OFFICE TOSHIKI NASU/鍼灸の効果が分からない
鍼灸の効果は人それぞれ違う
はじめての鍼灸治療。
鍼灸治療後に変化について質問すると「効果が分からなかった」という方もいれば「効果を感じる」という方がいます。
同じことをおこなっても、効果に違いを感じる理由はなぜでしょうか。
今回はそのことについて書きたいと思います。
個人差の正体について考える
例えば。
鍼を刺した時に過敏に反応する人、無反応の人がいます。
それは感受性によって異なるのですが、今回紹介したいものは気質についてです。
皆さんは、人の性格(気質と人格の関係)は生まれながらに持つ気質(先天的)、育った環境で育まれる人格(後天性)によって形成されていることはご存じでしょうか?
人の性格は先天的に持つ「気質」がベースにあり、その上に後天的な生育か環境によって育まれる「人格」が加わり、人の性格の全体像が出来上がります。
この先天性の「気質」は大きく分けて3つ「理論型」「感覚型」「行動型」があります。
理論型は何事も根拠や理由が大事な人。理論的、計画的、納得しないと動きにくいタイプ。
感覚型は何かいい、良さそうという感じ方で判断して動く人。まず気持ちが大事なタイプ。
行動型は理論よりも行動が大事な人、考えるよりもまずは試してみたいタイプ。
前回の記事で「イノベーター理論」について書きましたが、イノベーター理論における5つのタイプの背景にあるものもまた、このような気質と人格が影響すると思います。
いったい何の話をしているのかというと「理論型」「感覚型」「行動型」といったタイプによって感じ方が異なるのです。
理論型の人には画像や数値化したものを見てもらうことが大切ですが、「どうですか?」という問いかけは向いていません。
なぜなら感覚的なものは判断基準になく、根拠や理由がないと納得できないからです。
逆に感覚型の人は画像を必要とせず、自分自身の感覚で変化を感じ取ります。
そして行動型の人は結果を重視しており、その結果にある背景を考えることはありません。理論的な説明は求めておらず、効果を感じるか感じないかです。
このような特徴は長く鍼灸師をしていると分かるもので、視線、仕草などの癖、言葉の選択や話し方や口調、カルテの書き方などに現れます。
そして、脈診、腹診、舌診、髪型や髪質、他にも様々な情報から全体像を読み解けます。
さらに私は腕や手の組み方を見て話を組み立てます。
例えば
手左下、腕右下
論理的に捉えて感覚的に処理する人
手左下、腕左下
論理的に捉えて論理的に処理する人
手右下、腕右下
直観的に捉えて感覚的に処理する人
手右下、腕左下
直観的に捉えて論理的に処理する人
なぜここまで把握するかというと、鍼灸は美容とは異なり結果が不透明だからです。
タイプ別に説明方法を変えることで理解しやすいように考えます。
ロングヘアの髪型がショートになれば共通してショートになったことは分かります。
ネイルも赤からピンクになれば色が変化したことは分かりますよね。
しかし、肩凝りで来院した人の肩に硬度計を当てて施術前後の数値が変化したとしても、自覚が消失していなければ納得できません。
そして結果をすぐに求める人においては変化が必ず起きると考えています。
けれどガソリンの入っていない車は動きません。
人間も同じようにエネルギーがなければ変化は生じないのです。
具体的には、人間の神経は電気信号が流れていて、渇きを有していたり、ミネラルが不足していれば神経伝達はうまくいきません。
施術の前後で水を飲む、タイマッサージで足浴からスタートする理由も単に足を洗うことを目的にしているのではなく、温めることで副交感神経を優位にする、体温をあげて施術の効果を高めているのかもしれません。
話は戻ります。
ではなぜ効果を感じないのか。
そのことを少し整理しますので読み進めていただけたらと思います。
「鍼灸が効かない」と判断するのはまだ早い
もちろん鍼灸師の技量は必要です。
しかし実際には患者さんの体の働きが大きく影響します。
その理由は養老孟司氏のベストセラー『バカの壁』で紹介さてている「アウトプットができないとインプットはできない」という部分に隠れています。
一般的にインプット(入力)があって、インターフェース(境界面)があって、アウトプット(出力)があると認識されているのですが、そのほとんどはインプットが出来ていません。
考えてみれば「アラビア語をしゃべれない人はアラビア語を聞いてもわからない」という当たり前のことなのですが、多くの人が「入力さえすれば出力もできる」と考えてしまいます。
例えば、効果という部分をアウトプット(出力)として考えてみると、日ごろからその回路が作られていなければ、インプット(入力)、インターフェース(境界面)、アウトプット(出力)は上手くいきません。
けれど動物や子供に鍼をすると効果が早い。
それは情報を処理(理解・整理・加工・再構築)して表現するまでが早いからです。
先ほどの部分でいえば後天的な生育か環境によって育まれる「人格」が完成されていないからなのかもしれません。
しかし、大人になると過去の経験に囚われるため入力がスムーズにいきません。つまり後天的な生育か環境によって育まれる「人格」が加算されるのです。
下手な鍼灸師だから効果がないのか?
過去に何もない場所や段差でつまずいた事はありませんか?
私は何度かあるのですが、それも入力と出力の誤差であり、感覚では「このくらい足を上げれば大丈夫」という入力が実際には足が上がっておらず躓いて転倒するという結果を生みます。
ちなみに
鍼灸師の上手い下手は経験人数と比例する
そうです。
つまり臨床経験が多いということは情報処理が熟練されているということなのです。もちろん才能での差は生じることでしょう。
さて、鍼を受けても効果がなかった理由。
そのことについて考えていきたいのですが、結果として単に鍼灸師が上手い下手ということで効果を評価することができません。
理由は、鍼灸を受けた人の刺激(入力)が体に必要な刺激として認識できず、反応(出力)できていないからです。
また、加齢などの個体差(体内水分量など)も影響するだけでなく、遺伝情報といった生まれながらのもの、今日までの怪我や病気、事故、出産、飲酒や喫煙、ストレスなどによる疲労の蓄積も入力の妨げになります。
ですから病気を良くすることを目的にしている場合には、自然治癒力を賦活する必要がありますから回復までに時間が必要です。
症状によっては最低でも3か月、6か月、9か月、12か月は定期的に受け、症状が重かったり、自律神経系の症状が出ている場合には週に1回、2回の施術を受けるべきでしょう。
さらにセルフケアとして運動、睡眠や栄養の見直し、自宅での施灸をおこなえば施術を受ける回数も期間も短くなります。
その入力と出力を繰り返せば反応は速くなります。
ただし、今回の記事を書いた理由がもう1つあります。
それは「東洋医学は自分にとっての健康を最初に決め、自分がどこへ行きたいか、目的地を決める」ということ。
このことが鍼灸の効果に大きく影響します。
どのように受けるかを決める
具体的には、東洋医学を受ける際の主体は施術者ではなく自分自身です。
東洋医学は施術者に全てを任せて受けるといった受動的な方法ではありません。
東洋医学は自身が「治る」ために能動的な方法を取る必要があるのです。
「鍼灸を受けて効果を感じなかった」という感覚の背景にはこのような問題が隠れています。
ですから西洋医学を受ける感覚で東洋医学を受けるのであれば誤差が生じます。
鍼灸の効果は目に見えるものではありません。
唾液アミラーゼ測定を前後におこなうなどすれば変化は可視化されるのですが、受診目的はストレスの軽減ではありませんから、自身の治癒力を信じるしかないのです。
そのために「理論型」「感覚型」「行動型」といったタイプによる傾向を理解しつつ、能動的に自らの意志によって目的をもって受けて鍼灸を受けてみてください。
やはり企業に成長ステージがあるように人間の情報を処理にもステージがあります。急激な変化はあり得ず、1つ1つクリアすることが必要なのです。
しかし企業は過程により成熟しますが、人間は時間によって感覚・知覚・認知が衰えますから、評価判断が曖昧なものになります。
1つの答えを出すことは、自分という気質と性格によって左右されるだけでなく、さらに時間の変化もまた大きな影響を与えるため効果の有無を判断基準にするのではなく、目的に対して歩んでいることを理解いただけると良いかもしれません。
「効果」に対する判断は自分が影響することと、西洋医学(対症治療)と東洋医学(根本治療)では目的が異なるため同じフィールドでは評価することが難しいことをご理解いただけたらと思います。
今回はこのようにまとめてみました。
またどうぞよろしくお願いいたします。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?