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(本)何様 朝井リョウ

備忘録

咀嚼しながら振り返り。ネタバレ含みます。

▶︎水曜日の南階段はきれい

本物の夢ってなに?
KOTARO:ライブで、みんなの前で、ミュージシャンになることを高々宣言
YUUKO:誰にも言わないで、夢に向けて進んでいる

KOTAROの心情
YUUKOの夢の方が優れている、本物だと感じている。
理由)自分は夢に対する覚悟が甘いから
自分は本当にミュージシャンになるとは思ていない。就職は普通にするだろうと思っている。
なぜ宣言するのか)夢のある自分を守るため。

俺は、夢がぎゅうぎゅうづめになっている教室の中で、とにかく一番大きな音を出さなければ、と、必死だった。自分には夢があるって思いたかった。夢に向かって精一杯頑張っている人間だって、誰かに思ってもらいたかった。あの人ならミュージシャンになれるかもしれないって、そう誰かに思ってもらうことによって、柔らかい、覚悟のない夢を固めていきたかった。夕子さんは違った。ぎゅうぎゅうづめの教室の中で、すり減ってしまわないよう、消耗してしまわないよう、外側からの力で形が変わってしまわないよう、両腕でしっかり自分の夢を守ってきた。

P68

▶︎それでは二人組を作ってください

ひとりになることを怯えて、背伸びして、他人の票をもらえるように身を削る。弱い自分を隠そうとして、自分を満たすことを後回しにして、平気なふりをしたり、自分の好みを蔑ろにしたりする。そうすることでしか安心できない人は、自分の軸をしっかり持ち、自分中心に世界を回す人に振り回される。同じように、他人にへばりつくことでしか世界の流れについていけない、コバンザメのような人とともに過ごすを選択すれば、もっと楽にいれるのだが、そうすると共感性羞恥にさいなまれる。どこかで自分を主役にしないと、一生自縛から逃れられない。自由に泳ぐことができない。

▶︎逆算

納得できるきっかけや理由が欲しいと渇望するが、きっかけや理由は発生を誘発した根源ではなく、発生した後につけたラベルにしか過ぎない。

▶︎むしゃくしゃしてやった、と言ってみたかった

ずっと正しくいようとした人、ずっと我慢してきた人、ずっと努力してきた人、ずっと先生や大人が言ってたことを全部守った人。そういう人が一番褒められるべきなのに、一番賞賛されるべきなのに、なぜか一度道を外れた人と比べられ、相対評価で劣る。一度も失敗していない人より、失敗を経験している人の方が支持が集まる。不条理だ。多少わがままで自分を優先する方が得するように世界はできているのかもしれない。

▶︎何様

完璧じゃない動機で、生ぬるい覚悟で、ここにいていいのだろうか?ここにいて、人を精査する資格があるのだろうか。そう思っているのは、大体自分だけじゃない。どんなに潔白で純粋な気持ちだけが原動力に見える人でも、四六時中誠実でいれる人なんていない。100%は目指すべきゴールじゃない。ほんの1秒の本気を誠実への一歩だと噛み締めて、自分を許してあげよう。

ちょい書き留めたい、印象に残ったこと2つ。

1.仕事ができる人
誰かと誰かの間に入って物事を調整する能力がある人。どちらの気分も害さないように調整できる人。

仕事ができる能力、は、目に見えない。
就活生の頃は自分も、たとえば語学力やプレゼン能力のような、たった一言で伝わるわかりやすい能力を駆使しているのが社会人だと思っていた。
だが、目にみえるわかりやすい能力を発揮する場なんて、社会人生活の中では、ほんの一瞬しかない。その本の一瞬が器用に摘み取られ、企業採用サイトや、雑誌の社会人特集などの真ん中にドボンと落とされてしまう。

p367

ー就活生は皆、国際線の手荷物検査のように、企業に提出する資料の上に自分の持ちうる全てをずらりと並べてくれる。それは当然だ、もちろん自分だってそうだった。あらゆる白い紙に、全日本ラクロス大学選手権大会三位入賞、普通自動車免許と全く同じ形の文字で書き続けた。
なぜなら、学生の頃は、仕事ができる能力とは、文字や数値で表すことのできる、視界に入った瞬間にそれがどんなものなのか判断できる能力のことだと思っていたからだ。
(中略)
だけど、今になって、やっとわかることがある。よく考えれば、手荷物検査だって、最終的に機械の中を通るのは、持ち物をすべて手放した自分自身だ。

p366

2.拳の威力
就活生3人の志望動機の説明の仕方
1)自分の専門分野に無理やりこぎつけて、自分んならこんな風に役にたつという説明。
2)人に惚れたの一点ばり理由に追加し、これまで頑張ってきて成果も出してきたから、受かったら頑張って成果出しますという説明。
3)能力を主張することなく、当事者の視点から、どうしてこの仕事をしたいのかを説明。
誰でも頑張れば手に入る能力の剣を振りかざす人より、原体験から形成された、その人にしかない拳で、真っ直ぐ自分の道を開こうとする人の方が、信頼できる。

▶︎おまけ:好きな表現集

がしがしと玄米ブランを噛み砕くと、「食物繊維」という画数の多い文字が一画一画ばらばらになって胃のなかに押し込まれていく感覚がする。

p78 それでは二人組を作ってください

俺があぐらを描いているベッドに、花奈も乗り込んでくる。そうすると、レモンを口に入れたときに出てくる唾みたいに、エロい気持ちが全身の毛穴からじゅわあって一気に吹き出す。

p204 きみだけの絶対 

田名部さんは、今、むしゃくしゃしている。
そう思った一瞬、私は自分の体のどこかに小さな火が灯ったような気がした。
「むしゃくしゃしているから、こんな、普段ならしないようなこと、してるんですよ」
小さく灯った火の直径が、少しずつ、拡がっていく。
「私も、今日、むしゃくしゃしていたんです」
言葉にした途端、水のように常に形を変えていた感情に、熱い輪郭線が引かれたような気がした。
「だから、こんな風に、田名部さんを家に招き入れられたんです」
私も、むしゃくしゃしていた。
人に迷惑をかけてきたことを誇りにしている東郷晴香に、迷惑をかけてきたからこそ自分以外の誰かのことを理解できるし大切にできるとでも言いたげな栄子に、むしゃくしゃしていた。これが「むしゃくしゃ」という気持ちか、と、その気持ちを掌の上に乗せてじっくり眺めるような気持ちで、むしゃくしゃを存分に味わっていた。
(中略だが、この後もすごく好き)
栄子や東郷晴香のように、衝動のままにしてしまった正しくないことの上に立ったときにだけ見える景色を見てみたかったはずだ。そんな場所にだけ眠っている何かがあるならば、掘り出して、きれいに洗って、つぶさに観察して、その上でそうかこんなものなのかと投げ捨ててやりたかったはずだ。

p312~ むしゃくしゃしてやった、と言いたかった

ギャラ、原稿、落とす。本の数ヶ月前は一度も使っていなかったはずの言葉が、浩介の体からぽろぽろと振り落とされていく。敦弘はあえてそれを拾い集めることをせず、ごつごつとしたそれらに躓かないように立ち回る。

p323 何様

仕事、恋愛、学生時代の悪さ、それに対して何かとブレーキの強い自分。
若さに任せて街でナンパすることができないし、よって暴れることもできない地味な自分。
学生時代、悪さをしていた不良が大人になって急にボランティアに前のめりになったりするパターンをよく見かけるが、行いの善し悪しからすると矛盾しんた印象を受けるかもしれない。
でも、あの人たちは元々アクセルの踏み込みが深くて、ブレーキが緩い人なのだ。だから一旦アクセルを踏み込めば、ものすごいスピードで突っ走っていく。そういった人たちは、人生で経験したことの幅が広く言葉に説得力がある。ような気にさせる。

p405 解説:若林

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