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第170回(2023年下半期)直木賞候補作を全部読んでみた

直木賞発表の日までには間に合いませんでしたが、今回も直木賞候補作6作を全部読んでみました!

相変わらずレベルの高いものばかり集めているなという印象で、どれが受賞作となってもおかしくない出来栄えだったと思います。

中でも私が特に好きだったのは「まいまいつぶろ」(https://amzn.to/3OTe7qn)です!


「なれのはて」 加藤シゲアキ

イサム・イノマタという無名の画家をめぐる重厚な社会派ミステリです。

情報は1枚の絵だけというところから始まり、少しずつイサム・イノマタにたどり着いていく過程に興奮しました。胸を打つ結末も見どころです。

マスコミの報道における忖度などにも切り込んでいて、芸能界で仕事をしている身でこの描写を入れているあたりにヒリヒリした緊張感を感じました。ミステリとしての完成度も高く、ページを捲る手が止まりません。

「ともぐい」 河﨑秋子

明治時代の北海道を舞台に、山で猟をしながら暮らす男の人生を描いた大作です。

猟のシーンがとにかくすごかったです。犬を連れ、猟銃と山刀だけで熊と戦う主人公。雪山の静かさと息遣いさえ感じられる動きの描写は手に汗握る臨場感がありました。

獲った獲物を解体するシーンや熊に襲われた猟師を治療するシーンなど、ひとつひとつの出来事の描き方も緻密で、主人公の人生をすぐ側で見ているような気分になります。

「襷がけの二人」 嶋津輝

大正から昭和にかけて、主人と女中という関係で人生を共に過ごしてきた2人の女性の物語です。

当時の女性ならではの悩みや苦しみが痛いほど伝わってくる小説でした。年齢も過ごしてきた時間も全く違う2人の女性の間で紡がれる不思議な絆に胸が熱くなることしばしば。

大正時代の最新台所事情や芸者の仕事について詳しく描かれているところもよかったです。気が合う人と出会える人生って、相手が異性だろうと同性だろうと幸せなことだなと思える物語でした。

「八月の御所グラウンド」 万城目学

京都を舞台にした青春スポーツ小説です。

全国高校駅伝に出場することになった女子高生と、借金の方に草野球大会に駆り出された大学生のそれぞれを主人公に、2つの物語が描かれています。

どちらもちょっと不思議で、胸にじわっと染み入るような話でした。

また、物語のあちこちに京都ならではの地元ネタが仕込まれているのが楽しかったです。ストーリーの最初から最後までうっすら存在する意味のわからなさに「鴨川ホルモー」(https://amzn.to/4csYVcw)を思い出しました。

読んだ後、人におすすめしたくなる本です。

「ラウリ・クースクを探して」 宮内悠介

ソ連時代のエストニアを舞台に、独立運動に巻き込まれた少年少女の青春を描いた小説です。

生まれながらにプログラミングの天才だったラウリ・クースクという少年の半生を追いかけていくという形で物語が進んでいくのですが、ラストには驚きの事実が明らかに...。

どこの国で生まれたかということだけで、友達と友達でいられなくなる恐ろしさとままならなさに胸が苦しくなりました。

「まいまいつぶろ」 村木嵐

生まれつき半身に麻痺があり、発する言葉も不明瞭だったと言われている徳川九代将軍家重と、そんな家重の言葉を唯一聞き取ることができた重臣、大岡忠光。2人が共に歩んだ36年の物語です。

十分に将軍足り得る頭脳を持っているのに、障害があるばっかりに幼い頃から家臣からも弟たちからも蔑まれる家重ですが、忠光との出会いが彼の運命を変えます。

そこからはもう涙涙の連続で、誰に対しても心を砕く家重と、そんな家重の心を誰よりも慮り続けた忠光の関係に胸を打たれました。

長子にも関わらず後継として圧倒的に不利だった家重が、必要な時に必要な人物に出会い、結果的に将軍の座を射止めた、この強運こそが為政者に相応しいという描写にはなるほどなと思わされます。

最後に

今回の直木賞候補作もおもしろい作品ばかりで、私ならどれを受賞作に推すかな...などと考えながら読むのが楽しかったです。

やっぱり直木賞は歴史物が強いですね。候補作に選ばれるものも歴史に絡めたストーリーが多いような気がします。受賞作以外の作品もおもしろいことは保証しますので、ぜひあれもこれも読んでみてください。

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