祖母にもらった「熊みたいな消しゴム」―学生の作文より
今日も学生の作文の添削をしていたら、面白い表現を発見した。
「熊みたいな消しゴム」。
初めに読んだときは、どういう意味だろうかと思った。けれど作文をもう一度読み返すと、作者である女子学生の、愛情に満ちた思い出を知ることができた。
はじまりはこうだ。(文章は一部訂正、省略しています)
中国の家庭では、両親は共働きで、祖父母に育てられることは一般的なことらしい。そして、中国では農村に生まれたら結婚しないかぎり、ずっと農村の出身として生きていかねばならない。都市生まれと農村生まれの間には、かなり待遇に差がある。それを打開するには、教育を受けて、よい成績をとる必要があるそうだ。
また、男女の差もやはり残っていて、その様子は近年中国で流行ったドラマ「都挺好(All is Well)」でも重要な要素になっていた。(家庭内で男児と女児とのあいだに大きな待遇の違いがあること。ちなみにYoutubeで公式に無料で全話みることができます!とっても面白いのでおすすめです)
これは彼女が小学校に入学する時のことだろう。厳しい祖母から、手作りのかばんをプレゼントしてもらい、それが彼女にとって生れてはじめてのプレゼントだった。「抱きついて、手を離すことを拒否した」という部分からは、はち切れんばかりの喜びが伝わってきた。
少し関係がないかもしれないが、別の授業で私に「香バッグ」というものを見せてくれた学生がいた。友達に貰った宝物だと言っていた。
調べてもあまり出てこないので、何か中国語で別の言い方があるのだと思う。
こんな風な素朴で可愛いものだった。私は、「手作りの手芸をプレゼントする」という文化は、どんなに時代が変わっても無くなってほしくないと思う。
初めて編んだミサンガを友達にあげたとき、それを身につけてくれた友達との何か言い表せないような結びつきができた気がした。あえて言葉にするなら、何回でも構築し直すことができる関係だ、というような。
この場面で、おばあさんがくれたという「熊のような消しゴム」。改めて読み直すと、まるで、彼女のおばあさん自身のイメージを反映したような比喩に思えた。
教育に厳しく、強い性格で、少し太めの体格のいいおばあさん。そして、強くて優しい黒々とした母熊のイメージは、少し重なるところがある。
勿論、本当に熊みたいなデザインの消しゴムだったのかもしれない。
または、熊のようにごつごつして、大きくて、黒くて…強そうな消しゴムか。それを想像するだけでも楽しい。
鞄をもらって泣いている孫娘をみて、
「自分が作った鞄が嫌なのか」と尋ねるおばあさんの素朴さ。
「お金があれば新しい鞄を買ってくる」という優しさ。
その通りだ、と私は思った。おばあさんは、いつも守ってくれているはずだ。
そして、手作りの鞄がぼろぼろに擦り切れてしまったとしても、鉛筆を使い切ったとしても、二人の関係はいつまでも変わらないだろう。
「熊みたいな消しゴム」、その面白くて、温かい響きが忘れられない。
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