中国人の学生に「あなたの故郷について」の作文を書いてもらった
いまわたしは、日本にいながらオンラインで、中国の外国語大学にて日本語講師―「老師」をやっている。
日本語でいえば「先生」。英語でいえば「teacher」。信じがたい。
画面越しでも、「はい、せんせい」と返事されるたびに、背筋が伸び、作り笑いをしてしまう。少し偉そうな口をききそうになる自分が怖く、勝手に落ち込む。
それでも、最近、学生との距離が少しずつ縮まってきた気がして(これをオンラインで感じとるのは本当に難しい…)本音がいえるようになってきた。
たとえば、以前はスケジュールがハードでも、無理して一人一人に宿題のフィードバックを返していたが、本当にそれが難しかったとき、「忙しくて皆さんからの宿題にコメントを返せていないけど、直すところがある人にはコメントしますね、ごめんなさい」と送ったところ、グループチャットにも関わらず大勢が返信をしてくれて、申し訳なく思いつつ無性に嬉しかった。(もちろん全クラスがこんな温かい反応をくれるわけではないけど)
学生はまだ日本語の五十音を覚えている段階だが、翻訳機やスタンプなどをつかってコミュニケーションをしている。時々中国語の単語で何か話されるのも、自分の勉強になる。総じてありがたい。
さて、授業の内容はというと、「日常会話」と「作文」を担当している。作文の授業は、三年生を対象としており、日本語のみで完結する。(すごい。)会話の授業は一年生向けなので、日本語だけでは難しい。口頭で日本語を用いて説明しつつ、同時にGoogle翻訳に手入力し、学生には中国語を見てもらう、という形で行っている。字幕のような感じだ。
作文「あなたの故郷について」
ここからやっと本題に入るが、今週出した課題の「あなたの故郷について説明してください」というテーマの作文が、本当に素晴らしかったのだ。
全員それぞれ素晴らしいのは勿論だが、特に美しく、はっとさせられるような作文を書いた方がいた。内モンゴルの小さな市出身の、20歳の女の子だ。
※文章は一部改変しています
私の故郷は中国の東北平原にある内モンゴルの小さな市です。故郷の気候は四季がはっきりしていて、夏は特別暑くなくて、冬はとても寒いです。郷里の空気はいつでもすべて特別で清新で、昼間によく青い空を見ることができて、夜に満天の星を見ることができます。
人々は、単純で善良で、純朴な人柄を持っています。もしあなたが道で転んだとしたら、きっと誰かが走ってきて、怪我をしなかったかと心配しながら助けてくれるでしょう。
私の故郷はとても小さく、一周が車で20分の距離です。外食や遊びに行っても有名な場所がいくつかしかなく、友達と電話をしているうちに会えて、街を歩いているうちに知り合いに会えます。
(中略)
私は大都会に華やかな生活があることを知っています。
そして、巡りきれない場所があって、たくさんの人に出会うことができ、また、これまでに食べたことがないような美食を食べることもできます。
しかし、いつでもどこでも、私の心の中には、あの白い月光のような郷里―私を生んで私を育てた地方があります。
内モンゴル自治区の写真
読み終わって、私は映画『初恋の来た道』を思い出した。
彼女はなんて美しい故郷を心の中に持っているのだろう。「白い月光のような」と表現されるその小さな市が、私はもう大好きになった。
大都会に来たことで、彼女は自分の故郷を一歩離れた目線で見ることになった。
しかし、そこで彼女は故郷の経済基盤の弱さや、田舎暮らしの人々のことを、卑下もせず、持ち上げることもしない。
ただ、「白い月光のように、静かに、いつも自分の心の中にある」のだと、説明してくれた。
私は―私の故郷は、どんな場所なのだろう。どこだと言えるだろう。
説明しようと思っても、ざわざわして、彼女のように純粋な言葉にはできない。
とにかく、こんな美しい文章に出会えて幸せだと思った。
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