アントワネス-アントワユーィ1010
大地を動かす群雄の、歴史の途絶えた文言集、諸手で抱えた大空の落し物、宝石の欠けた指輪。俺の手に入れたそれら所望されない宝たちは、今、こうして、幻よりも不確かな、海よりも黒い不快な微笑みとなり、お前の偏屈な視界を占有する。“美しい”という言葉の使い道、見つけられないでいるな? お前はすでに半身埋まっているが、まだ歩けているじゃないか。だからお前は醜いんだ。まん丸い、子供のように無邪気な目、常に何かを持っている両の手。
ただ森に帰ろうとする野蛮人の腕の『車輪』。俺が探していたものは、ただそれだけだ。架空の地図には架空の名前が必要だ。俺はお前の名前を考えている。アントワネス、お前の喜びと苦しみを。
コーン・サンプルHMのハムを牛乳とともに胃に流し込み、アントワユーィはポケ◯ンをしていた。ポ◯モンは色とりどりの桜の教科書で、人はそこにある名前の言葉をどの遊戯よりも熱心に覚え、生き生きとした表情で唱えて回る。詩人である。私たちが見たことないものの名前を呼ぶとき、それは歴史に素通りされた創造性の木霊であり、繰り返される反抗の一振りなのだから、アントワユーィは誰に知られずとも自然と活気付き、自らのポケ◯ンを次々とゲットしていったのだ。もう何匹目だろう、この言葉。
この新しい街にも歴史が必要だ。俺たちが時間を忘れて探し回った才能は、誰の瞳にも映りはしなかったが、思えば、それが答えであった。ああ、俺は、不幸にも、お前の見事な痴呆の歴史を作り上げてしまったのだ。笑うことも怒ることも不自然なお前の瞳から失われた肌の色。
この新しい才能にも使い手が必要だ。アントワネス、お前の喜びと苦しみが同時に入った玻璃(はり)の箱。中の言葉が透けて見えるこの美しい機械、真っ黒い地図ーーお前の悔恨に違いない。
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