッキリ言ってうろ覚えなので、正式なやり方とは違うかも知れないが、やりたいことはこうだ。
飲みたい杯数分の珈琲豆を用意する(3杯なら35グラム)
時間を計りながら抽出する
通常の3分の1の量までコーヒーを抽出したら止める
(ただし抽出に費やす時間は通常時と同じ2~3分にする)おおよそ通常の3倍濃度(量は3分の1)のコーヒーが出来上がる
オフィスに持っていき熱湯で3倍希釈する
熱湯を加えたことで、飲み頃温度かつ適切な濃さのコーヒーがオフィス内で完成する!!
この方法なら、持っていくコーヒーエキスは3分の1の量なので荷物にならない。
それに、こぶりなタンブラーやコップを持参すれば、少しずつ希釈コーヒーを作れるので、何度も適温のコーヒーを楽しめる。
そして実践する
出勤前、自宅のキッチンで。
ステンレスのくちばしから90℃の湯をドリッパーに垂らし、そこに収まったSanwa Coffee Worksローステッドのパプアニューギニアへアクセスする。
湯にふれた珈琲粉のふるまいを感じつつ、じっくり時間をかけ3倍濃度のコーヒーを抽出した。
そして出勤。
最小サイズの水筒に入ったコーヒーエキスを、タンブラーに少量移し、オフィスの電気ポットから熱湯を注ぐ。
常温だったコーヒーエキスの香りが熱湯によって花開く。
自席にもどって、ひとくち飲む。
置き型お菓子販売の棚で「チョコあ~んぱん」を買い、食べる。
そしてまたコーヒーを飲む。
いい……。
出勤3日目。
雰囲気に慣れるにはまだ早く、連日肩の凝る時間をすごしている最中。
だけど、ひととき家かっちゅうくらいめちゃくちゃリラックスした。