袖摺れに生きる
群馬県中之条町。
教授に言われて町の文化に紐づく言葉の研究をしにやってきた。
実は来たくなかった。
この町では昔から養蚕が営まれてきた。
つまり、蚕がいる。
虫は苦手だ。
公民館に住民が集まっていた。その奥にヤツらはいた。蚕が桑を食べる音が耳障りだ。皆よく平然としていられるな。
おばあちゃんと話をする。自然な会話から言葉を収集するため、絹糸を編む作業をしながら。
おばあちゃんの指が輝く絹糸を編んでいく。その作業の傍ら、話してくれる大事なお蚕さまのこと。それは蚕と袖摺れに生きる生活の全て。
蚕を見るおばあちゃんの眼差しは愛おしさでいっぱいだった。
来てよかった。いつのまにか蚕の音は空間に溶けて気にならなくなっていた。
自分の住む街からたった数時間のところにも知らない文化、人々の生活がある。
そう思うとわくわくしてくる。
出掛けよう。きっとまた素敵なものが見つかるはず。
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