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私の生き方

 玄関の前に立つと、深呼吸をする。緊張は頭の廻りを鈍くさせる。体を大きく伸ばし、力を抜く。改めて荷物を確認し、準備が整うと、チャイムを鳴らす。

「はい」

 扉が開き、中から年配の女性が現れる。

「あら、お待ちしておりましたよ、どうぞ」

 そうして手招きされるままに、お邪魔します、と小さく伝え、中に入る。

 ばたん

 扉の閉まる音が、なんだか鮮明に耳に届いた。

 案内されるままに、というほどの広い空間はなく、玄関から台所を抜けると、すぐに部屋があった。勧められるがままに座布団に腰を下ろす。女性はお茶を用意すると、真向かいに座った。

 女性は両手で湯呑みを持ってお茶を飲むと、穏やかな笑みを浮かべながら私を見つめている。私は妙に片づいて何もない部屋を ちらちら 見ながら、動作不良を起こした機械のように固い動きしかできず、お茶を飲むこともできなかった。

 呼吸がなんだか、落ちつかない。

 ここに来るまでに、頭の中で何度も反芻しながら臨もうとしていたのに。いざ、目の前に来ると ぎくしゃく うまく頭が働かなかった。

 しばし、沈黙が流れる。

 女性のほうから、何かを話すこともなく、催促もなく、落ちつき払った態度で私を見つめ、待っているようであった。

 ーーあの、……

 私の耳にすら届かないような消え入りそうな声で、つぶやく。それは、声にすらなっていなかったかもしれない。それでも女性はその声に反応し、湯呑みをテーブルに置いて、うなずくと、改めて私の瞳を見つめ直した。

 大きく、大きく、息を吐くと、意を決して

「あの、本当に、すべてを、手放されてしまうのですか?」

 ようやく、伝えることができた。

「はい、その通りですよ」

 少しの躊躇もなく、少しの間を置くこともなく、初めから質問がわかっていたかのように、即座に答えが返ってくる。

 あまりのはやさに、目がくらみそうになる。

 ーーそう、ですか……

 それは、声になっていなかったかもしれない。

 それでも女性は、にこやかな笑みを崩すことはなかった。

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