【あの子の子ども】原作漫画を一気読み!ドラマとの違いも織り交ぜた感想
この夏、ドハマりしたドラマ「あの子の子ども」。最終回まで走り抜けて原作漫画を読み返したくなったので、ついでに感想も書いておこうと思います。9巻分の感想を一気書きしたのでだいぶ長くなってしまいましたが、お付き合いいただけると嬉しいです!
ドラマの感想は⇩
まず、最初のコンドームが破れるシーンですが、漫画はドラマよりもっと生々しいです。でもその生々しさがリアルでした。
漫画とドラマの大きな違いとして、漫画では福の兄(幸)の存在感が大きいという点があります。家族の中で福の妊娠に真っ先に気づいたのは、実は幸でした。そして、すぐさま福を産婦人科に連れて行くんですよ。20歳前後の男子としてはかなり対処能力高いのでは?と思いました。ちゃんと宝も一緒に連れて行くところが高ポイント。でも最初っから中絶前提なのはマイナスポイント。
福が妊娠したかも…となった後、宝が「高校卒業するまではするのやめよう」って言ったのも偉いと思います。昭和から平成にかけての未成年の妊娠を描いた作品は彼氏がクズなことが多かったことを考えると革新的かも。
そして漫画の福はドラマの福と比べるとだいぶ甘ちゃんです。妊娠が発覚しても他人事なんですね。宝に言えば宝が全部なんとかしてくれると思ってるんですよ。特に1〜2巻あたりの福は見ていて本当に心配になります。
「あの子の子ども」では、中絶方法の詳細、中絶する場合のリミット、産む場合に取れる選択肢、妊娠が発覚してから考えないといけないことなどが分かりやすくまとめられています。それでいて読み物としておもしろいのがすばらしいと思います。最初の2巻だけでも学校の図書館とか保健室に置いてほしいくらい。
そして、巻末に性教育に関する対談や産婦人科の先生へのインタビューが入っているのもいいんですよ。親や先生には聞きにくい性的なあれこれについて、正しい知識が得られるいい作りだと思います。そして、1冊550円と安めの価格設定なのも助かります。10代の子が手に取りやすいようにしているのかなと思いました。
しかし、ストーリーとしては傷つくような展開が多いのもたしかです。漫画の方は宝母への妊娠バレが最悪のタイミングなんですよね。そして宝母の対応も最悪なんですよね。宝母が大学時代に中絶していた話はドラマオリジナルだと思っていたんですけど漫画にも出てきてました。でも伝え方が...!伝え方がドラマと全然違う...!冷たい...!
幸もドラマと比べるとだいぶ冷たいんですよ。理想論と正論で詰めてくる感じ。でも、色々わかっているようなことを言うけど、幸は幸でまだ大学生なのでね〜。わかっているようでわかっていないんじゃないかと思いますけどね〜。
あとドラマと比べると漫画の方が産む決心をするのが早い気がします。ドラマでは出産周辺のことはほとんど触れられていませんでしたが、漫画は出産までの過程もしっかり描かれていて、どちらかというと出産の方に重きを置いている感じがしました。
一読者としても、福が産婦人科で検診を受けるたびに学ぶことがたくさんありました。HPVワクチンを打っていても子宮頸がんの検診は必要だよ、とかね。妊婦のカフェイン摂取も1日に1〜2杯ならOKなんですね。(これはいろんな主義があるやつかもしれません。)何より、スタッフの誰も福の妊娠を責めていないのが素敵でした。
一方、福父はドラマの何倍も最悪です。福の話を一切聞かずに暴走し、福が言うことを聞かないとわかると、コートも着てない妊婦を見知らぬ土地に置き去りにする始末。さらには拗ねて単身赴任先に帰っちゃうわ、福の電話は無視するわ、大人げない対応を取りまくります。ドラマの福父はだいぶマイルドにされてたんですね〜。
逆に、山田先生はドラマよりも漫画の方が温かみがあります。「今優先すべきは母体と子育て!それ全部落ち着いてからやり直す方法はいくらでもある!」というのも、「妊娠していることが広まると、全校生徒の好奇の的に晒されてボコボコにされる。本人のためにもその前に辞めさせろ」というのも、学校の先生から出てくる言葉として正しくはありますよね。そして山田先生は子育て経験者なんだろうなとも思いました。
沖田先生はちょっと理想論に寄っていて、あんまり妊娠出産の現実をわかっていないような気もしました。でも沖田先生が理想を諦めなかったことで、もしかしたら数年後の高校は変わるかもしれない、という期待もしてしまいます。高校生妊婦や大学生妊婦をサポートできる学校ができてほしいけど、できたらできたで学生の妊娠を助長するのはいかがなものか?などと反対する人が現れるだろうなとも思います。
そして、漫画では、宝は今通っている高校を卒業して大学進学、福は通信制に転学という進路を選ぶのですが、妊娠初期の福は「自分ばかりいろんなことを諦めるのは不公平だ」とヒステリーを起こしてしまいます。それに対して宝は、「将来のことを考えると行ける方が学歴を得ておくのが合理的。俺は妊娠できないから仕方ないじゃん」って言うんですよ。そう、その通り、その通りなんですけど、私が当事者でも男ばっかりずるいって思っちゃうだろうな思いました。
こんなこと考えたくないけど、もし宝が嫌になって逃げちゃったら福は学歴もないシングルマザーになっちゃうんですよ。それはリスクが大きすぎるなと思います。高校生で妊娠してしまうと、どうしても女の子の方にそのリスクが付きまとうんですよね。
宝もなにも考えずに「自分は進学するけど福は卒業を一旦諦めて」って言ってるんじゃないんですよ。妊婦の扱いに慣れていない学校で福の身に何かがあったら心配だから、とか、世帯単位での稼ぎを増やすために大学卒業資格がほしい、とか、福と子供のことを真剣に考えた結果の決断なんです。だから責めるに責められないんですよね...。このモヤモヤは男性からするとわがままだって思われるんでしょうか...。
でもこの後、「自分がしっかりしなきゃ、福と子供を守らなきゃ」というプレッシャーで自分を奮い立たせている宝に、福が「どうして宝が守る側で私たちが守られる側なの?」って言うんですよ。「男だからって誰かに守られたり頼ったりしちゃいけないわけじゃない、支え合っていこうよ」という言葉は、日本に根強い「男性らしさ」という呪いを解く言葉だなと思いました。
そして家族の誰にも祝福されなかった妊娠を、宝のおじいちゃんが初めて喜んでくれるんですよ...。おじいちゃんが「ひ孫ができるの楽しみ、早く抱っこしたい」と言ってくれるシーンには泣けました...。
どうしても未成年の妊娠を取り扱ったドラマって、妊娠発覚あたりが1番尺が長くて、出産は最終話でチョロチョロって感じなんですが、本当に知りたいのは妊娠から出産までの過程だと思いませんか?1番不安なのってそこじゃないですか?漫画の方は、その出産までの過程を丁寧に丁寧に描いてくれています。
定期的な妊婦健診や、妊娠中の身体の変化や、両親学級の詳細や、出産のリアルや、出産後の体のボロボロっぷりまで細かく描写されているので、このまま教科書として使えるのでは?と思いました。パートナーが妊娠したら全男性に読んでもらいたいです。
あと、ドラマではポンコツだった幸は、漫画ではかなり自我を出しています。福の出産に反対ではありながら、時には父と福の間に入ったりもしてくれて、なんだかんだ頼れるお兄ちゃんです。おそらく福の子供が生まれたらデレデレの伯父になるタイプではないかと。
一方で福父はドラマの数倍モンスターでした。自分に都合のいい選択肢だけ提示して福に選ばせようとするし、家族の行動は全部自分の思い通りになると思ってるんですよ。
子供の立場からすると、単身赴任で家にいないお父さんってあんまり家族感がないというか、なかなか身近に感じられないと思います。
お父さんの立場からすると、家族のために必死で働いてきたのに自分が家を空けている間に家族が全く違う形になっていた、という事実がショックなのはわかります。でも!コミュニケーションの取り方が!圧倒的に!だめ!終いには「子供が流れればよかったのに」とか言いますからね。福の代わりに私がしばくぞ!と思いながら読んでました。
そんな福と福父の戦いは、結局福の方が折れたことで何とか収まりました。お父さんより福の方が大人なんですよ。それがちょっと切なかったです。
その後、福父は宝と福との間で子どもに関する契約を公正証書として残させようとしますが、これは福だけじゃなくて宝のためでもあるというところがよかったです。
宝が父親として逃げられないようにというのはもちろん、福が宝に子供を会わせないということもできなくさせるわけです。ここはフェアだなと思いました。
一方、宝母は話し合いの余地が全くなくてつらいです。もう完全に息子と縁を切る構えで、その決意は揺らいでいないように見えました。自分の理想の道から外れるような息子はいらないということなんでしょうか...。それとも厳しくするのも愛情みたいな...?
福は学校で妊娠が噂になって散々嫌な思いをして転学にまで追い込まれたのに、宝は学校でチラッと噂になっていたものの、全く支障なく学校生活を送れているのはちょっとグロテスクでした。これは男女の差なのか、それとも通っている学校の偏差値の差なのか...。
両親学級での宝は父親のお手本すぎてさすがです。18歳でこの仕上がり...恐ろしい...。全ての男性が宝ならいいのに...。
その後、福が出産間近になって出会った妊婦友達のライムちゃんを通して、福がいかに恵まれているのかを改めて突きつけられたのは非常に痛かったです。
ライムちゃんの話は番外編で詳しく深掘りされるんですが(番外編はおそらく10巻(https://amzn.to/4gXz67P)に収録されるはずです)、それがまたしんどくてね...。でも、未成年の妊娠ってライムちゃんみたいな状況の子の方が多いんだろうなとも思ってしまいました。だからこそ、未成年の妊娠を助長するようなコンテンツや制度が増えると良くないと思う大人も出てくるのかもしれません。
でも、妊婦の福がライムちゃんを助けようとするのは無謀すぎる...。どうにかしてあげたい気持ちはめちゃくちゃわかるけど、今、福は他の人を救っている余裕はないわけで。でもここで福がライムちゃんを見捨てちゃうとライムちゃんもお腹の子も最悪の事態になりそうな気もして。答えのない問いにぐるぐるしました。
福の代わりにライムちゃんに会いに行ったものの、結局スルーした幸は冷たく見えるけど、妹を守るための選択肢としては正しい気がしました。でも福と会えなかったことがライムちゃんにとってのトドメになっていたとしたらと思うとゾッとします。幸は、その恐怖を福に味合わせないために、ライムちゃんを見捨てた後味の悪さを自分1人で引き受けることにしたんですよね。最終的にはひとりで引き受けきれなくて宝を共犯にしちゃってましたが。
「福のことをすごく心配しているのに、この気持ちを福はわかってくれない」と拗ねちゃうあたりはまだまだ子供ですが、いつか幸も親になった時に、この時の宝と福の気持ちが本当の意味で分かるのかなとも思いました。
孫課金したい福母は可愛かったです。これが孫を溺愛する祖父母の気持ちか...!と思いました。生まれたら福父も幸も同じ感じになりそうだなと予想中。きっとみんなメロメロになりますよ。赤ちゃんにはそういう魅力があります。
幸が38週で生まれたことを福父が覚えていたのは意外でした。ちょっと歪なだけで子供への愛情がないわけじゃないんですよね〜。福の出産を「娘の晴れ舞台」だと言うそのセンスも結構好きです。
そう思うとやっぱり福はめちゃくちゃ恵まれているんだと思います。ライムちゃんの事情を知るとより一層そう思います。
そしてとうとう出産!福は破水から始まりましたが、これもおそらくいろんなパターンがあるのではないかと。出産直前の母体に何が起こっているのか、どんな経過を辿って赤ちゃんが生まれるのか、出産後の母体はどうなるのか、などが細かく描写されているのがとてもよかったです。こういうのが知りたいんですよ!
福に付き添うつもりの宝に、「とりあえずまだ産まれそうにないからバイト行ってきて」って言える福にはちょっと涙が出ました。10ヶ月かそこらで随分強くなったね...!
それにしても陣痛が12時間とか続くの怖すぎませんか?長い人は2〜3日かかることもあると聞きますが、その間にごはん食べたり寝たりトイレ行ったりもしないといけないわけで…。そして会陰切開!怖い!
福の「初めてことなのになるほどこれが陣痛だっていうのは身体が知ってるみたいだった」という記録が印象的です。母親ってすごい。女の人って偉い。しかも産後1ヶ月で性生活再開できるのもやばくないですか?出産であちこち裂けたり広がったりしてるのに、1ヶ月経つと女の人の体ってもう次の子供を妊娠する準備を始めるんですか?人体の神秘すぎませんか?
「そろそろ産まれそうだ」という連絡が宝の祖父から宝母へと入っている描写が少しだけありましたが、宝母は孫が産まれるというその知らせをどんな気持ちで受け取ったんでしょうか。いつか宝が宝母と和解できる日は来るんでしょうか。本当なら宝母だって孫課金したいはずなのに。
無事に福が出産して、一緒にお昼寝してる妹と姪を見ながら福兄がスマホを構えているシーンには鳥肌が立ちました。ああ、2人がかわいくて写真撮ってるんだなと思いきや、ライムちゃんらしき人が赤子を捨てたニュースを見ていたとは...。そんな急降下ジェットコースターあります...?
福と宝のこれからは希望と幸せに満ちている、でも、その裏で子供を殺してしまう母親もいる、というのがまざまざと突き付けられる最後でした。
かなり取っ散らかった感想になってしまいましたが、「あの子の子ども」本当におもしろいのでぜひ漫画も読んでみてください!11月には番外編が読める10巻も出ます!
(追記)10巻読みました!最終話!最終話めちゃくちゃいいので絶対読んでください!福が産んだ子が17歳になってます!そして子供増えてます!宝と福が離婚せずに仲良く続いているのも嬉しいし、宝が実母と和解したっぽい描写があるのも嬉しかったです。大団円だ〜〜!!!
最後に妊娠SOSのリンクも貼っておきます。ライムちゃんみたいな女の子が1人でも減りますように。