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白髪先生が、わたしに呪いをかけたんだ
「え〜、だって、なんか、おもしろかったしぃ」
放課後の多目的室。
さっきまで高揚していたわたしは、一気に冷たい冬に取り残されたような気持ちになった。
さっき、ついさっき。
担任の先生から「なつめの作文、文集に載ることになったぞ」と教えてもらったのだ。
静かな職員室の中で、自分だけに光が当たっているような気持ちになる。
中学生のわたしは「え!?わたしの作文が!どうしてですか?」と喜びを隠せなかった。
「選んだのは国語の先生だから。俺は知らないよ」
担任がめんどうくさそうに答えるやいなや、わたしは国語の先生がいる多目的室に走ったのだった。
そして、冒頭の言葉。
なぜ、わたしの作文を選んでくれたのか。純粋な中学生の、真剣な質問だ。
その答えが「なんか、おもしろかったしぃ」って。
ほかに何かあるでしょ?ギャルかよ。
頭が白髪だらけになっている初老の先生。
真面目で、冗談も通じない、地味な人。
なにか、あるでしょ。
「起承転結がきちんとまとまっていた」とか。
「情景が浮かび、共感できた」とか。
なにかあるはず。
国語教師なんだから。その点を伝えるのは専門でしょう?
ほめられると思って息まできらしていた自分がバカバカしい。
しかも、書いた作文は全然おもしろい文章じゃないんだから。
身体障がいのある、犬のはなし。笑うところも、おもしろがるところもない。
なんなんだよ。
ギャルだってもっとまともに答えてくれるよ。
「うちも犬がいるからぁ、うちの犬のことマジ大事にしようと思ったワケ!」
くらい言ってくれるはず。
「わざわざ聞きにいくんじゃなかった!」
とわたしはムッとした顔で多目的室を後にした。
だけど。白髪先生の言葉は、妙にわたしの心に残ったんだった。
例えようのない感情
大人になると、少しずつわかってきた。
例えようがなく、自分の語彙力のなさに笑ってしまうくらい、表現できないことってある。
すごい絵画。
すごい音楽。
すごいパフォーマンス。
すごいものを見てしまい、
「なんか…!なんかさ、なんかすごいよね」
と、なにがすごいんだかさっぱりわからない表現しかできないことがある。
多分、みんなそうじゃない?
例えば、おいしいものを食べて
「あ〜、おいしい!お肉の柔らかさがちょうどよくて、ソースの甘味と酸味のバランスがいいよね」
なんてご丁寧に言えるときは、まぁそこそこ、それなりにおいしいとき。
本当に本当に衝撃的においしいものを食べたら
「うまっっ!なにこれ!?めっちゃおいしい!食べて!」
とか、ね。
ギャルみたいな言葉しか出てこないんだ。
![](https://assets.st-note.com/img/1722842627948-5uw56nemzl.jpg?width=1200)
「語彙力、やば〜〜〜!」
って笑いながら、でも「言葉で表せられないもの」に出会えたことに、感激しちゃう。
ふと、思い出す。
あの、国語の白髪先生。
先生はもしかしたら、わたしの作文に「言葉で表せられない何か」を感じたのかもしれない。
国語の先生になるくらいだ。
きっと生涯で数えきれないほどの文学に触れてきただろう。
教員になるために、どれだけの読み物を分析してきたのだろうか。
教員になったら、さらに。
どれだけの生徒の作文を添削してきたか、きっと数えきれない。
彼にとって、読んだ作文のどこがよかったのかを
理路整然とまとめるのは簡単なことに違いない。きっと朝飯前。
だけど、彼は、わたしの作文に対して、それはしなかった。
「え〜、だって、なんか、おもしろかったしぃ」
と、ギャルになったんだ。
わたしは、多分また言われたいんだ。
「え〜、だって、なんか、おもしろかったしぃ」
って、言われたい。
「なんか」は最高のほめ言葉
誰かに、おもしろがられたい。
理路整然と感想を言われるのではなく
「なつめさんの文章、なんかおもしろいよねー」って。
「なんか」という例えようのない言葉で表される、最高のほめ言葉。
きっとあれをもう1度、いや1度といわず、何度でも。聞きたいんだ。
先生と多目的室で話して以来、もしかしたらわたしはずっと「なんかおもしろい」の答えを探し、
でも答えがなくて、ただただもう1度「え〜、だって、なんか、おもしろかったしぃ」と言われたい呪縛にかかっているのかもしれない。
今なら言える。
ギャルみたいな感想をくれた先生に
「マジで!めっちゃうれしいんだけど!先生〜!ありがとー!」
って。
あの日、多目的室で、中学生のわたしはムッとして怒っていたけど。
でも、同時に「おもしろい」って言われた快感も感じていたんだ。
だから、書く。
わたしは、また読者の語彙力をうばいたいから。
おまけ。
ちなみに、そのときの作文の原稿はもうないけれど。
「確かこんな内容だったな〜」という文章を大人になってから、改めてnoteに書いてみた。
するとnote編集部の「今日の注目記事」に選ばれて、スキが400以上になった。
白髪先生の背中をバンッ!って叩きそうになったよ。
![](https://assets.st-note.com/img/1722842709751-AelPOpT5sK.jpg?width=1200)
多分みんな。
「なんかすごいね」って言われて
「抽象的だなぁ〜、なにそれ」と思いつつうれしかった経験ってあると思う。
その「うれしさ」の中に自分がほんとうに認めてほしいことや、ほんとうにがんばっていること、すきなことが含まれているんじゃないかなぁ。
「なんかすごいね」って言われてうれしかった日の思い出、大切にしたいですよね。