『自殺帳』 春日武彦(晶文社) ~丸ごと矛盾~
『自殺帳』 春日武彦
(晶文社)
精神科医である著者自身がじっさいに遭遇したケースも含めた、ときには凄惨な自殺者たちのエピソードを中心に、自殺について考察しています。
自殺――基本暗い話じゃないですか。
なのに。眼を射るような鮮やかなイエローの表紙はポップなたたずまい。
うっすらとしたふざけ感のあるタイトル。
表紙やタイトルからして、相反や矛盾に満ちていてときめく。
著者は、わからないわからないと言いながら、古今東西の自殺文化というかモード(?)をこれでもかと掘り下げます。その眼差しは、冷たいようでじつは熱い。相反する側面が共存していて、真摯なのにそこはかとない愉快さが感じられます。
自殺についてより深く知ろうとする著者の目線の向こうにあるのは、自殺の防止とかではない。むしろ生を打ち止めにする人々の姿を通して、人間の生について考えています。
私たちは、死にたくなったり面白いこと考えついたり、そのときによって言うことが違ってたりしてて、矛盾だらけ。そして、結局たいていはできるだけ生き続けようとしています。こんな自分たちについての完璧な説明はできない。
この本の全体のつくりや語りそのものが、整合性に欠けた、矛盾だらけで不可解な現実の人間の姿を象徴しているかのように、私には感じられました。
文学についての言及も多く、読みたい本が増えてしまいます。死についての本なのに、読書の楽しみという生きる糧を私に与えてくれる……そんな矛盾というか、ギャップが最後まで刺激的でした。
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