綾野剛さんの新規オタクが映画「影裏」を観た話。
梨と申します。
MIU404からコウノドリ、カラオケ行こ!と綾野剛さんの演技に魅せられ沼り、もうすぐ2ヶ月になるオタクです。
今回は気になっていた映画「影裏」を観ました。
主人公、今野秋一(綾野剛さん)が慣れない地、岩手県盛岡で日浅典博(松田龍平さん)と出会い、時を共にする中で心を開いていく。けれどある夜を境に二人の交流は途絶えてしまい、次に日浅の話題を共有したのは日浅に金を貸しているが行方不明、もしかしたら死んでしまったかもしれないという同僚の知らせだったー。日浅の本当の姿は何だったのか。というお話。
心が泣いた!!!!!!!!!
最後の結末にスタンディングオベーション!!!
特に今野秋一の健気さ、映像の美しさ、綾野剛さんの演技にですね…
沼落ちして間もないオタクが語るのも烏滸がましくなりますが、綾野剛さんの役者さんとして凄いなと思う一つが、
本当に同じ人が演じてる?綾野剛さんって何人いますか!???となること。
それだけ役作りを徹底しているのだと容易く想像できるし、憑依型以上の何かを感じる。
いくつか作品を観てきたけど、ほんとに凄い役者さんだぁぁぁぁ…
映画「影裏」に話を戻すと、動きも言葉も少ないしっとり、しとしとした物静かな映画で、台詞ひとつをとってもその発言をした意図、心意、背景は明確に描かれていない事が多い。なので視聴者が解釈できる余韻がたっぷりある。
だからこそ気になって考えてしまう。頭に残る、残る。
人間が他人に意図して隠すトコロ、影や裏を見せてくる日浅。表裏一体という四字熟語が頭に浮んだ。日浅の影裏な部分を知った今野は日浅を信じるか信じないか、それとも。
普段観ないジャンルだったけれど、演者さんのファンじゃない方にもおすすめしたい美しい物語でした。
注目ポイントは舞台となる岩手の自然の美しさ、水の音の心地良さ、そして綾野剛さんの美しさ
(オタクなのでしっかり主張する)
声を大にして言いたいのが
「儚げ健気系男子、今野秋一がツボすぎた」
「植物を愛でる系男子、今野秋一が可愛すぎる」
「自然って、美しいね」
「日浅よ、わざと今野を傷つけないで・・・!」
「今野秋一の未来に幸あれ!!!」
以上です。
というのは冗談だけど(けどほんとに終始、今野秋一は美しく可愛かったよ)オタクと言えども履修スピードが亀な私、今回は映画「影裏」(2020年)を観た記録文(兼今野秋一くんへの愛と日浅典博氏へのツッコミ)をつらつら書いていく。
ネタバレたくさん。全て書いていくスタンスゥ、になってしまった。
(そしてあわよくば視聴された方の解釈が知りたいです、影裏のお話がしたい)
(時系列に沿って思ったことを書いているので、まとめは目次から)
(主題ではないですが背景に主人公、今野がLGBT当事者だったり2011年3月11日の震災があり)
▪️出会い、育み
時間軸は2009年夏から2010年2月頃まで。
この映画、途中で時系列が変わるので最初は少し分かりにくかったですが、一応小さく○年前と示されているので安心。序盤は2011.3.11後だけどすぐに2009年の夏へ遡る。
今野の日常を切り取ったシーンが多い。それが最高に良い。
初っ端から度肝抜かれました。
(ぁ、ぁ、ぁし、あし・・・!!!!!)
こんな感じ。映像美よ。
パンツ一枚で寝て起きて、まずはジャスミンの鉢に霧吹きをしたり、ワイシャツに丁寧にアイロンを掛けたり…映像がそれはそれは美しい。パンツ一枚でジャスミンの鉢を愛でる今野は撮影の芹澤明子さんのこだわりだそうで。ありがとうございます!!!
今野の日常の覗き見の数々、エロを意識しないことはできません。
霧吹きしたりアイロン掛けたり忠実だなと思う面もあれば、部屋着の半ズボンが雑に脱ぎ捨てられていたり若干寝汚かったりと人間らしさが見えるのも大好き。
今野は1人、埼玉の本社から縁のない岩手に転勤してきて数ヶ月。
慣れない地で自分から人間関係を深めていこうとするタイプではないけれど、会社の禁煙エリアで煙草を吸う日浅を注意するために声を掛けたのが始まり。
真面目で良い子な今野秋一くん、素敵。
翌日のジャスミンを愛でる今野秋一くん、最高に美しすぎませんか?
(アンニュイな雰囲気、寝起きの色気、色素の薄い綺麗な瞳)
午後、物品倉庫で作業している今野に後ろから目を塞がれ「だーれだ?」と声を掛ける日浅。悪い男だ…だーれだ?されてる今野は可愛い。
その後、昨日の禁煙エリアに場所を移し日浅と立ち話し。(缶コーヒーを中々開けられない可愛い今野秋一くんから目を離せません)またしても日浅は煙草に火を付け注意する今野、その時別の同僚に呼ばれた日浅に吸いかけの煙草を渡される。
煙草を捨てるため、缶コーヒーをがぶ飲みし(膨れたハムスターのような頬、可愛いね)空になった缶に煙草を入れ捨てる。
次のシーン、自然が始めに映るのですが水の流れる音ってなんでこんなに耳心地良いんですかね。綺麗な川が流れる地で暮らしたことがないのでこの映画を観ていて何度も盛岡に行ってみたくなった。
郵便受けを開けると埼玉本社時代の元同僚、皆川からの一家四人の写真がプリントされた暑中見舞い。皆川は本社から長野に出向し、その地で夫婦となる人を見つけ会社を辞めその地に居を構えてる。後のシーンでの元恋人との会話中、皆川の話になった時の今野の発言、心情を思うと切なさで胸が苦しく…
医薬品の営業である今野、呼び出されてクリニックでの仕事を終えると外はまあまあの雨、車に乗り込むだけでもびしょ濡れに。(お仕事お疲れ様です)
帰宅してズボンを脱いだら真っ先にジャスミンちゃんを部屋へと避難…好きになったものに愛情深い今野の性格、大好きだ。
そんな時ドアをしつこく叩く音、正体は激おこ回覧板の次の人、鈴村さん。付箋で以前ドアポケットに入れてってお願いしてたもんね、鈴村さん。
今野はすみませんと小声で謝りますが、その後「若ぇもんは〜」とお決まりの台詞(若ぇもんが言われたくない台詞ランキング入るやつ)で文句を言って、今野の手を前に揃えさせ髪をわしゃわしゃとして軽く頭を叩き(後のシーンで鈴村さんはが元教師と分かるからその名残りを出すための演出なのかな)帰っていく。
ドアが閉まった後、タン、タン…と音(杖の音の擬音語って、なんだ)がして確認すると辛そうに階段を上る鈴村さん。今野くんは二度と回覧板を郵便受けに入れない。
翌日なのかな、ジャスミンが部屋にいる。
実家から届いた桃をがぶりと大胆に食べながら元同僚の皆川に暑中見舞いの返事を丁寧に書く今野。ジャスミンは皆川から譲り受けた模様。年々減っている年賀状や暑中見舞い文化(特に職場)、中身の詰まった文から惰性でやり取りしている訳ではないと想像できた。控えめな性格の今野だけど、人嫌いではなくむしろ人と繋がりを持つのが好きな人間だと伺える。
慣れない地で一人、積極性がない今野、そんな時に人の懐に入るのが上手く気さくな男、日浅と出会ったら心開いていっちゃうよね。
暑中見舞いを書いてソファで寝こけていると、チャイムが(噂の日浅、初訪問)。手土産の日本酒を注ぎながら雑談、日浅は春にあった山火事現場の焼け跡を見てきたと言う。(重い瓶の底に手を添える今野、優しいね)
知り合いの消防隊員に聞いた話だと「消した傍からどんどん燃え広がってどうしようもなかったって」と声がはずむような日浅に、なんと返したら良いか戸惑う今野、原因は墓参りの線香と告げる日浅、純粋に驚く今野、あんな小さい火が山三つ焼いちまうんだからなあと恍惚とした表情をする日浅。今野はそっかあとだけ言いこの話を切り上げる。
対照的な二人。日浅は破滅や崩壊といったことに食指が動くようだ。
日浅、わざと今野が戸惑うようなこと言ってるでしょう?
ソファと床で寝てしまって、中途半端な時間に起きてしまう二人。代行呼んで帰ると言う日浅。雑談している最中に大学生の時東京にいた四年間で東北訛りが消えちまったという日浅の後に今野の表情に切り替わる場面、今野の台詞はないですが「そうかなぁ?」と思ってそうに見えた。
休日に釣りに行く二人。慣れない今野に教える日浅。
(趣味の共有って素敵ですよね。自分一人だと手を伸ばそうとしなかった事を教えてくれる人が現れて、その人とその先どうなろうがその趣味を好きになったら自分のもの。誰が教えてくれたかっていうのはただの事実であって継続できる理由ではないと思うんよ)(唐突に最後のシーンを観た時の意見)
水の音が良い〜〜〜川に入りたい〜〜〜
蝉の音も映像で聴く分には良い音。
釣ったニジマスを上手く移せずに逃してしまう今野。
何故こんな所にニジマスがいるのかと調べようとする今野に、知らんままでいるのも悪くねぇと言う日浅。
出勤日、段ボール解体を手伝う今野。女性たちに段ボール解体を頼られ「段ボール課長」という渾名でいじられる、表の顔は社交的で人好きのする日浅。話題の標的が移って今野がたじたじになりかけると女性たちを注意する日浅。ちょっぴり嬉しそうな今野秋一くん可愛いね。
そして日浅含め同僚たちと一緒にさんさ踊り(毎年八月上旬開催)の練習をする今野、にこやかで楽しそうで大好きな映像。知らないことを素直に純粋に吸収できるのって美徳ですよね。
で再び釣りのシーン。休日に一緒に釣りをして時間を共有する二人。
その後は今野が寄りたいと言った本屋に入り、次は映画を並んで鑑賞する二人。ただ一人、涙している今野(笑い声は映画の声だよね?悲しくないシーンで泣いているのかなと思うと切ない)
そして居酒屋でカウンター席で肩を並べ、バーで向き合いながら話す二人。
この映画、今野は日浅に友情以上の想いを抱いていき持て余すのですが、それがいつからと撮っていたのかと推測すると、この時点で既に日浅に好意を抱いていると思いました。
バーで日浅を見る今野の表情よ。艶やかすぎない?
そして盛岡に出向になる前にやめたはずの煙草を、見向きもせずに空き缶に捨てていた煙草を吸うではないか。感情が育っている。
気になる人、好きな人と同じことしたいよね。
八月上旬、さんさ祭りを一緒に見る今野と日浅。
帰り道、アルコール片手に覚束ない足取りで楽しそうに帰る二人。休みの度に一緒にいるね。
車で迎えに来た日浅に道中で取った柘榴の実を渡される今野。物珍しいよね。昔、自分の家の裏にもあったなと言う日浅。
今野に渡した柘榴を半分に割ってあげてまた渡して、日浅は自分の方を齧って硬い食べられない部分?を吐き捨ててみせるけど、今野は真似出来きずに実を一粒ずつ口に入れる。それを笑う日浅。日浅は今野が持ってる柘榴を取ってまた大胆に食べてみせ、ガブっといけよと促して漸く今野は齧り付くことが出来た。(しかもおそらく日浅が口をつけた方に齧りついている)
桃は大胆に齧り付く今野だけど日浅の前だとね、躊躇しちゃうよね。
こういう対比の映像好きだ〜、軽率にむず痒い気持ちになる。
と勝手に浸っていたら日浅の「人間の味がするからな」の言葉。一瞬困る今野(この流れ前にもあったな)昔近所のお年寄りに言われた、そうやって子供を揶揄って暇を潰していたんだ、と話のオチはあるのですが。
日浅、わざと今野が戸惑うようなこと言ってるでしょう?(二回目)と思う訳です(分からなくも無いけど)
ドライブ中の二人の楽しそうな笑顔、尊い。
と思ったら雪が降り積もる冬、同僚から「物流課の日浅、辞めたってよ」と前触れなく日朝の退職を知った今野。足早に物流課に向かい、日浅のことを(段ボール)課長と呼んでいた顔見知りの同僚女性、西山さんに声をかける。
やはりそこには日浅は居ない。
「皆さんの顔を見たくて寄ったんですよ」と日浅みたいな事を言う今野秋一くん、切ない。
この映画を最後まで観て思ったのですが、今野秋一くん、感情が昂ると急に舌が回るようになるんだね。
私用の携帯を持たないと言った日浅に連絡することもできない。
近くにいてもふとした瞬間に遠く感じていた日浅が物理的にも遠くに行ってしまった。
洗い物をしながら日浅を思い浮かべる今野、この映像が美しくて少し怖い。静かに怒ってるから怖い。私なら感情に忠実に従って行動すると食器くらい投げている笑
今まで日浅と共に過ごし、惹かれて、戸惑ってしまう発言にも笑顔で返してきた純粋な今野に黒い絵の具が垂らされたような。
今野の日浅への思いの中で影裏な部分がやっと描かれたようなワンシーンだと思いました。
(そりゃあそう、あんなに仲良くしてたのに一言も言わずに退職なんて怒泣)
▪️再会
雪がとうに解け、2010年夏。
一人でも釣りをする今野。もうすっかり手慣れた姿。いいね。
お久しぶりの鈴村さん。回覧板の次の人。階段を上がると鈴村さんが英語のシャドーイングをしている声が聞こえる。そっとドアポケットに回覧板を入れ立ち去る今野。物語を進めるにあたって必要不可欠ではないご近所付き合いの日常だけど、繋がって、切れることもあるけどまた新しいものと繋がってっていう人の暮らしが感じられていいなぁと思います。
読書をしていると窓ガラスを叩く音。
日浅ぁぁぁぁ!
「よ!挨拶がてら寄ってみた」と転職先の名刺を渡す日浅。半年近くぶりの再会ですよ。
人生の二大セレモニー(結婚式・お葬式)、互助会への加入の訪問型営業。岩手支社内で一位の会社からの賞状を今野に見せる日浅。(最後のまとめにも書きますが、この賞状本物ですか?と思ってしまいました。疑い出したらキリがない男、日浅典博氏)
これまでの今野がいる会社では、出世のない物流課にいた日浅、営業職の手応えを語る。ある老人は礼状を送ってくれて「こちょがしいような気分」と言う日浅。くすぐったいという意味の主に東北の方言。
聞いてる今野は複雑そうな表情で反応が鈍い。(そりゃそうだ半年近くぶりだよ泣)寝起きか?じゃないよ日浅〜!
そして嵐の夜。
酒片手に日浅訪問。映画で描かれている二回目にして最後の宅飲み。
にこやかな今野。釣りの話に花を咲かせる二人。釣りにハマっている今野に意外そうな日浅。終始楽しそうに話して、眠ってしまう二人。
夜中、ソファで目を覚ました日浅は床で眠る今野の胸元に蛇がいることに気付く。(唐突の蛇で驚いたよ)
今野、今野と声をかけられてうっすらと目を覚ました今野、日浅は蛇を掴み外に投げ今野を助けてあげる。どこから入ったかなと言っている日浅に対し、黙ったまま放心状態の今野。
大丈夫かと近付いてくる日浅に気持ちが溢れてたまらずキスをしてしまうー。
ウウッッッッッ泣泣泣
(焚き火シーンの台詞に繋がる、絶許)
拒否する日浅、謝る今野に寝るぞと言い、後悔する今野。今野は床ではなく寝室で再度眠りにつく。翌朝、空のソファに帰ったかと思いきや外で煙草を吸う日浅。今野が一人見つけたポイントに連れてけよと釣りに誘う。川の水は濁っている。
(拒否したのも翌朝普通に接するのも何もかも前戯なんでしょうと思ってしまった)
目的地までの道中、苔がついたミズナラの倒木を見て「死んだ木に苔がついて、また新しい芽が出る。屍の上に立ってるんだよ俺たち」と言う、今野困らせたがり日浅(三度目)。ポイントに進もう、とその話を避ける今野を鼻で笑う。
着いたら餌泥棒と呼ばれるウグイばかりで、場所変える?と日浅を伺う今野に対し機嫌が良さそうに悪くないと言ってみせる日浅。
日浅、落として上げてを見事に実行してくる男です。
ある夜、申し訳なさそうに契約が足らなくてと互助会に入ってくれるよう頼む日浅。今日中に取らないとと言って逃げ場をなくし、お前しかと頼れば引き受けてくれると分かっている確信犯。なんたって自分に好意がある相手ですからね。
思うところはあるはずですが、互助会良いなと思っていたと気丈に振る舞い契約する今野。用が済んだ日浅は足早に去っていく。
部屋での今野の横顔、今野がいる部屋やアパートを見向きもせずに車で走り去る日浅、部屋から出てきてその姿を見送り、共用部に落とされた吸い殻を拾う今野。
あまり使いたくない言葉だけど健気通り越して普通に可哀想だった。
(もちろんフィクションだと分かっているけど映画ドラマ、その作品が好きな程感情移入するオタク、現実にいたら友達だったらと考えて、傷つくだけだと言いたくなるけど第三者が言ったところでなんだよね。自分で折り合いをつけないとだから焚き火シーンの今野の判断、映画の結末にはすっきりでした)
▪️焚き火、別れ
日浅から着信があり鮎のガラ掛け、焚き火して塩焼きにしよう、朝まで飲もう、契約の礼だと誘われる。
ところがどっこい。
今野が用意したテーブルセットに「ママゴトかよ」の言葉。誘ったのは日浅なのにスーツ姿。今野が被るボンボンが付いたニット帽を「ゴムみたいで気持ち悪い」と。何その例え!!!?最悪だけど言われてみればそう見えてしまう秀逸な例えよ。駐車位置にも文句を言い、非難の嵐。
今野からしたら意味わからないよね。流石の今野も辛そうに声を荒げる。
気を取り直してガラ掛けに挑戦する二人はさっきの険悪な雰囲気は消してるけど、焚き火の最中に再熱。
「焚き火ってのは闇雲に押し倒すんじゃなく、焦らすように育てないと。前戯が上手くないとイケないな」
日浅ぁぁぁぁ、わざと今野を傷つけないで泣
たまらずキスして迫ってしまった今野を下手くそだと嘲笑い、更に上げて落として焦らして今まで仲違いせず今野から契約を取れたのが上手い前戯の手本だと言ってるように聞こえました。(個人の解釈です)
溢れそうになる涙を拭う今野。そんなことまで言って何食わぬ顔で酒を渡そうとする日浅に帰るよと初めて拒絶を見せる今野。良かった。自分の身を守れるのは自分だけだ(何目線)
変人通り越して狂人だな、と今野に言うけど、日浅さん。その言葉、ブーメランでは。
一旦離れたかと思いきや酒を追加で持ってきて今野に見せるけど帰るんだよと酒を断る姿勢を貫き、日浅から離れる今野。この焚き火シーン、日浅の表情が今までになく長く映る。初めて自分に見せた今野の拒絶に日浅は何を思ったのか。
この映画、「日浅が今野をどう思っていたのか」が、公式から正解がないんですよね。
個人的な解釈だと、今野の拒絶に日浅はちょっとした哀しみと落胆があったのではと。そこまで期待していた訳じゃないけど堕ちてこれるなら自分のところまで堕ちてきて欲しかった。自分の身を守るための今野の拒絶は日浅からしたら逃げだったのでは。今野をキレイな奴と思ってしまうからこそ、懐いてくる今野を時に憎からず思い(契約のためだけだとしたら前戯が長いんよ)、時にうっとおしくなり、時に傷つけたくなり…
離れて塩焼きを食べる二人。
「知った気になるな。お前が見てるのはほんの一瞬、光が当たった所。人を見る時はな、その裏側、影の一番濃い所を見るんだよ」
そうだよ日浅!君だって今野の裏側知らないでしょー!と肩掴んでぶんぶんしたくなってしまった。(誰も知らないけど)
日浅氏、だいぶ自分が汚いやつで今野はキレイなやつと思っていますか。
ここで地主、井上さん登場。
日浅、今野が用意した(バタ臭い言ってるから)ピクルス?を非難し、井上さんからの酒を断る今野を下戸だと言う。
これが二人の最後って、やるせな泣
帰宅して昼間送られてきていた元恋人、副嶋(中村倫也さん)からのメールを見る今野。出張中の副嶋が滞在するホテルに向かう。
この二人のシーン凄く好きなんですよね。
気が抜けたように笑う今野、良い関係だったんでしょう。いつ受けたの、と。副嶋は性転換手術を受けた元男性らしい。中村倫也さんの女装姿、綺麗すぎる。
暑中見舞いをくれた元同僚、皆川の話になり、本社に戻る辞令を蹴り出向先の松本で家族を作った皆川に対して「俺はあんな風になれないな」と言う今野。(ところでここの低く絞り出すような綾野剛の声、好きすぎます)
ここ気になったんですが、
部屋まで送り、部屋に入る副嶋に「気をつけて(東北から)帰れよ」と言った後に今野、自分で「うん、気をつけて(今いるこのホテルから)帰る」って言ってる?それとも副嶋がありがとうって言ってるから「気をつけて帰って」って言ってるのか、耳が悪すぎて分からない…
廊下で別れのハグをする二人。
副嶋の「また煙草始めたの?」に「長続きしなかったなぁ」と返す今野。
これめっちゃ切ない。事情を知らない副嶋には禁煙が続かなかったなと聞こえるだけだけど、今野は日浅によって再開した煙草が長続きしなかったなと言っている。
日浅を思い出す今野の息遣い。声以外の音でも揺さぶってくる。
▪️知らなかった顔
時は経ち2011年3月11日後。
日浅と向き合うために痕跡を辿っていく今野。
まずはきっかけとなる映画最初の続き。帰宅時に物流課の西山に呼び止められて喫茶店で日浅の話を共有する。
西山は家族分の互助会の加入まで頼まれ金も貸している。半年以上の時間をかけ日浅から搾取されていた。
見えてくる日浅の裏の顔。
震災の被害にあったかもしれないと知りうつ伏せで苦しそうに目覚める今野。
自分が見ていた日浅は何だったのか。
どこまでが一瞬光のあたった作り物で本当はどれなのか?
愛する人を信じたいけど信じきれない。
綾野剛さん出演の「怒り」もだけど人を信じるということから生まれる悲しさ、信じることの難しさよ。他人の全てを分かることはできないし、見ていた面と180度違う面を持っている人もいる。
疑心暗鬼する中で苦しくても日常は進む。鈴村さん、再び登場。元教え子の娘の震災にまつわる記事が掲載されたと歩くのも辛そうなのに新聞をご近所に投函していく。
西山さんとの金銭が絡む知らない顔。
人好きする顔は井上さんと共有出来ず。
父親から知る学歴詐称、金銭の騙し取り。
日浅の父親(國村隼さん)との演技のシーン、息を呑んでしまった。折り合いをつけている父親の表情。顧客でもある、という今野の言葉にピクリと動く眉。昔の自分のように日浅を信じてしまった今野を哀れに思ったのでしょうか。
(卒業証書偽造の脅しの電話、それも日浅の差し金では?となってしまった。疑い出したらキリがない男、日浅典博氏再び)
縁を切ったという父親に食い下がるけど(感情が昂り舌が回る今野②)覚悟を決めている父親になす術はない。
(けれど日浅の子供の写真飾ってあったりという矛盾ではない線引きの表現が凄く好き、大人になった日浅本人にも侵せない思い出として父親の中に残っている描写、泣ける)
再び日常の覗き見。鈴村さん…
父親の次は兄に会う今野。
幼い頃に突然母親の死を目の当たりにしたことが今の日浅を形成した。
日浅の痕跡をなぞる中で知らない顔しか見えてこなかった今野、兄へ問い、些細なことだけれど日浅が教えてくれた柘榴の木は本当にあったのだと分かる。
帰宅した今野。郵便受けの中に互助会からの封書を見つける。この封書の前にも書類が届いていた。日浅からだと勘付き慌てて書類を探す今野。
焚き火以降連絡がなかった日浅が、自分に何をしたかったか。
そこにはプラン変更の案内が。現在の契約から三倍の積立金が必要な結婚式をグレードアップするというラグジュアリープラン。そして日浅の直筆のサイン。
咽び泣く今野。
この時どう思っていたのか。
第三者からしたらオープンでない今野に、しかも自分に好意を持っていた今野にラグジュアリープランは残酷じゃない?最後までお金?仕事のために使う?と思うが、今野は日浅のサイン、日浅が確かにいたという物的証拠を見て泣いてるかもしれない。
けれど個人的には父親が卒業証書偽造の脅し電話をきっかけに縁を切ったと言うように、柘榴の木の話に続いて、この事がきっかけで日浅への執着を手放すための涙だったのだと思った。
信じるか、信じられないかという事から、日浅から解き放たれて時間とともに日浅を思い出として昇華できればと願ってしまう。
何度も読んだ納得しかない必読なインタビュー、綾野剛さんが焚き火シーンの今野を「信じられないくらい女の子だった」と例えていて凄く言い得て妙だなと思うんですが、この日浅の痕跡をなぞり、プラン変更の書類という物的証拠が解放されるキーとなる姿が特に、多勢な男女カップルにおける女の子側が主にする失恋の乗り越え方だなと個人的に思った。
▪️まとめ
冷静になると書き過ぎでは(一万字超え…)となるけど…ここまでお付き合いありがとうございます。
今野の失恋、その辛さ痛みを思い出に昇華し前を向いて歩いていく物語。
映画「影裏」好きすぎて感情が昂ってしまう。
日浅を思い出と昇華し、たまに思い出しながら前に歩いていってる今野に拍手喝采です。
出会い、別れ、また出会い、私たちの日常に密接してる事柄だからこそ感情移入しやすいし、昂るし、言葉が少ないからこそ考察したい欲が煽られまくりました。思い出すことと未練があるということは別かなと個人的には思う。
投げやりではなく「日浅がどんなであってもいいや」と、「そういう顔があるのは事実、けれど一緒に過ごした楽しい時間も事実」と折り合いがつけられたからこそ、三年後さんさ祭りにも行けるし新しい恋人と釣りも行ける。
苔が付いた倒木を見て日浅の言葉を思い出す。
「死んだ木に苔がついて、また新しい芽が出る。屍の上に立ってるんだよ」
過ぎ去った人を思い出にできて、死んだ木があるからこそ新しい芽が出てくる、前に進める。
日浅に教えてもらった釣りを新しい恋人に教える姿、エモすぎる。普通にあることなんだよね、元恋人に教えてもらった曲を好きになって新しい恋人とシェアしたり。
この最後のシーンが一番緑が濃く、差し込む光が美しく清々しかった。
全体的にこの映画水の表現が多く時に荒れていたり濁っていたり日浅と今野の関係、日浅の感情を表していたのかな。
出向は通常三年の会社だったはずですが、新しい恋人の親と来週会うと約束する今野、「俺はああいう風には(皆川のようには)なれないなぁ」と言っていた今野秋一くんが!!!泣
もしかしたらこの先ラグジュアリープランを使うかもしれないと幸せな妄想も出来てしまう。
新しい恋人にも「だーれだ?」される今野可愛い。
ニジマスが向かう先を見つめる今野、ニジマスがどこから来たのかは謎のまま。
・永遠の謎、日浅は今野をどう思っていたか
今野を傷つけた日浅、キャラクターとしては嫌いではないです。最後まで観てハピエンと思えたからこそ言えるけど、日浅典博、おもしろい男!
堕とそうと思えばどこまでも堕とせてしまう日浅氏。今野に西山のように金を無心しなかったのは憎からず思っていたとも捉えられるけどそれも計算の内だとも思えるし。岩手支社一位の賞状も偽造かもしれないし、本物かも。父親への脅し電話も日浅の差し金かもしれないし。(皆さんの解釈知りたいです)
まあ誰しもが持っている影裏な部分、自分はそれが人一倍以上も濃い自覚がある日浅氏、今野のような人から好かれたら知った気になるなと言いたくなるのも分かる。キスせれた翌朝、日浅の心情を表すように川の水は濁り切っていた。
今野も自己肯定感高い方ではないと思うけど日浅も大概自分はこうでしか生きられないないと自己肯定感低いし、日浅を嫌ってるのは日浅の影裏に被害にあった人よりも日浅自身となのが、救いがない。救われたいと思ってないだろうけど泣
日浅にはお兄さんが言っていたようにどこででもいいから生きていて欲しい。
映画「影裏」凄く大好きな映画作品の一つになった。
出会わせてくれた綾野剛さん、制作に関わった全ての方ありがとうございました!
今野秋一の未来に幸あれ!!!
(次の綾野剛出演作品、何観ようかな〜)
影裏や綾野剛さんについて一緒に話してくれる方、大募集です!!!
Xでももちろん大歓迎です!